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第1章 『勉強の日々、初めての謎解き』
第7話 ちょっとすんません
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「なぁなぁバイトちゃん」
背後から肩をつつかれる。
思わず仰ぐそちらには当然、花音さんがいた。
バイトちゃんって……そうか、花音さんは私の名前を知らないんだ。
「あっ、えと、私、妹尾雫と申します。何度か顔を合わせているのに、名乗りもせずにすみません」
「え、いやいやかまへんって。コンビニでも飲食でも、バイトなんか普通名乗らんしな」
そう、なのだろうか。
何のバイトも仕事もしたことがない私には、普通というものは分からない。
「でさ、雫ちゃん。ここのバイトはどうや? クリスさん厳しい?」
「い、いえ、そんなことは…! 真面目、と言えば良いのか、珈琲のことや、その他仕事に関わることについては、とてもしっかりと教えてくださいます。厳しいというより、私のことを思って、といった感じでしょうか。勝手な想像ですけれど。そんな風に思います」
「へぇ、そうなんや」
「はい。でも、それを知ってどうするんですか?」
「へ? いやいや、別に何もせえへんよ。ただ、クリスさんたまに、ちょっとだけピリッと怖いオーラ纏う時があるから、実は裏ではめっちゃ静かで怖いんちゃうかな―とか、そんなこと思ってただけやで」
「そんな……クリスさんは、お仕事が終わった後でも、いつもあの調子ですよ? ふわふわ温かくて、優しいお姉さんみたいな」
「あー、それ分かる! でもあれ、お姉ちゃんって言うよりかは、ママって感じちゃう?」
そんな言葉に、クリスさんはいよいよ観念ならなくなった様子で花音さんに声を掛けた。
「もう、お二人とも酷いですよ。誰がママですか、誰が。まだ二十代ですのに」
「いやいや、別に結婚しててもおかしない歳やろ。ええ人おれへんの?」
「恋人、ということでしたら、おりませんよ。産まれてこの方、殿方がいたこともございません」
「えっ、マジで!? 誰も?」
「そこまで意外でしょうか。私みたいに静かで面白みもない、珈琲のことばかり考えているような人間、誰が欲しがる筈もありませんよ」
まさか、そんなことは……。
これだけ綺麗で、それでいて自分をわざとよく見せようとはしない、常に周りに自然と気を配れる完璧な人間、引く手数多でもおかしくない。
今の言い方だと、男性から言い寄られたこともないんだろうか。
それとも、実は他人の好意に全く気が付かないくらいの鈍感さん……おっとりふわふわなクリスさんのことだ、ないとも言い切れない。
「いやいやあり得へんやろ! クリスさんやで? こんだけ綺麗で優しい、女神みたいな女の人やで? 世の男どもみんな見る目ないんちゃうか――」
「ちょっとすんません、店員さん」
背中に声を掛けられて振り返ると、思わず言葉を失ってしまうような人が立っていた。
綺麗だとか、かっこいいとか、そういった類でではない。寧ろ正反対――身長は高く筋肉質、両耳にピアス、極めつけに金髪という、私の苦手な容姿で以って立っていたのだ。
背後から肩をつつかれる。
思わず仰ぐそちらには当然、花音さんがいた。
バイトちゃんって……そうか、花音さんは私の名前を知らないんだ。
「あっ、えと、私、妹尾雫と申します。何度か顔を合わせているのに、名乗りもせずにすみません」
「え、いやいやかまへんって。コンビニでも飲食でも、バイトなんか普通名乗らんしな」
そう、なのだろうか。
何のバイトも仕事もしたことがない私には、普通というものは分からない。
「でさ、雫ちゃん。ここのバイトはどうや? クリスさん厳しい?」
「い、いえ、そんなことは…! 真面目、と言えば良いのか、珈琲のことや、その他仕事に関わることについては、とてもしっかりと教えてくださいます。厳しいというより、私のことを思って、といった感じでしょうか。勝手な想像ですけれど。そんな風に思います」
「へぇ、そうなんや」
「はい。でも、それを知ってどうするんですか?」
「へ? いやいや、別に何もせえへんよ。ただ、クリスさんたまに、ちょっとだけピリッと怖いオーラ纏う時があるから、実は裏ではめっちゃ静かで怖いんちゃうかな―とか、そんなこと思ってただけやで」
「そんな……クリスさんは、お仕事が終わった後でも、いつもあの調子ですよ? ふわふわ温かくて、優しいお姉さんみたいな」
「あー、それ分かる! でもあれ、お姉ちゃんって言うよりかは、ママって感じちゃう?」
そんな言葉に、クリスさんはいよいよ観念ならなくなった様子で花音さんに声を掛けた。
「もう、お二人とも酷いですよ。誰がママですか、誰が。まだ二十代ですのに」
「いやいや、別に結婚しててもおかしない歳やろ。ええ人おれへんの?」
「恋人、ということでしたら、おりませんよ。産まれてこの方、殿方がいたこともございません」
「えっ、マジで!? 誰も?」
「そこまで意外でしょうか。私みたいに静かで面白みもない、珈琲のことばかり考えているような人間、誰が欲しがる筈もありませんよ」
まさか、そんなことは……。
これだけ綺麗で、それでいて自分をわざとよく見せようとはしない、常に周りに自然と気を配れる完璧な人間、引く手数多でもおかしくない。
今の言い方だと、男性から言い寄られたこともないんだろうか。
それとも、実は他人の好意に全く気が付かないくらいの鈍感さん……おっとりふわふわなクリスさんのことだ、ないとも言い切れない。
「いやいやあり得へんやろ! クリスさんやで? こんだけ綺麗で優しい、女神みたいな女の人やで? 世の男どもみんな見る目ないんちゃうか――」
「ちょっとすんません、店員さん」
背中に声を掛けられて振り返ると、思わず言葉を失ってしまうような人が立っていた。
綺麗だとか、かっこいいとか、そういった類でではない。寧ろ正反対――身長は高く筋肉質、両耳にピアス、極めつけに金髪という、私の苦手な容姿で以って立っていたのだ。
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