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業魔剣フルグラム

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 さて……どう戦うか。
 奴の攻撃は地中からの触手による刺突と、口から吐き出す消化液。
 それと噛みつき。
 中距離、近距離、どちらにも対応している。
 ならば……!

「ここは敢えて突っ込む!」

「旦那、正気か!? そんな化物一人で相手する気かよ!」

 後頭部の遥か向こうからガラドの声が聴こえてくるが、俺は構わず駆け出した。
 無論、タイラントも座して待つばかりじゃない。

「シャアアアアッ!」

 予想通り、地中からの触手攻撃で俺の肉体を狙ってきたか。
 だがこの程度、障害にもならない。

「旦那、アブねえ! ……って、嘘だろオイ」

「ふっ!」

 およそ十数本と襲いかかってきた触手は全て、ほんの一瞬で真っ二つ。
 淀みない剣筋により、呆気なく切り裂かれた。

「なんだありゃあ。 人間……どころか、生き物のする動きじゃねえぞ。 どうなってんだ」

「ガラドさん! こちらへ! ソーマさんの邪魔にならないようシールドを張ります!」

 言われ、ガラドはリアの背後に回る。
 すると次の瞬間。

「神々の守護よ! 光となり、我らの護り手とならん! 神の手ヴァリアント!」

 リアは魔法を発動。
 杖から放たれた光が意思を持ったように壁となった。

 流石はリアだ、この状況で何をすべきかよくわかっている。
 実力に伴うだけの強力な魔法も扱えてるし、もう護られているだけの女の子じゃないな、あいつは。
 頼りにさせてもらうぞ、リア。

「なっ! ヴァリアントだと!? 嬢ちゃん、あんたなにもんだ! こんな高等魔法、なんであんたみてえな子供が扱えんだ! ヴァリアントは世界に数人しか使えない、光属性最高峰の魔法だぞ!」

「そうなんですか? なんとなく覚えたから、なんとなく使ってみただけなんですが」

「な……なんなんだ、あんた。 いや、あんたら。 常識外にも程があるぜ……」

 と、ガラドが呆けている最中。
 タイラントは至近距離まで詰めてきた俺へ、消化液を吐いてきた。
 これが少しでもかかれば肉体はすぐに溶ける。
 しかしこの距離では避けきるのも難しい。  
 なら…………吹き飛ばすしかあるまい、と。

「イグベルト流が一の型────風塵!」

 俺は踏み込み、シンプルに剣を縦に振る。
 その剣圧は凄まじく、衝撃波を生む程。
 意図も簡単に消化液を吹き飛ばしてしまった。

「…………旦那、魔法までも使えるのかよ。 どうなってんだ、あの御仁は」

「あっ、あれは魔法じゃなくて剣の風圧を飛ばしてるだけらしいですよ」

「…………」

 ここまでは順調だが、ここからどうしたもんか。

「はっ! ……チッ」

 やはり通らないか。
 タイラントの弱点は他の触手型魔物と同じく茎。
 茎さえ切断すればネームドと言えど、耐えられはしない。  
 のだが、いかんせん茎が頑丈過ぎて、どうしようもない状況だ。
 せめてもっと切れ味のある武器があれば良いんだが。

「どうしたんだ、旦那。 動きが鈍くなっちまったぞ」

「……もしかして、刃が通ってない?」

「なんだと……?」

 ザンッ。

 ダメか。
 この数秒間に二十は斬ってみたが、まったく断てる気配がない。
 いや実際にはそこそこ斬れてはいるのだが、こいつの回復力が凄まじすぎて直ぐに治ってしまうのだ。
 これでは打つ手がない。
 どうしたもんか。

「あ、兄貴……」

 ん……?
 今の声はもしや……。

「グレイ! お前、起きたのか! 身体は大丈夫なのか!?」 

「おでは大丈夫……。 でもあのままじゃあ、あの人があぶねえ。 兄貴、あれをあの人に渡そう。 あの剣を……」

「あ、あれをか!? だがあれは人の手にどうこう出来るもんじゃ……!」

「何か解決策があるんですか!? なら教えてください! 今はどんな力も必要なんです!」

 リアがそう懇願すると、ガラドは暫く悩んだのち、リュックから妙な物を取り出した。
 魔石を利用した一回限りの召喚装置だ。

「わかった……これを旦那に渡してくれ。 そしてこう伝えてほしい。 これを使いながら名を叫べ。 業魔剣フルグラム、とな」 

 こくりと頷いたリアは、召喚装置を手に取り、ヴァリアントを維持したまま勇猛果敢にダイブ。  

「邪魔を……しないで! 光槍シュヴァイツアー!」

 襲い来る触手を数多の光輝く槍で撃ち落とし、着地。
 そのまま間髪いれず、俺に召喚装置を投げてきた。

「ソーマさん、これを……! 合言葉は!」

「問題ない、聞こえていた! 後は任せろ、リア!」

 言うと頷いたリアは、その場でヴァリアントを展開し、防御体勢に移行。
 俺はそれを横目に剣を放り、召喚装置を起動させた……!

「来い! 業魔剣フルグラム!」

 その瞬間、召喚装置から魔方陣が展開。
 直後、水晶に酷似した召喚装置は粉々に砕け散ったが、代わりに禍々しい剣が姿を現した。

「あれが……」

「こいつが、業魔剣フルグラム……。 なんて禍々しい…………うっ!」

 なんだこの剣。
 持った途端、妙な倦怠感と声が……。

 喰らえ、殺せ、喰らえ、殺せ、喰らえ、殺せ、喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ。
 ……目の前の存在を全て殺し尽くすまで喰らい尽くせ。

 これは……この声はもしや、この剣が直接俺の心に語りかけているのか?
 まるで洗脳されている感覚に陥ってくる。

「旦那! それは所有者の魂に寄生しようとする、剣の形をしたばけもんだ! 気を抜くと魂を喰われて、そいつの奴隷にされるぞ! まともに声を聴くな! その声に取り込まれたら終わりだ!」

「はっ……それはまた、なかなかの難物だな……」

 確かに一瞬でも油断したら直ぐにでも飲み込まれそうだ。
 だが俺はまったく危機感を覚えてない。
 何故だか不思議とそう感じている。

「おい、フルグラム。 聴こえるな。 そんなに敵を喰らいたいか」

「旦那! なにを!」

「喰らいたいかと訊いている! 答えろ、フルグラム!」

 ドクン。
 まるで会話をするよう剣が鼓動した。
 喰らいたいと、戦いたいと。

「そうか。 なら俺の元に来て正解だぞ、フルグラム。 俺はガキの頃から殺し合い殺し合いばかりの人生でな、魔族を斬って、魔人を斬って、魔物を斬って……人を斬ってきた。 だから安心しろ、フルグラム。 お前の空腹は俺が満たしてやる。 安心してお前は俺に跪け。 俺の手足となって、俺に使われろ。 異論はないよな、お前なら」

『…………最高だ。 最高だな、てめえはよぉ! てめえこそが俺様が待ち望んだ悪魔……いや、悪鬼だぜ! 良いぜ、こっから先、俺様はてめえの剣だ! 爪だ、牙だ! 振り回して見せろ、食らって見せろ、全てをてめえの意のままに! このフルグラム! 今よりてめえの剣となってやるよっ!』

「フッ」

 先程までとは違い、鮮明に聴こえてくるフルグラムの声。
 その契約の言葉を鼻で笑った刹那。
 フルグラムから大量の魔力が溢れだし、俺の左手に契約の証。  
 悪魔ディアブロの爪を模した紋様が刻み込まれた。

「ば、バカな……! あの男、フルグラムを従えやがったのか! あり得ねぇ……こりゃとんでもねえ男に、とんでもねえもんを与えちまったんじゃねえのか、ワシャあ……」

 なんだこの、身体の底から沸き上がる妙な力は。
 暖かくも冷たい、そんな力が沸き上がってくる。

『そいつは魔力ってやつさ、マスター。 魔族や魔物が生まれながらに持っているエネルギーって奴だ。 んで、人の身にて魔力を扱うには、悪魔ディアブロの力を宿した悪魔の織手ディアボロスになるしかねえ。 つまり俺様との契約が絶対条件って訳だ。 使い方は……』

「良い。 なんとなく感覚でわかる。 要はあれだろ、気とかそんな感じの」

『……ケケッ! いいねぇ、いいねぇ! こりゃあマジもんの当たりじゃねえの! ならやってみな、我が主! てめえの魂を解放しやがれ!』

 脳内でフルグラムが喚く中、俺はフルグラムを構え、魔力の流れに集中。
 そして、剣に、肉体に、その力が巡り高まりを感じた次の瞬間。

魔神の爪ディアブロ・オブ・アダマス!」

 フルグラムを横凪に振った。  

「ギィッ……」

 振られたフルグラムから放たれた莫大なエネルギー。
 フルグラムが魔力と呼んだそれはどういう原理か、タイラントを斬るだけに留まらず、鉱山の外壁。 
 更にはその向こうの山頂、果てには雲まで切り裂いてしまう始末。
 これが魔力を用いた剣技、か。

「「「「…………」」」」

 ……いかん、いかん過ぎるだろ、この技は。
 余りにも強すぎる。
 もう二度と使わないように封印なければ、と俺はポッカリと空いた穴から空を見上ながらそう胸に誓った。
 
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