パークラ認定されてパーティーから追放されたから田舎でスローライフを送ろうと思う

ユースケ

文字の大きさ
上 下
8 / 50

チョロイン

しおりを挟む
 ───1───

 リアに案内されて辿り着いたギルドマスターの家。
 そこは村外れに広がる湖畔にひっそりと佇むログハウスだった。
 湖畔はそこそこの規模で透明度が高く、遠目からでも魚が泳いでいるのがよく見える。
 のんびり釣りをするのも良さそうなロケーションだ。

「ソーマさん、どうですか? 気に入ってくれました?」

「ああ、思ったよりも悪くない。 なかなか住み心地がよさそうだ」

 前屈みで訊いてきたリアにそう返すと、彼女は嬉しそうに微笑んでクルッとターン。
 スキップ気味に階段を登っていく。
 俺もその後を追い、木造扉の鍵穴に鍵を差し込んだ。

「……確かに人が住んでる気配は殆んどないな」

 扉を開けると飛び込んできた玄関とリビングは、持ち家とは思えないくらい閑散としている。
 およそ誰かが住んでいるとは思えないぐらいすっからかん。
 釜戸や鍋、食卓ですら殆んど使われた形跡が無い。

「けほけほ! はぁ……まったく、あの吟遊詩人は。 相変わらずまともに帰ってないのねー。 埃っぽいったら無いわ」

「吟遊詩人? ギルドマスターじゃないのか?」

「あはは……エリオさんは元々吟遊詩人を生業にしてまして。 今でもギルドマスターの仕事をしながら、たまに詩を披露してるんですよ」

 なるほど、そういう事。
 
「ふぅん……なかなか面白そうな人だな。 俄然会うのが楽しみになってきた」

 言いながら、俺は二つある扉のうち、左側の扉を開けてみた。
 どうやらこの部屋は、なかなか帰ってこない住人の部屋のようだ。 
 武器や書物がそこら中に散らばっている。
 俺はその中の1つ。
 いかにも貴重そうな装丁の本を手に取り、タイトルに目を通してみた。

「エリオ=アンジールの華麗なる半生……」

 パラパラと捲ってみるとこんな内容が記されていた。

 ──僕は麗しの吟遊詩人、エリオ=アンジール。
 虚しくも美しいこの世界に囚われし愛の虜囚さ。
 ああ世界よ、どうして君は僕を檻へと閉じ込めるんだい?
 何故君は僕の声を独り占めにしようとするんだい?
 何故君は僕をかごの中の鳥にしたいんだい?
 いいや、本当はわかってる。
 僕が美しすぎるから、僕の声があまりにも魅力過ぎるから、君を狂わせてしまったんだね。
 なら僕は君の全てを許そう。  
 それが君の心を縛り付けてしまった僕の責務────

 パタン。

 なんだこの……なんだこれ。
 これはもしやあれか。
 自伝だとかポエムだとかいうやつか。
 な、なんて痛々しい物を発見してしまったんだ、俺は。

「……うん、見なかった事にしよう」

 と、本を元の位置に戻したその時。
 リアが部屋を覗き込んできた。

「ソーマさん、そこでなにしてるんですか? その部屋はエリオさんの部屋ですよ?」
 
「い……いや、なんでもない。 直ぐに出る」

 そう告げるとリアは小首を傾げて視界から消え、俺も続いてエリオの部屋から退出。
 唯一探索していない隣の部屋へと足を踏み入れた。

「「「………………」」」

 ゴミ屋敷。
 いや、足の踏み場も無いゴミ部屋へと。
 なかなかハードなお片付けになりそうな予感。



 ───2───

「おいしょっと。 ……ふぅ、大体こんなもんか」

 目の前にはゴミの山。
 言葉の綾ではなく、あのゴミ部屋に詰め込まれていた大量の不要品で、正真正銘のゴミ山となっている。
 そこへ何の用途で使うかわからないボロボロの木の板を乱雑に投げ込んでいると、近くの長椅子から寝息が聞こえてきた。
 
「すぴー、すぴー」

 でっかい鼻ちょうちんだな、おい。
 よくもまあこんな寒空の下で寝れるもんだ。
 風邪引くぞ。
 ゴミ山にぶちこんでやろうか。
 と、鼻ちょうちんを割って暇潰しをしていたら、一旦帰宅していたリアが帰ってきた。

「遅かったな、リア。 なにしてたんだ?」

「お腹空いてると思って、夜食作って来たんです。 食べますか?」

 彼女の手元には前に見たバケットがぶら下がっており、ほのかに美味しそうな香りが漂ってきている。
 この香りは、ケチャップソース。
 それと────

「この独特な酸味のある香しい香りと程よい焼き加減の匂い……もしや、ホットドッグか!」

「はい、大正解です!」

 リアは花のように微笑むと、ホットドッグと手拭きを手渡してきた。
 俺はそれを受け取り、まず濡れ布で手を丹念に拭い、次に一口……。
 
「んぐんぐ……これはなかなかうま…………っ!」

 なんだこのホットドッグ、驚きの旨さなんだが。  
 焼きたてのソーセージはパリパリのプリプリで食べ応えがあり、上に垂らされているケチャップソースは恐らく自家製なのだろう。
 市販のソースとは違う爽やかで濃厚な味わいがパンとキャベッツにもよく絡んでいて、この上なく美味。
 更にはこのパン……まさか表面を少しだけ炙っているのか?
 噛んだ瞬間に感じる歯応えからの、ふわふわ食感がなんとも言えない食感を生み出している。
 ホットドッグは今まで腐る程食べてきたが、このホットドッグはこれまで食べてきたどのホットドッグよりも上だと確信出来る。
 王都で食べたホットドッグが残飯と思える程には旨い。
 感涙ものだ。

「どう……ですか? お口に合いました?」

「…………」

「あの、ソーマさん……? もしかしてあまりお好きな味じゃなかったです……か?」

 不満でも言われるのかと思ったのか、リアは不安げな顔色を見せる。
 それに反して俺は拳を震わせながら振り絞った声で────

「……旨い! なんて旨いんだ、このホットドッグは! こんな旨いホットドッグはこれまで食べた事がない……! くぅぅぅっ! 俺にもっと語彙力があれば、相応しい称賛を口に出来たのに! 悔しい! でも旨い! おかわり!」

「は、はいどうぞ! ゆっくり食べてくださいね? それにしても、そんなに美味しいんですか? 普通に作っただけなんですけど……」

 謙虚は時として毒となる。
 本心で言っているのにお世辞と思われるのは特に心外。
 もちろんそれは俺も例に漏れず。

「ああ、嘘じゃない。 リアはホットドッグ作りの天才だ。 ホットドッグマイスターの俺が言うんだから間違いない」

「ホットドッグマイスター」

 ついつい熱くなってしまった俺は、唖然としているリアに、とんでもない言葉を発してしまったのである。

「これでリアがもう少し大人だったら求婚してるところなんだがな。 いくらホットドッグ作りが神がかっていて、ここで逃したら次はないかもしれないとしても、流石に子供に手を出す訳には…………」

「き……きゅきゅきゅ、求婚!?」

 あ。

「はぅぅぅ」

 俺は何を口走っているんだ。
 およそ遠回しの告白にしか聞こえない言葉を受けたリアは、顔を真っ赤にしてしきりに求婚求婚と何度も繰り返している。
 その赤さはまるでゆでダコォの如く。
 リアとは出会ってまだ三日。
 流石にいくら田舎娘と言えども、こんなどこの馬の骨とも知れない男に告白まがいの事を言われたとしても好意を抱くわけがない筈。
 大丈夫だ、まだ慌てる時間じゃない、と思いつつも俺は一応誘因共鳴インキュライズスキルの一つ。

好感度表示ステータスオープン

 を実行。
 次の瞬間、リアの頭上に、今どのくらい自分に対する好意が向いているかを可視化した文字が浮かび上がって……。
 
 ──結婚生活を妄想してしまうぐらいには好き。

 ちょろすぎだろ、うちの村長!
 
「あー、リア? 今のはその、なんというか。 別にお前と結婚したいとかそういう意味じゃ…………!」

 ガタッ。

「ど、どうした。 急に立ち上がって」

 混乱しているのか、リアは瞳をグルグルさせながら、勢いよく立ち上がると。

「ソソソ……ソーマさん!」
 
「はい?」

「私! ソーマさんのお嫁さんに相応しくなれるよう、今日から花嫁修業頑張ってきます! 将来ソーマさんのお嫁さんになる為に! ということで、今日はここら辺で一旦帰りますね! では! ……ひゃああああ!」

「は? おい、ちょっと待てリア! それってどういう……! 戻ってこい、リア! おーい!」

 引き留めようとしたが、リアは既に遠方。
 俺の右手は宙に虚しく浮くばかりだった。

「ああ……きゅうーりは入れないで……きゅうーりは嫌い…………むにゃむにゃ」

 このアマ……。
 
 ──いつか私の手で亡き者にしてやる。

 ステータスにそんな表示されるぐらい俺の事が嫌いなら常に見張ってろよ。
 俺とリアを。
 肝心なところで役に立たない女である。

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

剣しか取り柄がないという事で追放された元冒険者、辺境の村で魔物を討伐すると弟子志願者が続々訪れ剣技道場を開く

burazu
ファンタジー
剣の得意冒険者リッキーはある日剣技だけが取り柄しかないという理由でパーティーから追放される。その後誰も自分を知らない村へと移住し、気ままな生活をするつもりが村を襲う魔物を倒した事で弓の得意エルフ、槍の得意元傭兵、魔法の得意踊り子、投擲の得意演奏者と様々な者たちが押しかけ弟子入りを志願する。 そんな彼らに剣技の修行をつけながらも冒険者時代にはない充実感を得ていくリッキーだったのだ。

【2章完結】女神にまで「無能」と言われた俺が、異世界で起こす復讐劇

騙道みりあ
ファンタジー
※高頻度で更新していく予定です。  普通の高校生、枷月葵《カサラギアオイ》。  日常を生きてきた彼は突如、異世界へと召喚された。  召喚されたのは、9人の高校生。  召喚した者──女神曰く、魔王を倒して欲しいとのこと。  そして、勇者の能力を鑑定させて欲しいとのことだった。  仲間たちが優秀な能力を発覚させる中、葵の能力は──<支配《ドミネイト》>。  テンプレ展開、と思いきや、能力が無能だと言われた枷月葵《カサラギアオイ》は勇者から追放を食らってしまう。  それを提案したのは…他でもない勇者たちだった。  勇者たちの提案により、生還者の居ないと言われる”死者の森”へと転移させられた葵。  そこで待ち構えていた強力な魔獣。  だが、格下にしか使えないと言われていた<支配《ドミネイト》>の能力は格上にも有効で──?  これは、一人の少年が、自分を裏切った世界に復讐を誓う物語。  小説家になろう様にも同様の内容のものを投稿しております。  面白いと思って頂けましたら、感想やお気に入り登録を貰えると嬉しいです。

処理中です...