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第1章 『勉強の日々、初めての謎解き』
第5話 珈琲とは
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貴重な時間を割いて、マスターさんは珈琲についてとても丁寧に教えてくれた。
まず第一に、ブレンドとは、ただ一種類の豆だけ挽いている訳ではないということ。二種類以上の豆を混ぜて作られる珈琲が、ブレンドだ。
ちなみに、一種類のみの珈琲はストレートという。これはそのままだ。
そんなブレンドにもまた、異なる方法で混ぜられるものがある。
生豆の段階から掛け合わせているプレミックスと、焙煎後に混ぜるアフターミックス。淡海では前者のプレミックスを採用しているという話だ。
ある工房に依頼していて、その配合は他所では使用していない。企業秘密、正に淡海のブランドというわけだ。
プレミックス最大の利点は、その工程のシンプルさにある。配合が決まるまでは、拘る程に長い道のりだけれど、それさえ決まってしまえば、あとはそれに従って組み合わせていけばいいもの。混ぜられたそれを一度に焙煎するから、お店としても手はかからない。その為、依頼している工房は、とても緻密なお仕事をしているらしい。職人技だ。
ただ、利点があるなら、その逆があるのも当然だ。
混ぜられたそれを一度に焙煎する、とは言っても、元はと違う種類の豆同士。個性の異なる豆が一緒になったものに火を均一に通し、味を引き出すのは、かなりの焙煎技術を必要とするものだ。それぞれの持ち味を台無しにしない、絶妙な火加減をしなければならない。味の一体感は作りやすいが、それも技術があってこそだ。
対してアフターミックスは、豆ごとに異なる個性を出すことが出来る。後出しで味作りの自由度が高く、幅が広い。代わりに、一体感を生み出すのにはかなりの腕がいる。
どちらも一長一短。とても緻密で、難しい世界なのだ。
淡海で使っている豆の配合は、マスターさんと珠子さんが考えに考え抜いて作られたものらしい。
それには先方の企業も大きく頷き、『絶品だ!』と太鼓判を押される程。
何でも、過去には市が選ぶ珈琲店として、雑誌に名前が載ったこともあるそうな。
おっとりふわふわな笑顔からは想像も出来ない、努力とそれに合った確かな実力。
そんなところで働いているなんて……ますます頑張らないと。
そう言えば、ついでと言っては悪いけれど、マスターさん、改めクリスさんのこと、そして珠子さんのことについても、色々と知ることが出来た。好き嫌いや趣味、得手不得手、などなど……クリスさん、と改めたのは、常連さんたちと沢山話す内、私にもそれが伝播してしまって、どうにも改めることが出来なくなってしまったからだ。
クリスさんは、いつも通りふわふわと笑っていたけれど。
来栖汐里さん。本業は店主を務めているここ、喫茶店《淡海》の経営だけれど、それとは別に、作家活動もしているらしい。
何でも、これまでに五つ、小説を出版しているそうな。
レトロなお店がよく似合う、優しくてふわふわで、小説も書ける大人な女性――憧れを抱く間もなく、何だかとても遠い存在に思える。
歳は二十七。数年前、祖母の珠子さんから店主の座を継いだらしいのだけれど、特別身体が悪くなったからだとか、そういう訳ではないらしい。あのお姉さんも言っていたように、厨房の方でバリバリ動き回っている姿を見る。
淡海では、席数を敢えて多くはしていないようで、今まではその二人だけで十分回して来られた。けれど、常連さんが増え、それに加えてご新規さんも来るとなると、厨房・フロアに一人ずつは厳しくなってきたのだとか。
もちろん日によりけりなところはあるけれど、それにしても忙しさが増していることは疑いようのない事実なのだと、クリスさんは話していた。
そんなところに、何だか浮かない顔をしている若者が一人――淡海からすれば正に、私という来訪者は、まさに僥倖だったという話だ。
まず第一に、ブレンドとは、ただ一種類の豆だけ挽いている訳ではないということ。二種類以上の豆を混ぜて作られる珈琲が、ブレンドだ。
ちなみに、一種類のみの珈琲はストレートという。これはそのままだ。
そんなブレンドにもまた、異なる方法で混ぜられるものがある。
生豆の段階から掛け合わせているプレミックスと、焙煎後に混ぜるアフターミックス。淡海では前者のプレミックスを採用しているという話だ。
ある工房に依頼していて、その配合は他所では使用していない。企業秘密、正に淡海のブランドというわけだ。
プレミックス最大の利点は、その工程のシンプルさにある。配合が決まるまでは、拘る程に長い道のりだけれど、それさえ決まってしまえば、あとはそれに従って組み合わせていけばいいもの。混ぜられたそれを一度に焙煎するから、お店としても手はかからない。その為、依頼している工房は、とても緻密なお仕事をしているらしい。職人技だ。
ただ、利点があるなら、その逆があるのも当然だ。
混ぜられたそれを一度に焙煎する、とは言っても、元はと違う種類の豆同士。個性の異なる豆が一緒になったものに火を均一に通し、味を引き出すのは、かなりの焙煎技術を必要とするものだ。それぞれの持ち味を台無しにしない、絶妙な火加減をしなければならない。味の一体感は作りやすいが、それも技術があってこそだ。
対してアフターミックスは、豆ごとに異なる個性を出すことが出来る。後出しで味作りの自由度が高く、幅が広い。代わりに、一体感を生み出すのにはかなりの腕がいる。
どちらも一長一短。とても緻密で、難しい世界なのだ。
淡海で使っている豆の配合は、マスターさんと珠子さんが考えに考え抜いて作られたものらしい。
それには先方の企業も大きく頷き、『絶品だ!』と太鼓判を押される程。
何でも、過去には市が選ぶ珈琲店として、雑誌に名前が載ったこともあるそうな。
おっとりふわふわな笑顔からは想像も出来ない、努力とそれに合った確かな実力。
そんなところで働いているなんて……ますます頑張らないと。
そう言えば、ついでと言っては悪いけれど、マスターさん、改めクリスさんのこと、そして珠子さんのことについても、色々と知ることが出来た。好き嫌いや趣味、得手不得手、などなど……クリスさん、と改めたのは、常連さんたちと沢山話す内、私にもそれが伝播してしまって、どうにも改めることが出来なくなってしまったからだ。
クリスさんは、いつも通りふわふわと笑っていたけれど。
来栖汐里さん。本業は店主を務めているここ、喫茶店《淡海》の経営だけれど、それとは別に、作家活動もしているらしい。
何でも、これまでに五つ、小説を出版しているそうな。
レトロなお店がよく似合う、優しくてふわふわで、小説も書ける大人な女性――憧れを抱く間もなく、何だかとても遠い存在に思える。
歳は二十七。数年前、祖母の珠子さんから店主の座を継いだらしいのだけれど、特別身体が悪くなったからだとか、そういう訳ではないらしい。あのお姉さんも言っていたように、厨房の方でバリバリ動き回っている姿を見る。
淡海では、席数を敢えて多くはしていないようで、今まではその二人だけで十分回して来られた。けれど、常連さんが増え、それに加えてご新規さんも来るとなると、厨房・フロアに一人ずつは厳しくなってきたのだとか。
もちろん日によりけりなところはあるけれど、それにしても忙しさが増していることは疑いようのない事実なのだと、クリスさんは話していた。
そんなところに、何だか浮かない顔をしている若者が一人――淡海からすれば正に、私という来訪者は、まさに僥倖だったという話だ。
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