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第2章 『祖父の写真』
第1話 忘れ物ですか?
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「えっ、忘れ物ですか……?」
思わず聞き返す受話器の向こうで、クリスさんが『ええ』と答えた。
ある日の夕方、十七時半頃のことだ。
『可愛らしいタコの巾着です。中にはお化粧品の類が入っているようですが――』
「私の物で間違いないですね……クリスさん、まだお店におられますか? 取りに行っても大丈夫でしょうか?」
『ええ、構いませんよ。夕食は済まされましたか?』
「え? いえ、まだです。母も夜勤に行ってしまいましたし、まったりと自分のペースで何か適当に食べようかと」
『なるほど。では、こちらでご用意いたしましょう。せっかくですし、ご一緒にどうです?』
「えっ、良いんですか?」
『勿論です。よくよく思えば、歓迎会のようなこともしていませんでしたし。如何でしょうか?』
「い、行きます、すぐ行きます! ちゃちゃっと着替えてすぐ行きます!」
『あらあら。ふふっ。お待ちしておりますね』
クリスさんはふわりと笑って言った。
「あっ、そう言えば――クリスさん、日本酒って飲めますか?」
『日本酒? ええ、好物ですけれど』
「良かった! 母が知り合いから貰ったお酒らしいんですけれど、その母はかなりの下戸で……お好きなら、私の挨拶代わりに持って行きなさいって、預っているものがあるんです」
『あらあら、それは嬉しいお話ですね。では、せっかくですからお言葉に甘えると致しましょうか』
「はい! では、すぐに準備して伺いますね!」
『ふふっ。夕餉の仕込みもこれからですから、焦らずゆっくりといらしてください。それでは』
そう言って、クリスさんは通話を切ってしまった。
ただ忘れ物を取りに行く為の筈が、歓迎会、という一言に、何を着て行こうかという思いが湧いて来てしまう。
仕事着しか見た事はないけれど、クリスさんは私服もきっと素敵なことだろう。
せめて、その場に在ってもおかしくないような恰好でいかないと。
思わず聞き返す受話器の向こうで、クリスさんが『ええ』と答えた。
ある日の夕方、十七時半頃のことだ。
『可愛らしいタコの巾着です。中にはお化粧品の類が入っているようですが――』
「私の物で間違いないですね……クリスさん、まだお店におられますか? 取りに行っても大丈夫でしょうか?」
『ええ、構いませんよ。夕食は済まされましたか?』
「え? いえ、まだです。母も夜勤に行ってしまいましたし、まったりと自分のペースで何か適当に食べようかと」
『なるほど。では、こちらでご用意いたしましょう。せっかくですし、ご一緒にどうです?』
「えっ、良いんですか?」
『勿論です。よくよく思えば、歓迎会のようなこともしていませんでしたし。如何でしょうか?』
「い、行きます、すぐ行きます! ちゃちゃっと着替えてすぐ行きます!」
『あらあら。ふふっ。お待ちしておりますね』
クリスさんはふわりと笑って言った。
「あっ、そう言えば――クリスさん、日本酒って飲めますか?」
『日本酒? ええ、好物ですけれど』
「良かった! 母が知り合いから貰ったお酒らしいんですけれど、その母はかなりの下戸で……お好きなら、私の挨拶代わりに持って行きなさいって、預っているものがあるんです」
『あらあら、それは嬉しいお話ですね。では、せっかくですからお言葉に甘えると致しましょうか』
「はい! では、すぐに準備して伺いますね!」
『ふふっ。夕餉の仕込みもこれからですから、焦らずゆっくりといらしてください。それでは』
そう言って、クリスさんは通話を切ってしまった。
ただ忘れ物を取りに行く為の筈が、歓迎会、という一言に、何を着て行こうかという思いが湧いて来てしまう。
仕事着しか見た事はないけれど、クリスさんは私服もきっと素敵なことだろう。
せめて、その場に在ってもおかしくないような恰好でいかないと。
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