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第1章 『勉強の日々、初めての謎解き』
第3話 照れてしまいます
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帳簿作業――正直に言ってしまうと、特別なことをしている予想はなかった。
それはそうだ。帳簿なのだから。それ以上でもそれ以下でもなく、帳簿をつけているだけの、事務作業だ。
しかし、ことここに限っては、それだけではなかった。
はらりと垂れる髪を指先で掬い、耳元へとかける仕草。細く開かれた目元。静かな店内にあって、聞こえてくる吐息の音。
どれも、女である私がドキドキしてしまうくらいに、絵になっていた。
おまけに今、マスターさんは眼鏡をかけている。仕事中はかけていないからこそ、普段は見られない裏の顔を見てしまったようで、申し訳な有難い。思わず造語が生まれてしまう程だ。
カウンター席……いいな。
「そうじっと見つめられると、緊張してしまいますね」
「そういう台詞は、せめて偽物でも相応の表情を作ってから言ってくださいよ。余裕そうで、そう見えません」
「あらあら、余裕があるように見えますか?」
「それ以外の見方が出来ない程には」
「喜ばしいことです。客商売である以上、変な表情をコロコロと見せる訳にはいきませんから」
「そういうものなんですか?」
「そういうものなんです。雫さんも、もう少し慣れてくれば、分かるようになる筈です」
マスターさんは、ことのほかあっけらかんと言い放った。
慣れてくれば、か。まあ確かに、まだまだ覚束ないこの身には、想像も出来ないことだ。
しかし、マスターさんくらい自然な笑顔で、あれやこれやと正確に処理出来るようになるには、一体どれほどの時間が必要だろうか。
いや、そもそも私にそうなることが出来るだろうか……。
それはそうだ。帳簿なのだから。それ以上でもそれ以下でもなく、帳簿をつけているだけの、事務作業だ。
しかし、ことここに限っては、それだけではなかった。
はらりと垂れる髪を指先で掬い、耳元へとかける仕草。細く開かれた目元。静かな店内にあって、聞こえてくる吐息の音。
どれも、女である私がドキドキしてしまうくらいに、絵になっていた。
おまけに今、マスターさんは眼鏡をかけている。仕事中はかけていないからこそ、普段は見られない裏の顔を見てしまったようで、申し訳な有難い。思わず造語が生まれてしまう程だ。
カウンター席……いいな。
「そうじっと見つめられると、緊張してしまいますね」
「そういう台詞は、せめて偽物でも相応の表情を作ってから言ってくださいよ。余裕そうで、そう見えません」
「あらあら、余裕があるように見えますか?」
「それ以外の見方が出来ない程には」
「喜ばしいことです。客商売である以上、変な表情をコロコロと見せる訳にはいきませんから」
「そういうものなんですか?」
「そういうものなんです。雫さんも、もう少し慣れてくれば、分かるようになる筈です」
マスターさんは、ことのほかあっけらかんと言い放った。
慣れてくれば、か。まあ確かに、まだまだ覚束ないこの身には、想像も出来ないことだ。
しかし、マスターさんくらい自然な笑顔で、あれやこれやと正確に処理出来るようになるには、一体どれほどの時間が必要だろうか。
いや、そもそも私にそうなることが出来るだろうか……。
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