パークラ認定されてパーティーから追放されたから田舎でスローライフを送ろうと思う

ユースケ

文字の大きさ
上 下
45 / 50

刺客

しおりを挟む
 ────1────

「暇だな」

「暇ねぇ」

「ですねー」

「ん……」

 小屋へ一時的に移住してからおよそ一週間。
 未だ騎士団はおろか、刺客の影一つ現れてはいない。
 あれから三週間だぞ、三週間。
 幾らなんでも遅すぎる。
 リューネが噂を広めるのに手間取ったとしても、ここまで遅くなる筈がない。
 明らかに妙だ。
 まさかとは思うが、リューネのやつ失敗したんじゃないだろうな。

「……いや、それはないか。 あいつに限って」

 策謀を練らせたらリューネの右に出る者など居ない。
 それぐらいあいつは頭が回る。
 失敗なんてあり得ない。
 だとすれば、問題は他にある筈だ。
 例えば、騎士団長ラマール=フォンテーヌがあの手この手でカイネルの行動を阻止している、とかな。
 そっちの方がよっぽど現実的だろう。

「さてと、そろそろ良い時間だから晩御飯でもつくろっかな。 皆、何か要望ある? 無かったら鶏肉のソテーにしちゃうけど」

「おっ、良いな。 じゃあそれで」

「はーい」

 リアは返事をすると、冷却用魔石で作られた冷蔵庫なる物の扉を開け、鶏肉を取り出した。
 それをまな板に置いたリアは、ガラド作の出刃包丁で鶏肉をぶつ切りにしていく。
 凍っているのにも関わらず、まるで野菜を切るように軽々と。
 ドンドン化物染みてくるな、あいつ。
 まるで大型猿の魔物、ババコンガ並みだな、あの腕力。
 なんて恐ろしい、殴られないよう細心の注意を払わなければ……と、顔を引きつかせる最中。
 恐れ知らずなラミィは、何の気なしに。

「えー。 私、鶏肉あんまり好きじゃなーい。 他のにしてよ、リアー。 牛肉とか」

 ダンッ!

「なにか言った、ラミィちゃん」

「な、なんでもないでーす」

 わざと出した大きな音にビビったラミィは、出した頭をソファーに隠し、テーブルに置かれたクッキーをパクリ。
 本を片手に次から次へと口に放る。

「おい、ラミィ。 もうすぐ飯なんだから、そこまでにしておけよ。 食えなくなるぞ」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。 私がリアの料理を残すわけないじゃん。 心配しすぎだって」

「そういう問題じゃねぇ」

 言いながらクッキーの入った袋を奪うと、ラミィが奪い返そうと手を伸ばしてきた。

「あっ、ちょっと! 返しなさいよ!」

「返すわけないだろ、このアホ。 料理を残す、残さないの問題じゃねえんだよ。 少しは作ってくれる人の気持ちを考えろって話だ。 もし自分が一生懸命作ってる時に、お菓子を目の前で食べられたらどう思う」

「え? うーん……私も食べたい、とか? ……んぎゅ!」

 ビシッ。
 脳天に割かし本気のチョップをお見舞いされ、うめき声を上げて頭を押さえるラミィを俺は叱責する。

「違うわ、たわけ。 嫌な気分になるっつってんだよ。 普通に考えて嫌だろ、菓子で腹膨れたら。 少しは作ってくれるやつの気持ちも考えてやれ」

「うぅ……わかったわよ……」

 なんだろう、子供の躾をしてる気分だ。
 六つしか歳変わらないのに。

「じゃあこれしまっとくからな。 今度は時間考えて食えよ」

「へーい」

 相変わらず生意気なラミィに俺はやれやれと鼻息を漏らしながら、クッキーをキッチンの棚に戻していると、まな板を洗い場の水桶に沈めたリアが小声で。

「ふふ、ありがとうございますソーマさん。 言ってくれて助かりました。 正直、あまり良い気分ではなかったので」

「だよな。 実は俺も以前同じミスをして怒られてさ。 それ以降気を付けてるんだよ」

「へー、そうなんですか。 ちなみに相手は女性ですか?」

「ん、ああ。 そうだけど、それがなに…………っ!」

 戸棚を閉めてリアに首を回すと、リアがどす黒いオーラを纏っていた。

「別に何でもないでーす。 あ、ソーマさんはご飯抜きで良いですよね。 クッキーでも食べてればよろしいのでは?」

「リ、リア? もしかして怒ってるのか?」

「ふん! ソーマさんなんて知りません!」

 何が悪かったのか、リアはツーンとして全然相手にしてくれなくなってしまった。
 そんな、平和だからこそのやり取りをしたいた最中。

「ただいま」

 見張りをしていたロゼが帰ってきた。
 報せと共に。

「ご主人、武装した集団がこっちに来てる。 恐らく、刺客」

 どうやら遂に来たようだ。
 反撃の狼煙を上げる時が。

  ────2────

「──あいつらか」

「うん」

 隠密に長ける鬱蒼と繁る木々の合間から、王都方面の斜面を覗き込むと、ロゼの言った通り明らかに一般人ではない四人組がこちらに向かって登ってきていた。
 今回は冒険者ではなく、ハルトマン家の手の者が刺客のようだ。
 冒険者が好む軽装ではなく、漆黒を基調とした甲冑を身に纏っているのがその証拠。
 まずハルトマンの手の者で間違いない。

「ご主人、ここからどうする?」

「ちょっと待て。 今考えてる」

「なんならこっちから襲っちゃう? その方が手っ取り早いし」

「ラ、ラミィちゃん……」

 確かにこっちから手を出した方が、手っ取り早いといえば手っ取り早い。
 が、今回の目的はあくまで過剰な自己防衛。
 こっちから襲撃して、レイシアや騎士団に協力を仰げなくなる状況だけはなんとしても避けたい。
 勿論却下だ。

「いや、折角ここまでご足労頂いたんだ。 どうせなら招待してやろう。 うちの庭までな」

 俺はそう言って、小首を傾げる三人の合間を通り、小屋へと足を進めていく。
 邪悪な笑みを浮かべながら。




「ソーマ、来たわよ」

「ああ、わかってる。 だからお前もさっさと小屋に入っておけ。 いつまでも此処に居たら、奴らに見つかるぞ」

「へいへい、言われなくてもすぐ行きますよーっだ」

 薪割りをして刺客を待つ俺にいつまでも付き添っていたラミィにそう告げると、ラミィはぶつくさ文句を垂れながら小屋へと避難────

「……ソーマ」

「なんだよ、まだなんかあんのか?」

「……怪我するんじゃないわよ。 無事に戻ってこなかったら只じゃ済まさないから」

「は……?」

 思いもよらぬ言葉に呆けていると、ラミィは頬を染めて扉を閉める。
 そんなラミィに俺は鼻で笑いながら、斧を一振。
 上手い事中心に振り下ろされた斧が、薪をスコンッと小気味良い音で真っ二つにした。
 更に俺はもう一つ割ろうと薪を拾い上げようと手を伸ばす。
 その時。
 奴らが現れた。
 カイネルの刺客。
 ハルトマン家の紋章が彫られた剣や鎧を身に付けた集団が、姿を見せたのである。
 
「あれが例の男か」

「恐らくは」

 手前に居る奴が隊長格のようだ。
 一際いかつい甲冑を着こんでいる。
 その男はこちらに視線を合わせると、背おったツヴァイハンターの柄を握り、わかりきった質問をしてきた。

「貴様がソーマ=イグベルトか」

「……かもな。 だったら?」

「とあるお方から貴様を始末するよう言われている。 抵抗せず投降しろ。 投降するのならば苦しまずに殺してやろう」

 男はそう言うと、ツヴィイハンターの切っ先をこちらに向けてきた。
 少しでも不用意な行動をすれば直ぐにでも斬ると、脅しているつもりなのだろう。
 だが俺は意にも介さず、水筒を男に投げ渡す。

「まあそうカッカすんなって。 ほら、水でも飲んで落ち着けよ。 うちの井戸から汲み上げたばかりのキンキンに冷えた水だ。 旨いぞ」

 しかし男は受け取らず、地に落ちた水筒を踏み砕いてしまった。

「あーあ、なにすんだよ。 それ、最後の一個だったんだぞ。 はぁ……」

 と、大剣の横をすり抜け、水筒の破片を拾おうとした瞬間。

 ゴッ。

「……ッ」

 男に顔面を殴られた。

「いってぇな。 いきなり殴るとか何考えてんだよ、あんた。 いかれてんのか」

 痛いと言ったものの、実際は大した痛みじゃない。
 ラミィに殴られた時の方がよっぽど痛い。
 よし、これなら武器は必要ないな。
 拳でフルボッコにしてやる。

「それ以上余計な動きをしてみろ。 次は腕を切り落とすぞ。 それが嫌なら大人しく首を差し出……」

「ペチャクチャペチャクチャうっせぇなぁ……かかってくんならさっさとかかって来いや、このボケが! どらあっ!」

「がっ!?」

 はんっ。
 俺の首を切り落とすとか、そんな様でよく言えたもんだ。

「た、隊長!」

 たった一発の震脚で蹴り飛ばされた挙げ句、大木に激突して意識を刈り取られた癖に。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

1001部隊 ~幻の最強部隊、異世界にて~

鮪鱚鰈
ファンタジー
昭和22年 ロサンゼルス沖合 戦艦大和の艦上にて日本とアメリカの講和がなる 事実上勝利した日本はハワイ自治権・グアム・ミッドウエー統治権・ラバウル直轄権利を得て事実上太平洋の覇者となる その戦争を日本の勝利に導いた男と男が率いる小隊は1001部隊 中国戦線で無類の活躍を見せ、1001小隊の参戦が噂されるだけで敵が逃げ出すほどであった。 終戦時1001小隊に参加して最後まで生き残った兵は11人 小隊長である男『瀬能勝則』含めると12人の男達である 劣戦の戦場でその男達が現れると瞬く間に戦局が逆転し気が付けば日本軍が勝っていた。 しかし日本陸軍上層部はその男達を快くは思っていなかった。 上官の命令には従わず自由気ままに戦場を行き来する男達。 ゆえに彼らは最前線に配備された しかし、彼等は死なず、最前線においても無類の戦火を上げていった。 しかし、彼らがもたらした日本の勝利は彼らが望んだ日本を作り上げたわけではなかった。 瀬能が死を迎えるとき とある世界の神が彼と彼の部下を新天地へと導くのであった

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ
ファンタジー
クラウス・アイゼンシュタイン、二十五歳、C級冒険者。滅んだとされる死霊術士の末裔だ。 勇者パーティーに「荷物持ち」として雇われていた彼は、突然パーティーを追放されてしまう。 S級モンスターがうろつく危険な場所に取り残され、途方に暮れるクラウス。 そんな彼に救いの手を差しのべたのは、五百年前の勇者親子の霊魂だった。 五百年前に不慮の死を遂げたという勇者親子の霊は、その地で自分たちの意志を継いでくれる死霊術士を待ち続けていたのだった。 魔王討伐を手伝うという条件で、クラウスは最強の女勇者リリスをその身に憑依させることになる。 S級モンスターを瞬殺できるほどの強さを手に入れたクラウスはどうなってしまうのか!? 「凄いのは俺じゃなくて、リリスなんだけどなぁ」 落ちこぼれ死霊術士と最強の美少女勇者(幽霊)のコンビが織りなす「死霊術」ファンタジー、開幕!

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

処理中です...