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帰郷
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「旦那! 待ってやしたぜ!」
工房ギルドに帰った俺達の前に現れたのは、旅支度を終えたガラドとグレイだった。
二人が背負う大きなリュックからはハンマーや研磨棒、ノコギリなどが見え隠れしている。
どうやら準備は完了しているようだ。
「もう良いのか? あっち行ったら暫く帰ってこれないが」
「ああ、もちろんでさ。 旦那は弟の命の恩人。 そんな人を待たせる訳にはいきませんからな。 だな、弟よ」
「だぁ。 旦那に救っていただいた命、是非有効活用してほしいだぁ」
「つう訳なんで、いつでも出発出来ますぜ、旦那」
帰郷は早ければ早い方が良い。
二人がそれで良いのなら渋る必要もない。
「わかった。 なら早速……」
「お待ちくだせぇ、ソーマ殿」
いざギルドから立ち去ろうとしたその時、声をかけられた。
声をかけてきたのは工房ギルドの工房長にしてギルドマスターのドワーフだった。
「どうした? なにか俺に用か?」
「ええ。 実は折り入ってお願いがありまして。 どうかこの二人をソーマ殿の元に置いてやってはくれませんか」
「え?」
その言葉にチラッと二人を見ると、二人は力強く頷いていた。
「ガラドとグレイから先程相談されましてね。 ソーマ殿の元で恩を返したい。 ソーマ殿についてゆきたいと聞かんのです。 ですのでどうか置いてやっては貰えませんか、お願いします」
「こっちとしちゃとても助かるが、そっちはそれで良いのか? 二人はこのギルドでもかなり有能なドワーフなんだろう?」
「構いません。 アルドン様からもソーマ殿が望むなら是非連れていってやって欲しいと言われておりますので、どうか」
アルドンもか。
なら、断る必要もない。
リアも断りはしないだろう。
「わかった。 じゃあ二人を借りていく。 ありがとう」
礼を告げると、工房長は深く頭を下げた。
そして俺は、二人に向き直ると手を差し出し、こう言った。
「これからよろしく頼む。 ガラド、グレイ」
「それはこっちのセリフですぜ、旦那。 これから世話になる」
「んだ」
こうして俺達は仲間となり、シャロ村へ帰郷を果たす事となった。
それからはや三日。
「おう、旦那! 今日も様子を見にきたのか! いつもご苦労さん!」
「んだんだ」
ガラドとグレイの働きによって、村の外周にはレンガ造りの外壁が半分程出来上がりつつあった。
「どうだ、進捗は」
「ああ、もうそろそろ半分ってとこだ。 あと四日もありゃあ、完璧に仕上げられるぜ」
話には聞いていたが、本当に有能だな。
こんな外壁を一週間程度で仕上げるなんて、神業と言う他無い。
「立派なもんやねぇ。 腰抜かしそうだわい」
「ほんとやねぇ。 最初はこんな仰々しい外壁村に合わんと思っとったが、こうして見ると悪くないかもしれんなぁ」
そう、最初の頃はご老人がたからの評判はよくなかった。
村の景観が損なわれるという理由で。
だが安全と俺達若者の事を鑑みて、最終的には認めて貰うに至った。
今では逆に好意的で、苦労した甲斐があったというものだ。
「ソーマちゃんが村に来てから昔以上の活気が戻ってきて、なんだか嬉しいわ。 ありがとうね、ソーマちゃん」
「いや、感謝するのは俺の方だ。 こんな流れ者を受け入れてくれて、本当に感謝してる。 だからこのくらいやって当然だ。 いや、やらせてくれ」
「ほっほっほ。 相変わらず謙虚で優しい子じゃのう。 そんなお前さんにはこれをやろう」
じいさんが持ってきたのは、どこかで見覚えのあるホットドッグだった。
「ホットドッグじゃねえか! 貰って良いのか!?」
「もちろんじゃて。 むしろ渡さんとリアちゃんに怒られてしまうわい」
なるほど、リアから……。
どおりで見覚えがある筈だ。
「じゃあ遠慮無く。 あむ」
うん、やっぱりリアのホットドッグが一番だな。
病み付きになる。
「美味しそうに食べるのぉ。 流石は妻じゃな。 旦那の好みをよお知っとる」
「ぶっ!」
いつの間にか妻という事になっているだけでなく、周囲に熟知されている程知れ渡っている事実に、俺はつい吹き出してしまった。
「げほげほ。 いや、リアは俺の妻じゃないんだが……」
「そうなのか。 リアちゃんが吹聴しておったからてっきり」
「なにしてんだ、あいつ。 後で説教してやるから覚えとけよ……って、お前はお前でなにしてんだ、ロゼ」
存在定理を使って忍び寄っていたのか、ロゼが気配無く背中に飛び乗ってきた。
背中にほんのりと膨らみを感じる。
「やっほー。 これ返しにきた」
背中越しに渡してきたのは、アルドンから貰った金一封。
開けてみると、殆んど無くなっていた。
「なんだ、足りたのか。 足りなかったら追加で渡そうと準備しておいたんだが、無駄になったな」
「ギリギリ。 行商人のお姉さん、まけてくれた。 ご主人がいつも色々買ってくれるからって」
「なら後で礼を言っておかないとな」
「うん」
ロゼは頷くと背中から降りて、ポケットをまさぐる。
ポケットから出てきたのは鍵。
それを俺に渡すと、ロゼは「バイバイ」と手を振って去っていった。
俺はその鍵を握り締め、作業をしているガラドを見上げてニッと微笑んだ。
ガラドが喜ぶ姿を思い浮かべながら。
工房ギルドに帰った俺達の前に現れたのは、旅支度を終えたガラドとグレイだった。
二人が背負う大きなリュックからはハンマーや研磨棒、ノコギリなどが見え隠れしている。
どうやら準備は完了しているようだ。
「もう良いのか? あっち行ったら暫く帰ってこれないが」
「ああ、もちろんでさ。 旦那は弟の命の恩人。 そんな人を待たせる訳にはいきませんからな。 だな、弟よ」
「だぁ。 旦那に救っていただいた命、是非有効活用してほしいだぁ」
「つう訳なんで、いつでも出発出来ますぜ、旦那」
帰郷は早ければ早い方が良い。
二人がそれで良いのなら渋る必要もない。
「わかった。 なら早速……」
「お待ちくだせぇ、ソーマ殿」
いざギルドから立ち去ろうとしたその時、声をかけられた。
声をかけてきたのは工房ギルドの工房長にしてギルドマスターのドワーフだった。
「どうした? なにか俺に用か?」
「ええ。 実は折り入ってお願いがありまして。 どうかこの二人をソーマ殿の元に置いてやってはくれませんか」
「え?」
その言葉にチラッと二人を見ると、二人は力強く頷いていた。
「ガラドとグレイから先程相談されましてね。 ソーマ殿の元で恩を返したい。 ソーマ殿についてゆきたいと聞かんのです。 ですのでどうか置いてやっては貰えませんか、お願いします」
「こっちとしちゃとても助かるが、そっちはそれで良いのか? 二人はこのギルドでもかなり有能なドワーフなんだろう?」
「構いません。 アルドン様からもソーマ殿が望むなら是非連れていってやって欲しいと言われておりますので、どうか」
アルドンもか。
なら、断る必要もない。
リアも断りはしないだろう。
「わかった。 じゃあ二人を借りていく。 ありがとう」
礼を告げると、工房長は深く頭を下げた。
そして俺は、二人に向き直ると手を差し出し、こう言った。
「これからよろしく頼む。 ガラド、グレイ」
「それはこっちのセリフですぜ、旦那。 これから世話になる」
「んだ」
こうして俺達は仲間となり、シャロ村へ帰郷を果たす事となった。
それからはや三日。
「おう、旦那! 今日も様子を見にきたのか! いつもご苦労さん!」
「んだんだ」
ガラドとグレイの働きによって、村の外周にはレンガ造りの外壁が半分程出来上がりつつあった。
「どうだ、進捗は」
「ああ、もうそろそろ半分ってとこだ。 あと四日もありゃあ、完璧に仕上げられるぜ」
話には聞いていたが、本当に有能だな。
こんな外壁を一週間程度で仕上げるなんて、神業と言う他無い。
「立派なもんやねぇ。 腰抜かしそうだわい」
「ほんとやねぇ。 最初はこんな仰々しい外壁村に合わんと思っとったが、こうして見ると悪くないかもしれんなぁ」
そう、最初の頃はご老人がたからの評判はよくなかった。
村の景観が損なわれるという理由で。
だが安全と俺達若者の事を鑑みて、最終的には認めて貰うに至った。
今では逆に好意的で、苦労した甲斐があったというものだ。
「ソーマちゃんが村に来てから昔以上の活気が戻ってきて、なんだか嬉しいわ。 ありがとうね、ソーマちゃん」
「いや、感謝するのは俺の方だ。 こんな流れ者を受け入れてくれて、本当に感謝してる。 だからこのくらいやって当然だ。 いや、やらせてくれ」
「ほっほっほ。 相変わらず謙虚で優しい子じゃのう。 そんなお前さんにはこれをやろう」
じいさんが持ってきたのは、どこかで見覚えのあるホットドッグだった。
「ホットドッグじゃねえか! 貰って良いのか!?」
「もちろんじゃて。 むしろ渡さんとリアちゃんに怒られてしまうわい」
なるほど、リアから……。
どおりで見覚えがある筈だ。
「じゃあ遠慮無く。 あむ」
うん、やっぱりリアのホットドッグが一番だな。
病み付きになる。
「美味しそうに食べるのぉ。 流石は妻じゃな。 旦那の好みをよお知っとる」
「ぶっ!」
いつの間にか妻という事になっているだけでなく、周囲に熟知されている程知れ渡っている事実に、俺はつい吹き出してしまった。
「げほげほ。 いや、リアは俺の妻じゃないんだが……」
「そうなのか。 リアちゃんが吹聴しておったからてっきり」
「なにしてんだ、あいつ。 後で説教してやるから覚えとけよ……って、お前はお前でなにしてんだ、ロゼ」
存在定理を使って忍び寄っていたのか、ロゼが気配無く背中に飛び乗ってきた。
背中にほんのりと膨らみを感じる。
「やっほー。 これ返しにきた」
背中越しに渡してきたのは、アルドンから貰った金一封。
開けてみると、殆んど無くなっていた。
「なんだ、足りたのか。 足りなかったら追加で渡そうと準備しておいたんだが、無駄になったな」
「ギリギリ。 行商人のお姉さん、まけてくれた。 ご主人がいつも色々買ってくれるからって」
「なら後で礼を言っておかないとな」
「うん」
ロゼは頷くと背中から降りて、ポケットをまさぐる。
ポケットから出てきたのは鍵。
それを俺に渡すと、ロゼは「バイバイ」と手を振って去っていった。
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