琵琶のほとりのクリスティ

石田ノドカ

文字の大きさ
上 下
39 / 76
第2章 『祖父の写真』

第22話 戻りましょうか

しおりを挟む
「ヒント三つ目。それは、どのようなカメラを用いてあの写真が撮られたか、ということです」

「カメラ……種類ってことですか?」

「はい。これが分かってしまえば、答えに辿り着くのはとても簡単です。順を追って説明致しましょう」

 クリスさんは指を立てていた手を下げ、風景の見える方へと歩いた。
 私たちも、ただその背を追ってついて行く。

「二人分の椅子を持って来ていたこと、写真の位置だと目線がとても低いこと。現状、これらはまず間違いなさそうです。いいですね?」

 クリスさんの言葉に、私たちは頷いた。

「では、四つ目のヒント、カメラの種類――これについては、当時買い換えたばかりだと言っていた、おじい様の『スマホ』でまず間違いはありません」

「スマホ……そう言えば、そんな話もありましたね。でも、確かデジカメも持って行ってたって言ってましたよね。何でデジカメじゃなかったんでしょう」

「それはきっと、以前から家にあった、馴染みのものだったからでしょう。お気に入りのデジカメ、と言っていたくらいですから、おそらくデジカメは使っていなかった」

「どうしてですか?」

「善利さんはこうも言っていました。『子どもらしい好奇心はあったけど』と。当時の小四女子の目には、スマホはとても珍しく、面白そうなものに映ったはずです」

「そっか、すっかり馴染んだデジカメより、見た事も触ったこともない、スマホに興味を持ったんだ」

「はい。では、そのスマホでどのようにして撮られたか。そこで、二つ目のヒントにも答えますが、善利さんはおそらく、おじい様のすぐ真横に座っていたのではないでしょうか」

「えっ、真横……?」

 思わず驚きの声を上げる私の隣で、善利さんも同様に難しい表情を浮かべていた。
 少し考えれば、後ろや前にいるよりかは説得力はある。後ろからなら善利さんの写真が特別だとは思いにくいし、前からならそもそも変なものが映り込むこともないはずだ。
 それは分かる。分かるけれど、だからと言って、どうして断言が出来るのだろう。

「クリスさんはこの写真に写るものが何か、分かってしまってるんですね」

 恐る恐る尋ねる私に、クリスさんは優しく微笑み、頷いた。

「お店にいる時から、何となくその可能性は感じていましたが、道中のお二人の会話から、結論付けても不思議はないような答えは出ています。せっかくですから、実演しつつ答え合わせと参りましょう。ベンチのある広場まで戻りますよ」

 そう言って、先導し歩き始めたクリスさんの後を、私たちは言い知れないモヤモヤとともに追いかけた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

薬師シェンリュと見習い少女メイリンの後宮事件簿

安珠あんこ
キャラ文芸
 大国ルーの後宮の中にある診療所を営む宦官の薬師シェンリュと、見習い少女のメイリンは、後宮の内外で起こる様々な事件を、薬師の知識を使って解決していきます。  しかし、シェンリュには裏の顔があって──。  彼が極秘に進めている計画とは?

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜
キャラ文芸
アラサー真っ只中の隅田川千鶴は仕事に生きるキャリアウーマン。課長に昇進しできない男たちを顎で使う日々を送っていた。そんなある日、仕事帰りに奇妙な光に気づいた千鶴は誘われるように料理店に入る。 しかしそこは、普通の店ではなかった――。 麗しの店主、はぐれものの猫宮と、それを取り囲む十二支たち。 彼らを通して触れる、人と人の繋がり。 母親との確執を経て、千鶴が選ぶ道は――。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

みちのく銀山温泉

沖田弥子
キャラ文芸
高校生の花野優香は山形の銀山温泉へやってきた。親戚の営む温泉宿「花湯屋」でお手伝いをしながら地元の高校へ通うため。ところが駅に現れた圭史郎に花湯屋へ連れて行ってもらうと、子鬼たちを発見。花野家当主の直系である優香は、あやかし使いの末裔であると聞かされる。さらに若女将を任されて、神使の圭史郎と共に花湯屋であやかしのお客様を迎えることになった。高校生若女将があやかしたちと出会い、成長する物語。◆後半に優香が前の彼氏について語るエピソードがありますが、私の実体験を交えています。◆第2回キャラ文芸大賞にて、大賞を受賞いたしました。応援ありがとうございました! 2019年7月11日、書籍化されました。

検索エンジンは犯人を知っている

黒幕横丁
キャラ文芸
FM上箕島でDJをやっている如月神那は、自作で自分専用の検索エンジン【テリトリー】を持っていた。ソレの凄い性能を知っている幼馴染で刑事である長月史はある日、一つの事件を持ってきて……。 【テリトリー】を駆使して暴く、DJ安楽椅子探偵の推理ショー的な話。

処理中です...