パークラ認定されてパーティーから追放されたから田舎でスローライフを送ろうと思う

ユースケ

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刺客

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 ────1────

「暇だな」

「暇ねぇ」

「ですねー」

「ん……」

 小屋へ一時的に移住してからおよそ一週間。
 未だ騎士団はおろか、刺客の影一つ現れてはいない。
 あれから三週間だぞ、三週間。
 幾らなんでも遅すぎる。
 リューネが噂を広めるのに手間取ったとしても、ここまで遅くなる筈がない。
 明らかに妙だ。
 まさかとは思うが、リューネのやつ失敗したんじゃないだろうな。

「……いや、それはないか。 あいつに限って」

 策謀を練らせたらリューネの右に出る者など居ない。
 それぐらいあいつは頭が回る。
 失敗なんてあり得ない。
 だとすれば、問題は他にある筈だ。
 例えば、騎士団長ラマール=フォンテーヌがあの手この手でカイネルの行動を阻止している、とかな。
 そっちの方がよっぽど現実的だろう。

「さてと、そろそろ良い時間だから晩御飯でもつくろっかな。 皆、何か要望ある? 無かったら鶏肉のソテーにしちゃうけど」

「おっ、良いな。 じゃあそれで」

「はーい」

 リアは返事をすると、冷却用魔石で作られた冷蔵庫なる物の扉を開け、鶏肉を取り出した。
 それをまな板に置いたリアは、ガラド作の出刃包丁で鶏肉をぶつ切りにしていく。
 凍っているのにも関わらず、まるで野菜を切るように軽々と。
 ドンドン化物染みてくるな、あいつ。
 まるで大型猿の魔物、ババコンガ並みだな、あの腕力。
 なんて恐ろしい、殴られないよう細心の注意を払わなければ……と、顔を引きつかせる最中。
 恐れ知らずなラミィは、何の気なしに。

「えー。 私、鶏肉あんまり好きじゃなーい。 他のにしてよ、リアー。 牛肉とか」

 ダンッ!

「なにか言った、ラミィちゃん」

「な、なんでもないでーす」

 わざと出した大きな音にビビったラミィは、出した頭をソファーに隠し、テーブルに置かれたクッキーをパクリ。
 本を片手に次から次へと口に放る。

「おい、ラミィ。 もうすぐ飯なんだから、そこまでにしておけよ。 食えなくなるぞ」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。 私がリアの料理を残すわけないじゃん。 心配しすぎだって」

「そういう問題じゃねぇ」

 言いながらクッキーの入った袋を奪うと、ラミィが奪い返そうと手を伸ばしてきた。

「あっ、ちょっと! 返しなさいよ!」

「返すわけないだろ、このアホ。 料理を残す、残さないの問題じゃねえんだよ。 少しは作ってくれる人の気持ちを考えろって話だ。 もし自分が一生懸命作ってる時に、お菓子を目の前で食べられたらどう思う」

「え? うーん……私も食べたい、とか? ……んぎゅ!」

 ビシッ。
 脳天に割かし本気のチョップをお見舞いされ、うめき声を上げて頭を押さえるラミィを俺は叱責する。

「違うわ、たわけ。 嫌な気分になるっつってんだよ。 普通に考えて嫌だろ、菓子で腹膨れたら。 少しは作ってくれるやつの気持ちも考えてやれ」

「うぅ……わかったわよ……」

 なんだろう、子供の躾をしてる気分だ。
 六つしか歳変わらないのに。

「じゃあこれしまっとくからな。 今度は時間考えて食えよ」

「へーい」

 相変わらず生意気なラミィに俺はやれやれと鼻息を漏らしながら、クッキーをキッチンの棚に戻していると、まな板を洗い場の水桶に沈めたリアが小声で。

「ふふ、ありがとうございますソーマさん。 言ってくれて助かりました。 正直、あまり良い気分ではなかったので」

「だよな。 実は俺も以前同じミスをして怒られてさ。 それ以降気を付けてるんだよ」

「へー、そうなんですか。 ちなみに相手は女性ですか?」

「ん、ああ。 そうだけど、それがなに…………っ!」

 戸棚を閉めてリアに首を回すと、リアがどす黒いオーラを纏っていた。

「別に何でもないでーす。 あ、ソーマさんはご飯抜きで良いですよね。 クッキーでも食べてればよろしいのでは?」

「リ、リア? もしかして怒ってるのか?」

「ふん! ソーマさんなんて知りません!」

 何が悪かったのか、リアはツーンとして全然相手にしてくれなくなってしまった。
 そんな、平和だからこそのやり取りをしたいた最中。

「ただいま」

 見張りをしていたロゼが帰ってきた。
 報せと共に。

「ご主人、武装した集団がこっちに来てる。 恐らく、刺客」

 どうやら遂に来たようだ。
 反撃の狼煙を上げる時が。

  ────2────

「──あいつらか」

「うん」

 隠密に長ける鬱蒼と繁る木々の合間から、王都方面の斜面を覗き込むと、ロゼの言った通り明らかに一般人ではない四人組がこちらに向かって登ってきていた。
 今回は冒険者ではなく、ハルトマン家の手の者が刺客のようだ。
 冒険者が好む軽装ではなく、漆黒を基調とした甲冑を身に纏っているのがその証拠。
 まずハルトマンの手の者で間違いない。

「ご主人、ここからどうする?」

「ちょっと待て。 今考えてる」

「なんならこっちから襲っちゃう? その方が手っ取り早いし」

「ラ、ラミィちゃん……」

 確かにこっちから手を出した方が、手っ取り早いといえば手っ取り早い。
 が、今回の目的はあくまで過剰な自己防衛。
 こっちから襲撃して、レイシアや騎士団に協力を仰げなくなる状況だけはなんとしても避けたい。
 勿論却下だ。

「いや、折角ここまでご足労頂いたんだ。 どうせなら招待してやろう。 うちの庭までな」

 俺はそう言って、小首を傾げる三人の合間を通り、小屋へと足を進めていく。
 邪悪な笑みを浮かべながら。




「ソーマ、来たわよ」

「ああ、わかってる。 だからお前もさっさと小屋に入っておけ。 いつまでも此処に居たら、奴らに見つかるぞ」

「へいへい、言われなくてもすぐ行きますよーっだ」

 薪割りをして刺客を待つ俺にいつまでも付き添っていたラミィにそう告げると、ラミィはぶつくさ文句を垂れながら小屋へと避難────

「……ソーマ」

「なんだよ、まだなんかあんのか?」

「……怪我するんじゃないわよ。 無事に戻ってこなかったら只じゃ済まさないから」

「は……?」

 思いもよらぬ言葉に呆けていると、ラミィは頬を染めて扉を閉める。
 そんなラミィに俺は鼻で笑いながら、斧を一振。
 上手い事中心に振り下ろされた斧が、薪をスコンッと小気味良い音で真っ二つにした。
 更に俺はもう一つ割ろうと薪を拾い上げようと手を伸ばす。
 その時。
 奴らが現れた。
 カイネルの刺客。
 ハルトマン家の紋章が彫られた剣や鎧を身に付けた集団が、姿を見せたのである。
 
「あれが例の男か」

「恐らくは」

 手前に居る奴が隊長格のようだ。
 一際いかつい甲冑を着こんでいる。
 その男はこちらに視線を合わせると、背おったツヴァイハンターの柄を握り、わかりきった質問をしてきた。

「貴様がソーマ=イグベルトか」

「……かもな。 だったら?」

「とあるお方から貴様を始末するよう言われている。 抵抗せず投降しろ。 投降するのならば苦しまずに殺してやろう」

 男はそう言うと、ツヴィイハンターの切っ先をこちらに向けてきた。
 少しでも不用意な行動をすれば直ぐにでも斬ると、脅しているつもりなのだろう。
 だが俺は意にも介さず、水筒を男に投げ渡す。

「まあそうカッカすんなって。 ほら、水でも飲んで落ち着けよ。 うちの井戸から汲み上げたばかりのキンキンに冷えた水だ。 旨いぞ」

 しかし男は受け取らず、地に落ちた水筒を踏み砕いてしまった。

「あーあ、なにすんだよ。 それ、最後の一個だったんだぞ。 はぁ……」

 と、大剣の横をすり抜け、水筒の破片を拾おうとした瞬間。

 ゴッ。

「……ッ」

 男に顔面を殴られた。

「いってぇな。 いきなり殴るとか何考えてんだよ、あんた。 いかれてんのか」

 痛いと言ったものの、実際は大した痛みじゃない。
 ラミィに殴られた時の方がよっぽど痛い。
 よし、これなら武器は必要ないな。
 拳でフルボッコにしてやる。

「それ以上余計な動きをしてみろ。 次は腕を切り落とすぞ。 それが嫌なら大人しく首を差し出……」

「ペチャクチャペチャクチャうっせぇなぁ……かかってくんならさっさとかかって来いや、このボケが! どらあっ!」

「がっ!?」

 はんっ。
 俺の首を切り落とすとか、そんな様でよく言えたもんだ。

「た、隊長!」

 たった一発の震脚で蹴り飛ばされた挙げ句、大木に激突して意識を刈り取られた癖に。

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