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村長の責務と自信喪失 前編
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───1───
「はああっ! よし、これで後は三匹! この調子で…………しまった! 村に入られたか! リア、頼む!」
「はい、行きます! 水流よ、かの者を押し留めよ! 水弾!」
度重なる襲撃により破壊された柵を飛び越えたウルフに、リアが水の魔法を発射。
本来であれば水圧で相手の動きを押し止める放水のような魔法の筈だが、レゾナンスエフェクトの効果でアクアの威力は凄まじく上昇。
まるで熱線のように凝縮された水の塊は、いとも簡単にウルフの肉体を貫通し、一瞬で亡き者にした。
とんでもない威力と発動スピードだ。
リアはもうAランク冒険者並みの実力だろう。
あの歳でそこまで登り詰めるとはなんとも末恐ろしい。
だが強くなったのはなにもリアだけでない。
あいつもかなり強くなっている。
「これでもくらってなさい! ソーサーバックラー!」
ラミィは駆けてくるウルフに小盾を投げ、攻撃を仕掛ける。
初撃は避けられてしまったが、弧を描いて戻ってきた小盾はウルフの背に直撃。
真っ二つにしながら持ち主であるラミィの手元に、帰っていった。
「ほっと! どんなもんよ、私の力は! もうウルフなんて敵じゃないわね!」
まさかあのラミィが俺に対して淡い恋心を抱く事になるとは。
やはり村唯一の男というのはよくも悪くも、男を知らないうぶな女の子に影響を与えてしまうものらしい。
正直想定外だ。
ラミィは俺を嫌っているものだとばかり思っていたからな。
どこであいつは俺を意識しだしたのやら。
まったく身に覚えがない。
想定外といえばあいつもだろう。
「じゃあ最後はロゼが貰う。 幻影組成」
ユニークスキルにはレゾナンスエフェクトのような、副次能力と呼ばれるスキルが発現する事がたまにある。
だがサイドエフェクトを発現させる条件は、殆んど運だ。
通常のスキルであれば発現に必要となるのは、使用回数や戦闘経験などの経験値。
しかしユニークスキルのサイドエフェクトについてはどれだけ強くなろうとも、どれだけ使おうとも発現の条件にはならない。
ただただ運。
しかも人生で一つか二つ発現すれば良い程度。
にも関わらず、ロゼはレゾナンスエフェクトの条件をほんの少し満たしただけで、すぐ発現してみせた。
とんでもない少女である。
はたまたそれすらもレゾナンスエフェクトの為せる技なのだろうか。
相変わらず謎なスキルだ。
と、分析している間にも、ロゼはサイドエフェクトを展開し終えたようだ。
ウルフの周辺に本物にしか見えないロゼの幻影が、所狭しと出現している。
もちろん全て偽物だ。
がしかし、使われた側からしてみればどれが本物かもわからない状況。
警戒して防御に徹するしかなくなる。
「ふっ」
どこかから息の漏れたような声が聞こえてきた。
その次の瞬間。
「ぎゃう!」
ウルフの頭部に飛来したナイフが突き刺さり、一撃の元にウルフを消滅させた。
あれが幻影組成の真骨頂。
攻撃の瞬間幻影に紛れ込み、回避不可能な攻撃を放つ幻影組成を利用したロゼ独自の技。
影討ちである。
超高速戦闘と意識の阻害を利用して自分の思うままに戦場を支配する、ロゼならではの技だろう。
敵に回したくないものだ。
「ふぅ……なんとか今回も防ぎきりましたねー」
「疲れた」
これで六回目の襲撃か。
皆の働きのお陰で今回も防げたが、そろそろ皆も体力の限界だ。
ここら辺でなんとか好転させなければ、近い内に村は滅ぼされる可能性が高い。
何か手段を考えねば。
──2───
同日の夕方。
今後についての対策会議を行っていた最中。
ようやくあいつが帰ってきた。
「ただいま。 今調査から戻ったよ」
「よう、エリオ。 思ったより遅かったな」
「はは、ウルフが持ち帰ったと思われる死体の捜索だからね。 なかなか骨が折れたよ。 場所は……ここだね」
エリオが広げた近隣について詳しく記されている地図には、円が一つ追加されている。
村からほど近いところにある平原の洞窟だ。
「洞窟? てことはあのウルフども、オールドウルフか。 どうりで緑がかった毛色のフォレストウルフとは違って、至って普通の毛色だったわけだ。 ちなみに規模は?」
「かなり、とだけ言っておくよ。 中がかなりいりくんでてね、流石に調べきれなかった」
「そうか…………でも死体は見つけたんだよな?」
「それはもちろん。 どれも白骨になってたけどね」
あのウルフども、人間の味をしめやがったか。
恐らくそれが村を襲う理由だろうな。
人間の血の味を求めて。
「となると殲滅はほぼ不可能。 かといって諦める可能性はかなり低い。 まいったな、どうしたもんか。 これじゃあ喰われるのを待つしか……いや、待てよ。 リア、さっきのあの話なんだが……」
「さっきの……? あっ、もしかしてあの話ですか? 平原の向こう側に広がる鉱山都市、ランブルドン。 そこに住むドワーフ族を雇って、防壁を建てて貰うっていう」
「ああ、そうだ。 ウルフの襲撃を終わらせられない以上、もうその方法しかない。 幸い金はある。 出来なくはない筈だ」
言いながら、ぐるりと見渡す。
どうやら誰も反論する気はないようだ。
皆頷いている。
「わかった。 なら村の護りはロゼ達に任せて。 一月ぐらいならなんとかもたせられると思う」
「ちょ、なんで私が! ……ああもう、わかったわよ! ったく、しょうがないわね。 やってやるわよ、それで良いんでしょ! でも早めに帰ってきなさいよ。 いつまで持つかわかんないんだから」
……あれ?
俺が行くのか?
まあ良いけど。
「ならそれで決まりだな。 出向は明日の朝に……」
と、会議を締め括ろうした時。
リアが待ったをかけた。
「待ってください、ソーマさん!」
「ん?」
「リア? どうかしたの?」
ラミィに尋ねられ、リアは少し口をつぐむ。
だが唾を飲み込んだリアは、身を乗りだしてこんな事を────
「私も……私も連れていってください! お願いします!」
……は?
「はああっ! よし、これで後は三匹! この調子で…………しまった! 村に入られたか! リア、頼む!」
「はい、行きます! 水流よ、かの者を押し留めよ! 水弾!」
度重なる襲撃により破壊された柵を飛び越えたウルフに、リアが水の魔法を発射。
本来であれば水圧で相手の動きを押し止める放水のような魔法の筈だが、レゾナンスエフェクトの効果でアクアの威力は凄まじく上昇。
まるで熱線のように凝縮された水の塊は、いとも簡単にウルフの肉体を貫通し、一瞬で亡き者にした。
とんでもない威力と発動スピードだ。
リアはもうAランク冒険者並みの実力だろう。
あの歳でそこまで登り詰めるとはなんとも末恐ろしい。
だが強くなったのはなにもリアだけでない。
あいつもかなり強くなっている。
「これでもくらってなさい! ソーサーバックラー!」
ラミィは駆けてくるウルフに小盾を投げ、攻撃を仕掛ける。
初撃は避けられてしまったが、弧を描いて戻ってきた小盾はウルフの背に直撃。
真っ二つにしながら持ち主であるラミィの手元に、帰っていった。
「ほっと! どんなもんよ、私の力は! もうウルフなんて敵じゃないわね!」
まさかあのラミィが俺に対して淡い恋心を抱く事になるとは。
やはり村唯一の男というのはよくも悪くも、男を知らないうぶな女の子に影響を与えてしまうものらしい。
正直想定外だ。
ラミィは俺を嫌っているものだとばかり思っていたからな。
どこであいつは俺を意識しだしたのやら。
まったく身に覚えがない。
想定外といえばあいつもだろう。
「じゃあ最後はロゼが貰う。 幻影組成」
ユニークスキルにはレゾナンスエフェクトのような、副次能力と呼ばれるスキルが発現する事がたまにある。
だがサイドエフェクトを発現させる条件は、殆んど運だ。
通常のスキルであれば発現に必要となるのは、使用回数や戦闘経験などの経験値。
しかしユニークスキルのサイドエフェクトについてはどれだけ強くなろうとも、どれだけ使おうとも発現の条件にはならない。
ただただ運。
しかも人生で一つか二つ発現すれば良い程度。
にも関わらず、ロゼはレゾナンスエフェクトの条件をほんの少し満たしただけで、すぐ発現してみせた。
とんでもない少女である。
はたまたそれすらもレゾナンスエフェクトの為せる技なのだろうか。
相変わらず謎なスキルだ。
と、分析している間にも、ロゼはサイドエフェクトを展開し終えたようだ。
ウルフの周辺に本物にしか見えないロゼの幻影が、所狭しと出現している。
もちろん全て偽物だ。
がしかし、使われた側からしてみればどれが本物かもわからない状況。
警戒して防御に徹するしかなくなる。
「ふっ」
どこかから息の漏れたような声が聞こえてきた。
その次の瞬間。
「ぎゃう!」
ウルフの頭部に飛来したナイフが突き刺さり、一撃の元にウルフを消滅させた。
あれが幻影組成の真骨頂。
攻撃の瞬間幻影に紛れ込み、回避不可能な攻撃を放つ幻影組成を利用したロゼ独自の技。
影討ちである。
超高速戦闘と意識の阻害を利用して自分の思うままに戦場を支配する、ロゼならではの技だろう。
敵に回したくないものだ。
「ふぅ……なんとか今回も防ぎきりましたねー」
「疲れた」
これで六回目の襲撃か。
皆の働きのお陰で今回も防げたが、そろそろ皆も体力の限界だ。
ここら辺でなんとか好転させなければ、近い内に村は滅ぼされる可能性が高い。
何か手段を考えねば。
──2───
同日の夕方。
今後についての対策会議を行っていた最中。
ようやくあいつが帰ってきた。
「ただいま。 今調査から戻ったよ」
「よう、エリオ。 思ったより遅かったな」
「はは、ウルフが持ち帰ったと思われる死体の捜索だからね。 なかなか骨が折れたよ。 場所は……ここだね」
エリオが広げた近隣について詳しく記されている地図には、円が一つ追加されている。
村からほど近いところにある平原の洞窟だ。
「洞窟? てことはあのウルフども、オールドウルフか。 どうりで緑がかった毛色のフォレストウルフとは違って、至って普通の毛色だったわけだ。 ちなみに規模は?」
「かなり、とだけ言っておくよ。 中がかなりいりくんでてね、流石に調べきれなかった」
「そうか…………でも死体は見つけたんだよな?」
「それはもちろん。 どれも白骨になってたけどね」
あのウルフども、人間の味をしめやがったか。
恐らくそれが村を襲う理由だろうな。
人間の血の味を求めて。
「となると殲滅はほぼ不可能。 かといって諦める可能性はかなり低い。 まいったな、どうしたもんか。 これじゃあ喰われるのを待つしか……いや、待てよ。 リア、さっきのあの話なんだが……」
「さっきの……? あっ、もしかしてあの話ですか? 平原の向こう側に広がる鉱山都市、ランブルドン。 そこに住むドワーフ族を雇って、防壁を建てて貰うっていう」
「ああ、そうだ。 ウルフの襲撃を終わらせられない以上、もうその方法しかない。 幸い金はある。 出来なくはない筈だ」
言いながら、ぐるりと見渡す。
どうやら誰も反論する気はないようだ。
皆頷いている。
「わかった。 なら村の護りはロゼ達に任せて。 一月ぐらいならなんとかもたせられると思う」
「ちょ、なんで私が! ……ああもう、わかったわよ! ったく、しょうがないわね。 やってやるわよ、それで良いんでしょ! でも早めに帰ってきなさいよ。 いつまで持つかわかんないんだから」
……あれ?
俺が行くのか?
まあ良いけど。
「ならそれで決まりだな。 出向は明日の朝に……」
と、会議を締め括ろうした時。
リアが待ったをかけた。
「待ってください、ソーマさん!」
「ん?」
「リア? どうかしたの?」
ラミィに尋ねられ、リアは少し口をつぐむ。
だが唾を飲み込んだリアは、身を乗りだしてこんな事を────
「私も……私も連れていってください! お願いします!」
……は?
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