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第2章 『祖父の写真』
第19話 影の正体……?
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善利さんは、三十分ほどこの辺りで何枚もの写真を撮っていた。
けれど、撮ったそれらを確認する度、違う、違う、と小さく呟いていた。
私も何とかそれらしい膨らみやヒントになりそうなことはないかと探していたけれど、何の成果も得られず終い。
クリスさんはと言うと、まったりと辺りを眺めながら、ふらふらとお散歩をしているだけ。
答えに辿り着いた上で、意気込んだ私たちに任せているのだろうか。
「――駄目だ、これでもない」
「ですね。私の方も、さっぱりです」
二人して顔を見合わせて、どちらともなく溜息を吐いた。
そうして肩を落とし項垂れる私たちの方に、ようやくクリスさんも合流した。
「いかがでしたか?」
私たちは揃って首を横に振った。
その様子を見たクリスさんは、善利さんに貸していたスマホを手に取り、辺りにレンズを向け始めた。
「風景が映っていたから、という点に、意識を持って行かれているのではありませんか?」
「意識、ですか」
「ええ。善利さん、貴女の知りたいことは何でしたか? 今回の依頼で達成したかったのは、あの写真の風景が何処だったか、ということでしたか?」
「い、いえ……私は、どうしてあの写真だけが綺麗に保存されていたのかが知りたくて」
「なら、もっと向けるべき相手がいる筈ですよ。今一度、しっかりと考えてみてください」
そう言うと、クリスさんはまた、善利さんにスマホを手渡した。
それを受け取った善利さんの方は、難しい顔でクリスさんの言葉を咀嚼していた。
この風景がどうこうではなく、あの写真が綺麗に保存されていた理由――つまり、風景自体にこれといった意味はない、とも言える。
クリスさんがここに連れて来たのは、写真を撮るためそれ自体ではなく、その先にある『想い』に触れる為。
想い……誰の?
おじいさんのだ。
「善利さん。写真を撮ったその日、おじいさんは確かに絵を描いていたんですよね?」
「え? は、はい、そのはずです」
「なら、傍にはおじいさんが居たんですよ」
「それは分かっています。だから私は、その祖父に連れられて、この山へ――」
「そうじゃなくて、おじいさんなんですよ! あの写真に見切れていた、黒い影の正体! 善利さん言ってたでしょ、『お祝いなどと言いつつ、祖父はカンバスに絵を描いていたみたいですけど』って」
拭えなかった違和感の正体は、これだ。
おじいさんに連れられてやって来たこの場所で、善利さんが撮ったものは……。
「祖父が……妹尾さん、どういうことでしょう?」
「詳しくはこれから考える! 私がおじいさん役になるから、善利さんは考えられる色んな角度から私を撮って。あの写真のあの位置に、黒い影が出来るように」
「わ、分かりました、やってみます」
善利さんの頷きを得て、私は適当な場所に立ってみた。
おじいさんはその時、絵を描いていた。けれど、カンバスは四角いのが普通。映った影の正体は、カンバスや風景の一部なんかじゃない。
ならば、それはおじいさん自身――善利さんは、何かしらの角度から、おじいさんのことを撮ったんだ。
その中で偶然撮れたあの一枚に、おじいさんは善利さんの『想い』を感じた。だから、大切にしていた。
善利さんの『想い』――それは、善利さんにしか分からない。
おじいさん役である私に、善利さんは今何を思い出すのか。思い出してようやく、その時の気持ちに更に一歩、近付ける。
善利さんが何枚かシャッターを切った。
私の周りを歩きながら、立ったりしゃがんだり、時に背伸びをしたりと、私の言葉通り、あらゆる角度から、私のことを撮った。
けれど、撮ったそれらを確認する度、違う、違う、と小さく呟いていた。
私も何とかそれらしい膨らみやヒントになりそうなことはないかと探していたけれど、何の成果も得られず終い。
クリスさんはと言うと、まったりと辺りを眺めながら、ふらふらとお散歩をしているだけ。
答えに辿り着いた上で、意気込んだ私たちに任せているのだろうか。
「――駄目だ、これでもない」
「ですね。私の方も、さっぱりです」
二人して顔を見合わせて、どちらともなく溜息を吐いた。
そうして肩を落とし項垂れる私たちの方に、ようやくクリスさんも合流した。
「いかがでしたか?」
私たちは揃って首を横に振った。
その様子を見たクリスさんは、善利さんに貸していたスマホを手に取り、辺りにレンズを向け始めた。
「風景が映っていたから、という点に、意識を持って行かれているのではありませんか?」
「意識、ですか」
「ええ。善利さん、貴女の知りたいことは何でしたか? 今回の依頼で達成したかったのは、あの写真の風景が何処だったか、ということでしたか?」
「い、いえ……私は、どうしてあの写真だけが綺麗に保存されていたのかが知りたくて」
「なら、もっと向けるべき相手がいる筈ですよ。今一度、しっかりと考えてみてください」
そう言うと、クリスさんはまた、善利さんにスマホを手渡した。
それを受け取った善利さんの方は、難しい顔でクリスさんの言葉を咀嚼していた。
この風景がどうこうではなく、あの写真が綺麗に保存されていた理由――つまり、風景自体にこれといった意味はない、とも言える。
クリスさんがここに連れて来たのは、写真を撮るためそれ自体ではなく、その先にある『想い』に触れる為。
想い……誰の?
おじいさんのだ。
「善利さん。写真を撮ったその日、おじいさんは確かに絵を描いていたんですよね?」
「え? は、はい、そのはずです」
「なら、傍にはおじいさんが居たんですよ」
「それは分かっています。だから私は、その祖父に連れられて、この山へ――」
「そうじゃなくて、おじいさんなんですよ! あの写真に見切れていた、黒い影の正体! 善利さん言ってたでしょ、『お祝いなどと言いつつ、祖父はカンバスに絵を描いていたみたいですけど』って」
拭えなかった違和感の正体は、これだ。
おじいさんに連れられてやって来たこの場所で、善利さんが撮ったものは……。
「祖父が……妹尾さん、どういうことでしょう?」
「詳しくはこれから考える! 私がおじいさん役になるから、善利さんは考えられる色んな角度から私を撮って。あの写真のあの位置に、黒い影が出来るように」
「わ、分かりました、やってみます」
善利さんの頷きを得て、私は適当な場所に立ってみた。
おじいさんはその時、絵を描いていた。けれど、カンバスは四角いのが普通。映った影の正体は、カンバスや風景の一部なんかじゃない。
ならば、それはおじいさん自身――善利さんは、何かしらの角度から、おじいさんのことを撮ったんだ。
その中で偶然撮れたあの一枚に、おじいさんは善利さんの『想い』を感じた。だから、大切にしていた。
善利さんの『想い』――それは、善利さんにしか分からない。
おじいさん役である私に、善利さんは今何を思い出すのか。思い出してようやく、その時の気持ちに更に一歩、近付ける。
善利さんが何枚かシャッターを切った。
私の周りを歩きながら、立ったりしゃがんだり、時に背伸びをしたりと、私の言葉通り、あらゆる角度から、私のことを撮った。
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