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第1章 『勉強の日々、初めての謎解き』
第9話 簡単な推理
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男性の鋭い両目が、再びクリスさんを捉えた。
そんなクリスさんは、心底呆れたものを見るような目を向け、少しも笑っていない。
「私の悪口を言われたくらいなら、まだ耐えられたのですけれど。そういう訳にもいきませんね」
「何やて?」
「見逃してあげたのに、と申しているのです。うちの子を悪く言わないままお店を出ていたならば、ね。その髪の毛は、その子のものでも、私でも、まして調理担当の祖母のものでもございません。当然、他のお客様のものでも」
「言いがかりやろ」
「それはどの立場から言っているのか分かりませんが――おや、お客様、随分と髪を伸ばしているようですね。綺麗に束ねて金色、かっこいいじゃありませんか」
「何や急に、気色悪い」
「お店を訪ねられた時には、そのようにしておられませんでしたよね」
「食うんに邪魔やったからな。いつものことや」
「なるほど。あら? では、お連れさんの手首に巻かれていたヘアゴムは、どこへ行ってしまったのでしょう? 普段から食べる時に邪魔なら、ご自分で持ち歩いている筈ですよね?」
クリスさんが視線を寄越した、男性が座っていた向かいの席にいた女の人は、バツの悪そうな表情で視線を逸らした。
「その髪……黒く戻っている根本の部分は凡そ三センチ。染めたのは約二、三ヶ月ほど前ですね。おや、このカレーライスに入っている髪も、根本だけ黒く変色しているようです」
クリスさんは、それを摘まみ上げて男性の眼前へと押し出した。
「雫さんはもっと色の濃い茶色、それも一週間ほど前に染めたばかり。根本はさほど変色しません。私は人生で一度も染めたことはない黒。祖母は全て白髪です。加えて、貴方が来店された際にいたお客様は、まだ誰も出ていってはいませんが――あら残念、金色にしている人は誰もいなさそうですね」
「だ、だったら何やねん…!」
「おや、分かりませんか?」
ひと際穏やかに発した後で、クリスさんは目の色を変え、鋭い声音で言った。
「私のことは特に何言ってもかまわへ。せやけどな、謂れのないことでうちで雇ってる子を悪い風に言われて、店主の私が黙っとると思わんといてや!」
クリスさんの言葉に、男性は捨て台詞の一つも吐かないまま、さっさと店を飛び出していった。
バタン! 扉が強く締められる。
嵐が去ったことを少し遅れて理解すると、私はまた、自然と涙が溢れて来てしまった。
その場で蹲るようにして顔を隠す私に、カウンターからクリスさんがハンカチを差し出してくれる。
一番の被害を被った当の本人は、涼しい顔をしたままカウンターから出て来た。
「すみません、雫さん。着替えてまいりますから、少しの間だけお待ちください。花音さん、申し訳ありませんが、少しの間だけ雫さんをお願い致します」
短く言い残して、クリスさんはそのまま奥の方へと姿を消した。
そんなクリスさんは、心底呆れたものを見るような目を向け、少しも笑っていない。
「私の悪口を言われたくらいなら、まだ耐えられたのですけれど。そういう訳にもいきませんね」
「何やて?」
「見逃してあげたのに、と申しているのです。うちの子を悪く言わないままお店を出ていたならば、ね。その髪の毛は、その子のものでも、私でも、まして調理担当の祖母のものでもございません。当然、他のお客様のものでも」
「言いがかりやろ」
「それはどの立場から言っているのか分かりませんが――おや、お客様、随分と髪を伸ばしているようですね。綺麗に束ねて金色、かっこいいじゃありませんか」
「何や急に、気色悪い」
「お店を訪ねられた時には、そのようにしておられませんでしたよね」
「食うんに邪魔やったからな。いつものことや」
「なるほど。あら? では、お連れさんの手首に巻かれていたヘアゴムは、どこへ行ってしまったのでしょう? 普段から食べる時に邪魔なら、ご自分で持ち歩いている筈ですよね?」
クリスさんが視線を寄越した、男性が座っていた向かいの席にいた女の人は、バツの悪そうな表情で視線を逸らした。
「その髪……黒く戻っている根本の部分は凡そ三センチ。染めたのは約二、三ヶ月ほど前ですね。おや、このカレーライスに入っている髪も、根本だけ黒く変色しているようです」
クリスさんは、それを摘まみ上げて男性の眼前へと押し出した。
「雫さんはもっと色の濃い茶色、それも一週間ほど前に染めたばかり。根本はさほど変色しません。私は人生で一度も染めたことはない黒。祖母は全て白髪です。加えて、貴方が来店された際にいたお客様は、まだ誰も出ていってはいませんが――あら残念、金色にしている人は誰もいなさそうですね」
「だ、だったら何やねん…!」
「おや、分かりませんか?」
ひと際穏やかに発した後で、クリスさんは目の色を変え、鋭い声音で言った。
「私のことは特に何言ってもかまわへ。せやけどな、謂れのないことでうちで雇ってる子を悪い風に言われて、店主の私が黙っとると思わんといてや!」
クリスさんの言葉に、男性は捨て台詞の一つも吐かないまま、さっさと店を飛び出していった。
バタン! 扉が強く締められる。
嵐が去ったことを少し遅れて理解すると、私はまた、自然と涙が溢れて来てしまった。
その場で蹲るようにして顔を隠す私に、カウンターからクリスさんがハンカチを差し出してくれる。
一番の被害を被った当の本人は、涼しい顔をしたままカウンターから出て来た。
「すみません、雫さん。着替えてまいりますから、少しの間だけお待ちください。花音さん、申し訳ありませんが、少しの間だけ雫さんをお願い致します」
短く言い残して、クリスさんはそのまま奥の方へと姿を消した。
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