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村長の責務と自信喪失 後編

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 ───1───

「それじゃあ行ってくる。 みんな、またな」

「バカソーマ! リアに傷一つでもつけたらただじゃおかないからね! 覚えときなさいよ!」

「ばーい」

「チッ……せいぜい気ぃつけるこった」

 こうして俺とリアはシャロ村を発った。
 村中の人に見送られて。




「うーん! ふぅ……! 初めて草原に来たが、なかなか気持ちいいもんだな。 風が爽やかだし、どこまでも広がる緑の大地も壮観だ。 もっと早く来ればよかった」

「………………」

「……あー、そういえばリアは王都に行ったことはあるか? 王都は凄いぞ。 色んな店や建物があってな、幾ら見て回ってもあまりの広さに回りきれないんだよな。 広場には噴水もあって、なかなか綺麗だぞ。 リアも絶対気に入ると思う。 もしよかったらそのうち案内してやろうか? つってもカイネルの野郎をなんとかしない限り難しいだろうけど……」

「…………ですね」

 一体どうしたというのか。
 村を出てからリアはずっとこんな調子だ。
 気付かない内に何か気に障る事でもしてしまったのだろうか。

「……リア、どうした。 随分元気がなさそうだが。 もしや俺がなにか……」

「い、いえ! そうじゃないんです、そうじゃ! ただ……自分が不甲斐なくて」

 どういう意味だ?

「不甲斐ない……? そりゃまたどうして。 リアは十分やってると思うけどな」

「本当にそうでしょうか。 あの襲撃の折り、ソーマさんの普段と違った様子に一番早く気がついたのはラミィでした。 ウルフとの戦いに最も貢献しているのはロゼです。 挙げ句の果てに村の事はソーマさん頼り。 こんなんじゃお父さんに顔向けで来ません……。 やっぱり私なんかじゃ村長なんて無理なんですよ……」

 そういう事だったのか。
 皆の活躍を間近で見ていて自分に自信が持てなくなった。  
 つまりはこういう事か。
 だけどな、リア。
 それはお前の思い違いだ。
 俺はお前が居たから今こうして生き永らえている。
 ラミィだってリアが居るから笑顔でいられる。
 お前が居たからロゼはこの村で楽しく暮らせている。
 全部お前のお陰なんだ、リア。
 だからそんな卑下する必要はない。
 それを伝えてやらないと。

「……本当にそうか? 俺はそうは思わない」

「え……?」

「皆が笑顔でいられるのはリアの尽力のお陰だと、俺は思ってる。 お前はいつも村を第一に考えてくれてるからな。 感謝しているよ、本当に。 そしてそれは皆に伝わってる筈だ、間違いなく。 だから、そんな心配しなくて良い。 心配する必要なんか無いんだ。 もしそれでも文句を言う奴が要るなら俺がぶっとばしてやる。 俺達の村長はリアだ。 文句あるか! ってな!」

「ソーマさん……」

 よし、だいぶ顔色がよくなってきたな。  
 もうひと押しだ。

「……それに、今回ドワーフに助けを求めようと提案したのはリア。 お前が最初だったろ。 リアが提案しなかったらこんな考え、誰も浮かばなかった。 大したやつだよ、お前は。 ……だからリア、お前は自信持って良いんだよ。 自分があの村の村長だって自信を持って、さ」

「……ありがとうございます、ソーマさん。 お陰で少し自信を取り戻しました。 もう、大丈夫です。 今はやるべき事に集中しないと、ですよね」

 よかった、笑顔が戻ってくれて。
 
「ああ、その通りだ。 今はランブルドンに向かおう。 そんな悩みなんか忘れちまって。 ほら、行くぞリア。 あと半分だ、頑張れ」

「はい!」

 ────2────

 それからおよそ半日。
 羊の横断に足を止められ、時折ゴブリンと戦い、自然に見とれていたら大雨に見舞われたりと紆余曲折ありながらも、俺達は遂に到着する事が出来た。
 この鉱山都市、ランブルドンへと。
 だがどうやら、着いてそうそうトラブルに巻き込まれてしまったようだ。

「門を通過したい者は列に並べ! これはランブルドンの盟主、アルドン様の命である! 怪しき者は即刻拘束するゆえ、不審な行動はせぬように!」

「おいおい、こりゃどういう事だ。 なんでランブルドンで検閲なんか……」

「なんでも聞いた話じゃ、王都からお偉いさんが出向して来ているらしいぞ。 それで急遽、検閲を設けたんだとか」

「はあー、そりゃご苦労なこって。 こっちとしちゃあ良い迷惑だがな」

「ちげえねぇ」

 なるほど、だからこんな厳しい検閲を……。

「なんともタイミングの悪い時に来ちまったみたいだな。 ついてない」

「お偉いさんってどなたなんでしょう? 高官……貴族とかでしょうか?」

「その可能性が高いだろうな。 わざわざこんな検閲を設けるぐらいだ。 お忍びじゃなくて、仕事で来ているのかもしれない。 ほんと良い迷惑だよ」

 俺の説明で納得したのか、リアは「ほえー」と感心する。

「どんな方なんでしょうね、その貴族の方って。 ちょっと興味があります」

「あんまり貴族に興味を持たない方が良いぞ。 大抵厄介な事になるからな」

 今の俺みたいに。

「そ、そうなんですか。 気を付けます」

 と、リアが苦笑いを浮かべた直後。

「次の者、前へ!」

 ようやく俺達の番がやってきた。 

「お前達、名は?」

「あっ、はい。 私はリアゼル=シャロです。 シャロ村の村長をしてます」

「ほう、シャロ村の。 行った事はないが、のどかな田舎だと聞いている。 いずれは観光に行ってみたいものだ。 よし、お前は通ってよし」

 通行の許可を貰えたリアは先に門へと向かう。
 それを見届けた門番が、今度は俺に尋ねてきた。

「そっちのお前も名乗れ」

「ソーマ=イグベルト。 シャロ村のギルドで冒険者をしている」

「ふむ、ソーマ=イグベルトか。 ソーマ……ソーマ。  ん……どこかで聞き覚えが……。 あっ! もしや貴様があのソーマ=イグベルトか!」

 え、なに?
 なんでドワーフが俺の名を知ってんだ?

「そ、そうだけど……なんだよ」

「いやなに。 今ランブルドンに来訪している貴族のご令嬢から、ソーマ=イグベルトもし見つけたら連れてこいと仰せつかっていてな。 悪いが同行して貰うぞ」

「…………なんだって?」
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