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決死の人命救助

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「ここが例の鉱山か。 話に聞いてた通り、崩落してんな」

 一応まだ出入り可能そうな出入口は見つけたが、見事に落盤で埋まっている。
 このままでは通れそうにない。
 だからこそ、この男の力が必要なわけだ。

「旦那、さっきは悪かったな。 失礼な態度取っちまって。 だが本当に良いのかい? かなりあぶねえぜ、この中は」

「なら余計に急がないとな。 あんたの弟が死なないうちに」

「そうかい。 だったら力を貸して貰うぜ、旦那」

「ああ、任せてくれ。 さて、んじゃどうしたら良い? このドリルって道具で掘りゃあ良いのか?」

 俺の手には先程ガラドが作っていたドリルなるものが握られている。
 これで岩盤に穴を開けられるらしい。

「おう。 中心に開けてくれ。 そこに少量の爆薬を仕込んで崩壊させる」

 言われた通り、俺はドリルで穴を少し開ける。
 そこへガラドが魔石を混入させた爆弾を設置。
 手に持ったボタンを押すと中の魔石が機能し、爆弾を起動させた。

「きゃっ!」

 岩盤に対して爆弾の量が少ない気がしたが、そこは流石のドワーフ。
 完璧に計算された爆発は見事、岩盤を崩落させた。
 しかも鉱山そのものにはダメージがない。
 大したものである。
 
「おし、上手くいったな。 行くぜ、旦那。 足元気ぃつけな」

「ああ、わか…………ッ」

 鉱山に足を踏み入れた瞬間、妙な気配に襲われた。
 これは……。

「待て、ガラド。 俺達が先行する。 あんたは後ろからついてこい」

「あん? 一体どうしたって……わあったよ。 俺はあんたらの後ろをついていく。 先行は頼んだ」

 最後尾に下がったガラドが歩きだした俺達についてくる中、リアがボソッと。

「どうかしたんですか、ソーマさん?」

「詳しいことはまだなにも。 だが、崩落の原因はわかったかもしれん」

「え? それって一体……」
  
 その問いに俺はただ一言こう伝えた。

 ……この鉱山内にネームドが居る、と。



 ネームド。
 正式名称でネームドモンスターと呼称されるこの魔物は、いわゆる特殊個体。
 特殊な環境で進化を遂げた変異体である。
 当然ながら、通常の魔物とは一線を画す存在だ。
 少しの油断が命取りとなる。
 特にこういった入り組んだ地形では不意を突かれることが少なくない。
 細心の注意を払う必要があるだろう。

「………………」

「リア、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です。 この震えは……これはただの武者震いですから……」

「強がらなくて良い。 ネームドは普通の魔物じゃない、怖くて当たり前だ。 だから下手に隠そうとせず、恐怖に身を任せろ。 その方が生き残る確率はグッと上がる」

 震える手を握りそう言ってやると、少しは落ち着いたのか力が若干抜けたのを感じた。

「ありがとう……ございます、ソーマさん」 

「気にするな」

「……はい」

 なにやら熱い視線を感じる。
 もしやまた何かやってしまったのか、俺は。
 ただ心構えを教えただけなんだが。

「こほん」

「「!」」

「そろそろさっきの話に戻って良いですかい、旦那」

 さっきの話、というと、ネームドの種類についてだったか。

「あ……ああ、そうするか。 で、どこまで話したんだっけ?」

「アラクネではなさそう、という所までです」

 そうそう、そうだった。

「さっき聞きそびれたんだが、どうしてアラクネじゃねえと思ったんだ、旦那」

「別に難しい話じゃない。 アラクネみたいな蜘蛛型の魔物は確かにこういった炭鉱や洞窟を根城にする事が多い魔物だ。 けど、アラクネには炭鉱を崩落させる程の力はない。 鋼糸を張り巡らせて獲物を狩るのがせいぜい。 だからアラクネは外した、それだけの事だ」

「じゃあ何が居るんで? この鉱山には」

 アラクネではないとなれば、ある程度絞られてくる。
 まず大型のネームドは除外しても良い。
 この鉱山はおおよそ縦が三メートル程度。
 更には所々うねっている。
 こんな地形を大型の魔物が身動き出来る筈がない。
 ゆえに除外と考えて問題ない。
 となると、考えられるのは……。

「ここからは俺の憶測だが、恐らくは……マンイーターのネームド。 タイラントだ」

「タイラント……! ……って、なんです?」

 こけそうになったわ。

「えっとだな……タイラントってのは、言ってみればマンイーターが肥大化したバカでかい植物型魔物の事だ。 牙の生えた球根のような頭部。 幾つもの茎が束ねられた胴体。 地中に伸ばした根が特徴的で、基本的な攻撃はその頭部での噛みつきと消化液の散布。 それと、地中からの根っこ攻撃だな」

「それはなんというか……厄介そうな相手ですね」

「加えて、タイラントならではの特殊攻撃がある。 それが、地鳴りだ」

「地鳴り……? てことは、まさか……!」

 おっさん、なかなか良い勘をしている。
 その通りだ。

「ああ、そのまさかだ。 この崩落事件は恐らく、マンイーターの地鳴りによるものだと思う。 ほら、ここを見てみろ。 奥に向かうごとに壁の亀裂が大きくなっているだろ? これが地鳴りの証拠。 震源地を指し示す痕跡だ」

「な、なるほど……」

「流石は竜殺し。 一流の剣士なだけはあるってことか。 大した慧眼だ、恐れ入った」

「別にそこまで大した事じゃないんだがな。 Bランク以上ともなると実力だけじゃなく、知識も重要となる案件が増えてくる。 それだけの話だ……っと、着いたみたいだな」

 話をしていたら、いつの間にかその震源地へと辿り着いていたらしい。
 広い空間が目の前に現れた。

「ここが最奥……採石場か」

「ああ、そうだ。 ここで弟は作業を……」

「……! ソーマさん、ガラドさん! あそこを見てください! 人が!」

 リアが指差した先。
 梯子を昇った先の足場を見てみると、人が四人ほど固まってぐったりしているのが見て取れた。

「グレイ!」

「グレイ? まさか弟さんか?」

「ああ、そうじゃ! 待っておれよ、グレイ! 今助けてやるからな!」

 ガラドはそう叫ぶと、梯子に駆けていく。
 リアもだ。
 回復魔法でもかけてやるつもりなのだろう。

「ソーマさん、行きましょう! ……ソーマさん?」

 本来であれば手伝うべきなのだが、俺はその場を動かなかった。
 否、動くわけにはいかなかった。
 ここに居る全員を救う為には、地上に残るしか選択肢が無かったからだ。

「なにしてるんですか、ソーマさん! 早く救助を!」

「リア! お前は彼らに回復魔法を! その後はそこから動くな! わかったな!」

「え……?」

 と、昇りきったリアがしゃがんで俺を下ろす最中。  
 それは現れた。

「キャアッ! な、なに……地震? ううん、この揺れは……これは違う! これは地震なんかじゃ…………まさか!」

「来たか……」

 そう、そのまさかだ。
 今の揺れはただの地震ではない。
 
「キシャアアアアアッ!」
 
 ネームドモンスター、タイラント。
 マンイーターの変異種が、地面を貫いて現れた揺れだ。
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