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第2章 『祖父の写真』
第23話 大切にしたかったもの
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広場まで戻ると、クリスさんは早速、見つけたベンチに腰を降ろした。
そうしてポンポンと左右の座面を叩き、私たちのことも招く。
流されるまま、私はクリスさんの左側へ、そして善利さんは、幾らかの隙間を空けて右側へと座り込んだ。
「善利さん、貴女は当時、おじい様の真横にいたのですから、もう少し近くへ寄ってください」
優しく微笑みながら、クリスさんが手招く
「えっ……は、はい、失礼します」
善利さんは少し恥ずかしそうにしながらも、言われた通り少しだけ近付いた。
分かる、分かるよその気持ち。
このふんわり笑顔と綺麗さには、ちょっと近寄り難い雰囲気があるよね。
「さて――では善利さん、失礼いたしますね」
そう言うとクリスさんは、返答も聞かないままに善利さんの身体を引き寄せると、そのまま自分の膝の上へと頭を降ろさせた。
「えっ、く、来栖さん…!?」
善利さんは分かり易く動揺してしまった。
わなわなと震えながら、ぶつけどころのない羞恥心に、両手が宙を舞う。
「もう、大人しくなさってください」
「そ、そんなことを言われても……せ、妹尾さんも何か言ってください…!」
「え、うーん……羨ましい?」
「じ、冗談言ってる場合ですか…!」
「うそうそ、ごめんなさい。そうじゃなくて、クリスさん、要はそれが、善利さんが写真を撮った姿勢だったってことですよね」
「ごめんって……えっ、そ、そうなんですか……?」
少し遅れて、善利さんも事態を把握したらしく、宙を舞っていた両手が落ち着いた。
見上げながら聞き返す善利さんに、クリスさんは温かな笑みを向けた。
「当時、どのような椅子をおじい様が持って来ていたのかは分かりかねますけれど、これがヒントその四の答え。きっと、これが善利さんの見た景色――そして、貴女の『思い』が現れた瞬間だったのです」
そう言いながら、クリスさんは今一度スマホを手渡した。
画面は既に、カメラモードになっている。
スマホを受け取った善利さんは、風景を映す為の方向へと向けた。
その、瞬間のことだった。
「あっ……」
善利さんの小さく呟く声が聞こえた。
それを見守っていたクリスさんは、ますます優しい表情になった。
「そう。それこそが、貴女の撮った写真。おじい様へ向かう貴女の気持ちが、そのまま形となった写真です」
「そう、なんだ……でも、何でこんな……」
「ともすればそれは、意図せず撮られたものだったのかも知れません。疲れか眠気か、あるいは全く別の理由からか。その気があったのか無かったのかも分かりません。けれど貴女は結果的に、苦手だったことを出来てしまっていたのです。おじい様は、その時の気持ちを大事にしたかったのではないでしょうか。これを見ると、いつだって貴女の想いを受け取れるから、と。貴女が唯一度『甘えてくれた』瞬間の、その時の気持ちを大切にしたかったから」
「だから、こんな写真を……」
「ええ。ご不満ですか?」
「……いいえ。これ以上ない答えです」
答える善利さんの声は、少し震えていた。
そんな善利さんのことを慈しむように、クリスさんは横になった善利さんの髪に優しく手のひらを乗せた。
そうしてポンポンと左右の座面を叩き、私たちのことも招く。
流されるまま、私はクリスさんの左側へ、そして善利さんは、幾らかの隙間を空けて右側へと座り込んだ。
「善利さん、貴女は当時、おじい様の真横にいたのですから、もう少し近くへ寄ってください」
優しく微笑みながら、クリスさんが手招く
「えっ……は、はい、失礼します」
善利さんは少し恥ずかしそうにしながらも、言われた通り少しだけ近付いた。
分かる、分かるよその気持ち。
このふんわり笑顔と綺麗さには、ちょっと近寄り難い雰囲気があるよね。
「さて――では善利さん、失礼いたしますね」
そう言うとクリスさんは、返答も聞かないままに善利さんの身体を引き寄せると、そのまま自分の膝の上へと頭を降ろさせた。
「えっ、く、来栖さん…!?」
善利さんは分かり易く動揺してしまった。
わなわなと震えながら、ぶつけどころのない羞恥心に、両手が宙を舞う。
「もう、大人しくなさってください」
「そ、そんなことを言われても……せ、妹尾さんも何か言ってください…!」
「え、うーん……羨ましい?」
「じ、冗談言ってる場合ですか…!」
「うそうそ、ごめんなさい。そうじゃなくて、クリスさん、要はそれが、善利さんが写真を撮った姿勢だったってことですよね」
「ごめんって……えっ、そ、そうなんですか……?」
少し遅れて、善利さんも事態を把握したらしく、宙を舞っていた両手が落ち着いた。
見上げながら聞き返す善利さんに、クリスさんは温かな笑みを向けた。
「当時、どのような椅子をおじい様が持って来ていたのかは分かりかねますけれど、これがヒントその四の答え。きっと、これが善利さんの見た景色――そして、貴女の『思い』が現れた瞬間だったのです」
そう言いながら、クリスさんは今一度スマホを手渡した。
画面は既に、カメラモードになっている。
スマホを受け取った善利さんは、風景を映す為の方向へと向けた。
その、瞬間のことだった。
「あっ……」
善利さんの小さく呟く声が聞こえた。
それを見守っていたクリスさんは、ますます優しい表情になった。
「そう。それこそが、貴女の撮った写真。おじい様へ向かう貴女の気持ちが、そのまま形となった写真です」
「そう、なんだ……でも、何でこんな……」
「ともすればそれは、意図せず撮られたものだったのかも知れません。疲れか眠気か、あるいは全く別の理由からか。その気があったのか無かったのかも分かりません。けれど貴女は結果的に、苦手だったことを出来てしまっていたのです。おじい様は、その時の気持ちを大事にしたかったのではないでしょうか。これを見ると、いつだって貴女の想いを受け取れるから、と。貴女が唯一度『甘えてくれた』瞬間の、その時の気持ちを大切にしたかったから」
「だから、こんな写真を……」
「ええ。ご不満ですか?」
「……いいえ。これ以上ない答えです」
答える善利さんの声は、少し震えていた。
そんな善利さんのことを慈しむように、クリスさんは横になった善利さんの髪に優しく手のひらを乗せた。
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