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第1章 『勉強の日々、初めての謎解き』
第8話 ええかげんにせぇ
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「なんでしょう?」
クリスさんは臆することなく返答した。
すると男性は、自分で食べていたらしいカレーライスを突き付けて来た。
「髪の毛入っとったんやけど。それも二本。店さんの不手際やんなぁ、これ」
見た目通り、いかにもな口調と話し方だった。
「左様でございますか。申し訳ございません。代金は結構でございます」
クリスさんが丁寧に頭を下げながら言った。
すると男性は、急に何かのスイッチが入ったかのように目を見開いて、分かり易く怒った様子でお皿を机上に強く置いた。
「代金は結構やって? そんだけかいな? ほな食わんと出ていけってか?」
「そのようなことは申しておりません。ただ、気分を害してしまったのは確かなのでしょうから、お代は頂かないままで他のお店へ行かれた方がよいのではないか、と進言しているだけでございます」
「……何やと?」
纏う気配が変わった。瞬間、男性はカウンターから乗り出して、クリスさんの胸倉をつかんで引き寄せた。
綺麗に整えられた長髪が乱れる。ブラウスのボタンが一つ、弾け飛んだ。
クリスさんは、それでも取り乱すことはない。
「大人の話し合いしようや言うてんねん。金取らんついでに替えのもん出したら終いやろ、早よ。それとも何か? あんたには俺がキレ散らかして出ていくようなアホに見えとるんか?」
「少なくとも私に手を出している以上、ここにいる皆様の目にはそう映っているのではありませんか?」
男性は、これでもかというくらいに怒っている。
クリスさんも、どうしてわざわざ相手を煽るような言動を……。
こうなった手合いには、言葉を尽くそうとも意味ないのではないだろうか。
そう思い、クリスさんに何とか収めて頂くよう促そうとするけれど、クリスさんはこちらに見向きもしない。
「大体なんやこの店は。あんたみたいに若いもんがマスターやっとって? んでホールはこのガキ一人かいな?」
ふと、視線がこちらを向いた。
思わず言葉を呑み、身体が固まってしまったところで、花音さんが私の前に立った。
「ええ加減にしいな。どこのもんか知らんけど、あんたは客の態度を知らんらしいな」
「何やあんた?」
「ただの客や。で、周りにも同じただの客がぎょーさんおんねん。怒りはごもっともなんかも知れんけどな、幾ら何でも頭に血昇り過ぎちゃう?」
「あんなぁ、こっちもただ怒っとるだけちゃうわ。よう見てみい、この髪の毛。あんたのかばっとるガキの髪色そっくりやんか」
「言いがかりやろ。そもそも半分近く食べ進めといて、そんなことあるわけないやんか。この子が運んだのは確かやろうけど、それやったら一番上に乗っとる筈やろ? 厨房から運ぶまでがこの子の仕事やねんから」
「運んどる間に混ざることだってあるやろ」
「アホ言いな、ラーメンでもうどんでも無し、トロトロ加減が自慢のここのカレーが、運ぶ程度の揺れでそない混ざる訳あらへんやろ」
「せやから、そこのガキ以外にあり得へんやろ言うてんちゃうんか!」
飛び出した怒号に、店内が凍り付く。楽し気な雰囲気はどこかへと飛んで行ってしまった。
店内に流れる明るいBGMが、ひとり虚しく響く。
じりじりと、男性と花音さんとの間に火花が散る。
怖くなって、どうしようもなくて、意図せず涙が零れてしまった。
――そんな刹那、クリスさんが大きな溜息を零した。
クリスさんは臆することなく返答した。
すると男性は、自分で食べていたらしいカレーライスを突き付けて来た。
「髪の毛入っとったんやけど。それも二本。店さんの不手際やんなぁ、これ」
見た目通り、いかにもな口調と話し方だった。
「左様でございますか。申し訳ございません。代金は結構でございます」
クリスさんが丁寧に頭を下げながら言った。
すると男性は、急に何かのスイッチが入ったかのように目を見開いて、分かり易く怒った様子でお皿を机上に強く置いた。
「代金は結構やって? そんだけかいな? ほな食わんと出ていけってか?」
「そのようなことは申しておりません。ただ、気分を害してしまったのは確かなのでしょうから、お代は頂かないままで他のお店へ行かれた方がよいのではないか、と進言しているだけでございます」
「……何やと?」
纏う気配が変わった。瞬間、男性はカウンターから乗り出して、クリスさんの胸倉をつかんで引き寄せた。
綺麗に整えられた長髪が乱れる。ブラウスのボタンが一つ、弾け飛んだ。
クリスさんは、それでも取り乱すことはない。
「大人の話し合いしようや言うてんねん。金取らんついでに替えのもん出したら終いやろ、早よ。それとも何か? あんたには俺がキレ散らかして出ていくようなアホに見えとるんか?」
「少なくとも私に手を出している以上、ここにいる皆様の目にはそう映っているのではありませんか?」
男性は、これでもかというくらいに怒っている。
クリスさんも、どうしてわざわざ相手を煽るような言動を……。
こうなった手合いには、言葉を尽くそうとも意味ないのではないだろうか。
そう思い、クリスさんに何とか収めて頂くよう促そうとするけれど、クリスさんはこちらに見向きもしない。
「大体なんやこの店は。あんたみたいに若いもんがマスターやっとって? んでホールはこのガキ一人かいな?」
ふと、視線がこちらを向いた。
思わず言葉を呑み、身体が固まってしまったところで、花音さんが私の前に立った。
「ええ加減にしいな。どこのもんか知らんけど、あんたは客の態度を知らんらしいな」
「何やあんた?」
「ただの客や。で、周りにも同じただの客がぎょーさんおんねん。怒りはごもっともなんかも知れんけどな、幾ら何でも頭に血昇り過ぎちゃう?」
「あんなぁ、こっちもただ怒っとるだけちゃうわ。よう見てみい、この髪の毛。あんたのかばっとるガキの髪色そっくりやんか」
「言いがかりやろ。そもそも半分近く食べ進めといて、そんなことあるわけないやんか。この子が運んだのは確かやろうけど、それやったら一番上に乗っとる筈やろ? 厨房から運ぶまでがこの子の仕事やねんから」
「運んどる間に混ざることだってあるやろ」
「アホ言いな、ラーメンでもうどんでも無し、トロトロ加減が自慢のここのカレーが、運ぶ程度の揺れでそない混ざる訳あらへんやろ」
「せやから、そこのガキ以外にあり得へんやろ言うてんちゃうんか!」
飛び出した怒号に、店内が凍り付く。楽し気な雰囲気はどこかへと飛んで行ってしまった。
店内に流れる明るいBGMが、ひとり虚しく響く。
じりじりと、男性と花音さんとの間に火花が散る。
怖くなって、どうしようもなくて、意図せず涙が零れてしまった。
――そんな刹那、クリスさんが大きな溜息を零した。
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