上 下
2 / 50

移転

しおりを挟む
「うーん……」

 同業者からの妬みと拒絶。
 ギルド職員からのやっかみ。
 サラーナヴェスベルク団との気まずさ。
 等と言った諸々の理由から、俺は王都のギルドから別のギルドへ移転しようと書類に筆を走らせていたのだが、ふとある部分で筆が止まってしまった。
 そのある部分とは、移転先のギルドについて、である。

「移転先、なぁ。 どっか良いところあったっけ」

 自慢じゃないが、俺は村を飛び出してからのこの五年間。
 二十三歳になるまでの間、王都以外のギルドで働いた事がない。
 故に移転先と言われてもピンと来ないのだ。
 とはいえ一応心当たりが無い訳じゃない。
 その心当たりとは、故郷のティオ村だ。
 ド田舎で過疎化の進む村だが、そんな村にもギルドはある。
 かなり小規模ではあるものの彼処なら勝手も知ってるし、働きやすい環境だろう。
 だが一つ問題がある。
 それは────

「つっても、今更どんな面下げて戻れば良いんだよ。 誰の制止も聞かず、半ば抜け出したように村から出ていったのに」

 きっと未だに孤児院の皆は怒っている筈だ。
 小さい頃から面倒を見てくれていたじいさんばあさん達も。
 さよならも言わず消えたんだから怒って当たり前。
 せめて一旗あげてから……そしたら俺は大手を振って妹の元に…………。

「ソーマさん、書けましたか?」

 筆先で用紙をトントン叩いていると、受付を担当しているエルフの一人が話しかけてきた。
 
「いや、なかなか目星がつかなくて」

「みたいですね。 では何か希望はありませんか? ご希望に添えそうなギルドを紹介致しますよ」

 希望、か。
 だとしたらやはりあれしかない。

「じゃあ、そうだな。 俺の悪評も届かないような田舎で、登録冒険者も少ないギルド……とかある? もうこういういざこざには疲れちゃって」

「ふむ、その条件でしたら確か……少々お待ちください。 資料をお持ちしますので」

 受付嬢はお辞儀をすると資料室へと向かっていった。
 その後ろ姿を呆然と眺めていた最中の事。
 
「よぉ、兄ちゃん。 聞こえちまったんだがあんた、移転でもすんのかい?」

 さっきからこちらをチラチラ見ていた三人組が話しかけてきた。
 今しがた話しかけてきたこの男が、こいつらのリーダーなのだろうか。
 一際大きい図体をしている。

「あ……ああ、まあな。 都会の喧騒にも疲れたし、田舎でのんびり暮らそうかと思って」

「へぇ、そりゃ都合が良い。 なぁ、兄貴」

「ひひっ、だなぁ」

 なんだ、こいつがリーダーじゃなかったのか。
 どうやらリーダーは影に隠れていたトカゲみたいな顔立ちの男らしい。

「都合が良い? どういう意味だ……?」

「いやなに、大した意味はねえよ。 ただ田舎の方に行くならついでに護衛でもしてやろうかと思ってな」

 怪しい。
 この上なく怪しいな、こいつら。
 今まで殆んど関わりが無かったのに、ここに来てそんな提案を持ちかけてくるだなんて、よからぬ事を考えてますって言ってるようなものだ。

「……折角の申し出だけど遠慮するよ。 俺は一人でも平気だから、護衛は必要ない。 悪いな」

「おいおい、嘘つくなよ兄ちゃんよぉ。 知ってるんだぜぇ?」

「知ってるって、何を?」

「んなの決まってんだろぉ? てめぇのスキルの事さ。 噂で聞いたんだけどよぉ、自分に好意を寄せる相手が近くに居ねぇと効果が出ないんだろぉ? つまり誘因共鳴インキュライズがまともに作用しねぇ今の兄ちゃんは、雑魚に毛が生えた程度っつー訳よ。 わかるか、この意味?」

「…………かもな。 けど小型の魔物程度ならまだなんとか退けられるぐらいの力はあるから、心配は無用だ。 護衛は必要ない」

 と、吐き捨てながら視線を逸らすと、男は舌打ちして仲間を引き連れて去っていった。
 下卑た笑みを浮かべながら。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

異世界辺境村スモーレルでスローライフ

滝川 海老郎
ファンタジー
ブランダン10歳。やっぱり石につまずいて異世界転生を思い出す。エルフと猫耳族の美少女二人と一緒に裏街道にある峠村の〈スモーレル〉地区でスローライフ!ユニークスキル「器用貧乏」に目覚めて蜂蜜ジャムを作ったり、カタバミやタンポポを食べる。ニワトリを飼ったり、地球知識の遊び「三並べ」「竹馬」などを販売したり、そんなのんびり生活。 #2024/9/28 0時 男性向けHOTランキング 1位 ありがとうございます!!

異世界で買った奴隷がやっぱ強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
「異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!」の続編です! 前編を引き継ぐストーリーとなっておりますので、初めての方は、前編から読む事を推奨します。

処理中です...