琵琶のほとりのクリスティ

石田ノドカ

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第2章 『祖父の写真』

第2話 八幡堀

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 ゆっくり、と言われてしまったからには、急いで突撃してしまうのも却って悪い。
 準備も早く終わってしまったことだから、少しお堀を楽しんでから行こう。

 ――ということで、やってきました八幡堀。
 夕暮れに染まるお堀の水がとても綺麗です。
 八幡堀の歴史は古く、造られたのは戦国時代。
 ここら辺一体の市街地と琵琶湖とを連結する為に造られた。

 八幡山城の城下に当たるここは、琵琶湖と繋がるこのお堀を中心とした『水運』によって商業都市として発展し、かの『近江商人』発展の地としても有名だ。
 豊臣秀吉の姉の長男、豊臣秀次の代に築城された八幡山城。その際、城下町の都市計画として整備され、城を護る為、そして物流の要であった水運を利用する為と、軍事・商業両面の役割を兼ね備えていた。
 そうして整った土地では商業が発展し、江戸時代には近江商人による町の発展にも繋がっただけでなく、大坂と江戸とを結ぶ交易地としても非常に有用に使われたと言う。
 近江八幡は、ここら一帯の水郷全体として、琵琶湖八景の一つにもなっている。
 琵琶湖八景とは、滋賀県が誇る琵琶湖周辺に見られる優れた風景のこと。琵琶湖とその周辺が『琵琶湖国定公園』として定められたことを契機に制定されたらしい。

 月明、彦根の古城。月明かりに浮かび上がる、壮麗な彦根城。

 涼風、雄松崎おまつざきの白汀。近江舞子、雄松崎の白い砂州に爽やかな風の吹く情景。

 新雪、賤ケ岳しずがたけの大観。賤ケ岳の戦いで有名な舞台、奥琵琶湖から湖西のある山々に新雪がかかる情景。

 煙雨、比叡の樹林。霧雨にその姿を隠す、比叡山の森林の情景。

 新緑、竹生島ちくぶしまの沈影。琵琶湖に影を落とす、緑豊かな竹生島。

 夕陽、瀬田・石山の清流。夕映えの瀬田唐橋と石山寺、それから瀬田川の流れ。

 暁霧ぎょうむ、海津大崎の岩礁。霧の立ち昇る暁時、湖面に屹立する雄大な海津大橋の岩礁。

 そして春色、安土・八幡の水郷。春を迎えた安土、そして近江八幡の水郷の、のどかな情景。

 この八つが、琵琶湖の雄大さと変化に富んだ景観が選ばれている。
 ……全部、クリスさんから教わったことだけれど。
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