上 下
41 / 50

水面下で蠢く悪意 後編

しおりを挟む
 もし、もしもだ。
 仮にカイネルが指名手配を押し進められるだけの何かを持っているのだとしたら、対抗手段を模索する意味で、その何かを知っておかなきゃならないだろう。
 だからこの機会に尋ねてみる事にした。
 アイネ以外の三人に。

「三人とも、ちょっと良いか」

「あん? なによ」

 お前は入ってないんだけど。

「お前は邪魔だから、あっち行ってろ。 しっしっ」

「はあああ!? なんっなんよ、その言い方はー! 殴られたいの!?」

 ラミィのあのすぐ手が出る性格はどこかで見た事あると思っていたが、今ようやくわかった。
 こいつだ、こいつと瓜二つなのだ、ラミィは。
 姉妹かと思う程、二人はよく似ている。
 なんて嫌な姉妹なんだ。
 可愛くなってから出直してこい。

「ああもう、なんなんだよお前は! いちいち絡んでくるな! ほら、あめちゃんやるから向こう行ってろ。 良い子だから」

「わーい! ストロベリィ味の飴だー! 私これだーいすき! ……って、なにやらすのよあんたは! こちとらもう二十二歳よ、二十二歳! 子供扱いするんじゃないっての!」

 知らんわ、お前が勝手にノリツッコミしだしたんだろうが。

「こほん。 アイネ、話し合いの邪魔です。 邪魔にならないよう、向こうに行ってなさい。 良いですね」

「なっ! リューネまで!」

「あ、あのー……すいません、アイネ先輩。 新参者がこう言うのもなんですけど、先輩が居ると毎回話が逸れるので、あっちの砂浜で遊んで貰えると助かるのですが……」

「同意」

「うっ!」

「どうせいつものブリーフィングみたく、真面目な話し合いには参加出来ないんだから適当に何処かで遊んでてよ。 その方がこっちは捗るし」

「………………」

 人の事言えないが、お前らもなかなかアイネに容赦ないな。
 総スカン食らったせいで、アイネは膝を抱えて顔を埋めてしまった。
 よし、静かだからこのまま放っておこう。

「それで、我々に何か?」

「別にそう難しい話じゃない。 ただ、指名手配の進捗はどの程度進んでいて、騎士団はその手配にどんな反応を見せているのか。 それを知りたいだけだ」

「なるほど、そういう事でしたか。 それなら簡単にお答え出来ると思います」

 クリスくん、君なかなか有能だな。
 気に入った。

「リューネさん、良いですよね」

「ええ、構いません。 補足があれば私がしますので、やってみなさい」

「はい! ありがとうございます!」

 まるで師弟のようなやり取りを終えたクリスは、バックパックから取り出したノートを捲りながら、丁寧に言葉を紡ぐ。
 
「では、まず進捗となりますが……こちらはあまり芳しくないようでした。 というのも、ソーマ先輩を指名手配出来る程の証拠や理由が無い為、騎士団が受理しないからです。 それでもカイネル氏は無理にでも押し通そうと、騎士団に圧力をかけていますが、騎士団の団長も担う大貴族ラマール=フォンテール様が断固として許可してないのだとか」

「ラマールっていうと確か……」

 サラーナの許嫁だったな。
 ラマール=フォンテールは、俺達平民に寄り添ってくれる貴族にしておくのは勿体無い男だ。
 そうか、あいつがなんとか留めてくれているのか。
 すまん、ラマール。
 恩に切る。
 この件が解決したら酒でもまた飲み交わすとしよう。
 もちろん俺の奢りでな。

「それを聞いて一安心だ。 あいつが相手ならカイネルもさぞやりにくいだろうからな。 じゃあ当面はなんとか……」

「いえ、その……実は、そういう訳でもなくて……」

「ん?」

 歯切れの悪いクリス君にいぶかしむ目を向けると、リューネがフォローに入った。

「騎士団も一枚岩ではない、ということです。 国民を分け隔てなく護る騎士団と言えども、所詮は国の機関。 お上の命には逆らえません」

「お上…………貴族か」

「ええ、そういう事です」

 腐っても上流貴族ってことか。
 恐らく、国の内政を担う政治家の一人に、ハルトマン家と懇意にしている悪徳貴族が居るのだろう。
 騎士団では話になら無いと思ったカイネルはその貴族と共謀し、騎士団に指名手配を強制させようとしている。
 そんな所だろうな。

「ふむ、なるほど。 確かにあまり猶予は無さそうだ。 さて、どうしたもんか…………」

 相手が貴族ではなく冒険者や傭兵であればやりようは幾らでもあるが、貴族が相手となれば話は別。
 慎重にならざるを得ない。
 とはいえ、慎重になりすぎて動きが鈍るのでは本末転倒。
 なんとか突破口を開きたい所だが……。

「…………突破口。 突破口か」

「どうしたの、ソーマ。 もしかしてなんか思い付いた?」

 思い付いたには思い付いたが、正直な所この手段はあまり選択したくない。
 かなり大きな賭けなるからだ。
 最悪、シャロ村はもちろん、こいつら全員が危険に晒されるかもしれない。
 そんな賭けに皆を巻き込む訳には……。

「……ソーマ、まさかとは思いますが貴方もしや、悪い癖が出ているのではありませんか? 私達を巻き込む訳にはいかない、巻き込みたくない、などと下らない事を」

「それは……」

「ふぅ、やはりですか。 貴方ときたらどうしてそう…………良いですか、ソーマ。 確かにこの件は貴方が発端です。 貴方の過去の行いがこの問題を引き起こした。 それは間違いありません。 ですが貴方は思い違いをしている。 もう既に私達は巻き込まれている。 いえ、自ら足を踏み入れました。 なのでソーマは遠慮なく頼れば良いのです、私達を。 昔のように」

 リューネがそう諭してきた直後。
 タイミングを見計らっていたアイネがリューネを押し退け前に出ると、こちらを指差しながら声高に。

「そうそう! あんたは難しい事考えずに、軽い気持ちで頼めば良いのよ! 力を貸してくれ、ってね! どうせこれが終わったらまた離ればなれになるんだし、それならちょっとぐらい…………ゴニョゴニョ……」

「漏れてる、漏れてるから、気持ちが。 あのさ、二人とも。 前に約束したじゃん、もう抜け駆けやめよう。 ソーマの事は諦めようって。 また疑心暗鬼に陥るからって、女の友情に誓って約束したじゃん。 なのにこれ? マジであり得んからね、そういうの。 ホントこいつら嫌い。 ……はー、もうなんだかなぁ。 私ばっかり我慢してバカみたいだよ」

「た……大変そうだな、ランリも相変わらず」

「いや、君のせいだからねコレ全部。 いい加減そこも自覚しよう? 怒るよ?」

 う……やぶ蛇だったか。

「わ、悪かったって。 そんな怒るなよ」

「別に怒ってないけど。 ……んで、なんか思い付いたんだよね? なに? 私達に協力出来そうな事なら、遠慮なく言ってみて。 力貸すから」

 気を取り直したランリが言うと、蚊帳の外に追い出されていたクリスとロゼ含む四人が俺に注目を集めてきた。
 その五人を見渡した俺は。

「ああ、実はお前らに折り入って頼みが……」

 と、計画を話そうとしたその時。
 本来この場に居る筈の無い声が────

「はい、なんでしょう、その頼みとは。 ソーマさんの愛する妻である、このリアに何でもお申し付けください! 愛しの旦那様の為ならどんな難題もこなして見せましょう!」

「なにこのオバサンたち。 ソーマの知り合い? え、あんたブス専だったの? うっわ、趣味わる……ププーッ!」

「「「ああん?」」」

 おっふ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

学園の聖女様と俺の彼女が修羅場ってる。

味のないお茶
恋愛
うちの高校には聖女様と呼ばれる女性がいる。 名前は黒瀬詩織(くろせしおり) 容姿端麗、成績優秀、時間があればひとりで読書をしている孤高の文学少女。 そんな彼女に告白する男も少なくない。 しかし、そんな男共の告白は全て彼女にばっさりと切り捨てられていた。 高校生活の一年目が終わり。終業式の日に俺は半年間想いを寄せてきた彼女に告白した。 それは件の聖女様では無く、同じクラスの学級委員を共に行っていた藤崎朱里(ふじさきあかり)と言うバスケ部の明るい女の子。 男女問わず友達も多く、オタク趣味で陰キャ気味の俺にも優しくしてくれたことで、チョロイン宜しく惚れてしまった。 少しでも彼女にふさわしい男になろうと、半年前からバイトを始め、筋トレや早朝のランニングで身体を鍛えた。帰宅部だからと言って、だらしない身体では彼女に見向きもされない。 清潔感やオシャレにも気を配り、自分なりの男磨きを半年かけてやってきた。 告白に成功すれば薔薇色の春休み。 失敗すれば漆黒の春休み。 自分なりにやるだけのことはやってきたつもりだったが、成功するかは微妙だろうと思っていた。 たとえ振られても気持ちをスッキリさせよう。 それくらいの心持ちでいた。 返答に紆余曲折はあったものの、付き合うことになった俺と彼女。 こうして彼女持ちで始まった高校二年生。 甘々でイチャイチャな生活に胸を躍らせる俺。 だけど、まさかあんなことに巻き込まれるとは…… これは、愛と闇の(病みの)深い聖女様と、ちょっぴりヤキモチ妬きな俺の彼女が織り成す、修羅場ってるラブコメディ。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

【転生先が四天王の中でも最弱!の息子とか聞いてない】ハズレ転生先かと思いきや世界で唯一の氷魔法使いだった俺・・・いっちょ頑張ってみますか

他仲 波瑠都
ファンタジー
古の大戦で連合軍を勝利に導いた四人の英雄《導勝の四英傑》の末裔の息子に転生した天道明道改めマルス・エルバイス しかし彼の転生先はなんと”四天王の中でも最弱!!”と名高いエルバイス家であった。 異世界に来てまで馬鹿にされ続ける人生はまっぴらだ、とマルスは転生特典《絶剣・グランデル》を駆使して最強を目指そうと意気込むが、そんな彼を他所にどうやら様々な思惑が入り乱れ世界は終末へと向かっているようで・・・。 絶剣の刃が煌めく時、天は哭き、地は震える。悠久の時を経て遂に解かれる悪神らの封印、世界が向かうのは新たな時代かそれとも終焉か──── ぜひ読んでみてください!

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界列島

黒酢
ファンタジー
 【速報】日本列島、異世界へ!資源・食糧・法律etc……何もかもが足りない非常事態に、現代文明崩壊のタイムリミットは約1年!?そんな詰んじゃった状態の列島に差した一筋の光明―――新大陸の発見。だが……異世界の大陸には厄介な生物。有り難くない〝宗教〟に〝覇権主義国〟と、問題の火種がハーレム状態。手足を縛られた(憲法の話)日本は、この覇権主義の世界に平和と安寧をもたらすことができるのか!?今ここに……日本国民及び在留外国人―――総勢1億3000万人―――を乗せた列島の奮闘が始まる…… 始まってしまった!! ■【毎日投稿】2019.2.27~3.1 毎日投稿ができず申し訳ありません。今日から三日間、大量投稿を致します。 今後の予定(3日間で計14話投稿予定) 2.27 20時、21時、22時、23時 2.28 7時、8時、12時、16時、21時、23時 3.1  7時、12時、16時、21時 ■なろう版とサブタイトルが異なる話もありますが、その内容は同じです。なお、一部修正をしております。また、改稿が前後しており、修正ができていない話も含まれております。ご了承ください。

カオスの遺子

浜口耕平
ファンタジー
魔神カオスが生みだした魔物と人間が長い間争っている世界で白髪の少年ロードは義兄のリードと共に人里離れた廃村で仲良く幸せに暮らしていた。 だが、ロードが森で出会った友人と游んでいると、魔物に友人が殺されてしまった。 ロードは襲いかかる魔物との死闘でなんとか魔物を倒すことができた。 しかし、友人の死体を前に、友人を守れなかったことに後悔していると、そこにリードが現れ、魔物から人々を守る組織・魔法軍について聞かされたロードは、人々を魔物の脅威から守るため、入隊試験を受けるためリードと共に王都へと向かう。 兵士となったロードは人々を魔物の脅威から守れるのか?  これは、ロードが仲間と共に世界を守る物語である!

処理中です...