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移転
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「うーん……」
同業者からの妬みと拒絶。
ギルド職員からのやっかみ。
サラーナヴェスベルク団との気まずさ。
等と言った諸々の理由から、俺は王都のギルドから別のギルドへ移転しようと書類に筆を走らせていたのだが、ふとある部分で筆が止まってしまった。
そのある部分とは、移転先のギルドについて、である。
「移転先、なぁ。 どっか良いところあったっけ」
自慢じゃないが、俺は村を飛び出してからのこの五年間。
二十三歳になるまでの間、王都以外のギルドで働いた事がない。
故に移転先と言われてもピンと来ないのだ。
とはいえ一応心当たりが無い訳じゃない。
その心当たりとは、故郷のティオ村だ。
ド田舎で過疎化の進む村だが、そんな村にもギルドはある。
かなり小規模ではあるものの彼処なら勝手も知ってるし、働きやすい環境だろう。
だが一つ問題がある。
それは────
「つっても、今更どんな面下げて戻れば良いんだよ。 誰の制止も聞かず、半ば抜け出したように村から出ていったのに」
きっと未だに孤児院の皆は怒っている筈だ。
小さい頃から面倒を見てくれていたじいさんばあさん達も。
さよならも言わず消えたんだから怒って当たり前。
せめて一旗あげてから……そしたら俺は大手を振って妹の元に…………。
「ソーマさん、書けましたか?」
筆先で用紙をトントン叩いていると、受付を担当しているエルフの一人が話しかけてきた。
「いや、なかなか目星がつかなくて」
「みたいですね。 では何か希望はありませんか? ご希望に添えそうなギルドを紹介致しますよ」
希望、か。
だとしたらやはりあれしかない。
「じゃあ、そうだな。 俺の悪評も届かないような田舎で、登録冒険者も少ないギルド……とかある? もうこういういざこざには疲れちゃって」
「ふむ、その条件でしたら確か……少々お待ちください。 資料をお持ちしますので」
受付嬢はお辞儀をすると資料室へと向かっていった。
その後ろ姿を呆然と眺めていた最中の事。
「よぉ、兄ちゃん。 聞こえちまったんだがあんた、移転でもすんのかい?」
さっきからこちらをチラチラ見ていた三人組が話しかけてきた。
今しがた話しかけてきたこの男が、こいつらのリーダーなのだろうか。
一際大きい図体をしている。
「あ……ああ、まあな。 都会の喧騒にも疲れたし、田舎でのんびり暮らそうかと思って」
「へぇ、そりゃ都合が良い。 なぁ、兄貴」
「ひひっ、だなぁ」
なんだ、こいつがリーダーじゃなかったのか。
どうやらリーダーは影に隠れていたトカゲみたいな顔立ちの男らしい。
「都合が良い? どういう意味だ……?」
「いやなに、大した意味はねえよ。 ただ田舎の方に行くならついでに護衛でもしてやろうかと思ってな」
怪しい。
この上なく怪しいな、こいつら。
今まで殆んど関わりが無かったのに、ここに来てそんな提案を持ちかけてくるだなんて、よからぬ事を考えてますって言ってるようなものだ。
「……折角の申し出だけど遠慮するよ。 俺は一人でも平気だから、護衛は必要ない。 悪いな」
「おいおい、嘘つくなよ兄ちゃんよぉ。 知ってるんだぜぇ?」
「知ってるって、何を?」
「んなの決まってんだろぉ? てめぇのスキルの事さ。 噂で聞いたんだけどよぉ、自分に好意を寄せる相手が近くに居ねぇと効果が出ないんだろぉ? つまり誘因共鳴がまともに作用しねぇ今の兄ちゃんは、雑魚に毛が生えた程度っつー訳よ。 わかるか、この意味?」
「…………かもな。 けど小型の魔物程度ならまだなんとか退けられるぐらいの力はあるから、心配は無用だ。 護衛は必要ない」
と、吐き捨てながら視線を逸らすと、男は舌打ちして仲間を引き連れて去っていった。
下卑た笑みを浮かべながら。
同業者からの妬みと拒絶。
ギルド職員からのやっかみ。
サラーナヴェスベルク団との気まずさ。
等と言った諸々の理由から、俺は王都のギルドから別のギルドへ移転しようと書類に筆を走らせていたのだが、ふとある部分で筆が止まってしまった。
そのある部分とは、移転先のギルドについて、である。
「移転先、なぁ。 どっか良いところあったっけ」
自慢じゃないが、俺は村を飛び出してからのこの五年間。
二十三歳になるまでの間、王都以外のギルドで働いた事がない。
故に移転先と言われてもピンと来ないのだ。
とはいえ一応心当たりが無い訳じゃない。
その心当たりとは、故郷のティオ村だ。
ド田舎で過疎化の進む村だが、そんな村にもギルドはある。
かなり小規模ではあるものの彼処なら勝手も知ってるし、働きやすい環境だろう。
だが一つ問題がある。
それは────
「つっても、今更どんな面下げて戻れば良いんだよ。 誰の制止も聞かず、半ば抜け出したように村から出ていったのに」
きっと未だに孤児院の皆は怒っている筈だ。
小さい頃から面倒を見てくれていたじいさんばあさん達も。
さよならも言わず消えたんだから怒って当たり前。
せめて一旗あげてから……そしたら俺は大手を振って妹の元に…………。
「ソーマさん、書けましたか?」
筆先で用紙をトントン叩いていると、受付を担当しているエルフの一人が話しかけてきた。
「いや、なかなか目星がつかなくて」
「みたいですね。 では何か希望はありませんか? ご希望に添えそうなギルドを紹介致しますよ」
希望、か。
だとしたらやはりあれしかない。
「じゃあ、そうだな。 俺の悪評も届かないような田舎で、登録冒険者も少ないギルド……とかある? もうこういういざこざには疲れちゃって」
「ふむ、その条件でしたら確か……少々お待ちください。 資料をお持ちしますので」
受付嬢はお辞儀をすると資料室へと向かっていった。
その後ろ姿を呆然と眺めていた最中の事。
「よぉ、兄ちゃん。 聞こえちまったんだがあんた、移転でもすんのかい?」
さっきからこちらをチラチラ見ていた三人組が話しかけてきた。
今しがた話しかけてきたこの男が、こいつらのリーダーなのだろうか。
一際大きい図体をしている。
「あ……ああ、まあな。 都会の喧騒にも疲れたし、田舎でのんびり暮らそうかと思って」
「へぇ、そりゃ都合が良い。 なぁ、兄貴」
「ひひっ、だなぁ」
なんだ、こいつがリーダーじゃなかったのか。
どうやらリーダーは影に隠れていたトカゲみたいな顔立ちの男らしい。
「都合が良い? どういう意味だ……?」
「いやなに、大した意味はねえよ。 ただ田舎の方に行くならついでに護衛でもしてやろうかと思ってな」
怪しい。
この上なく怪しいな、こいつら。
今まで殆んど関わりが無かったのに、ここに来てそんな提案を持ちかけてくるだなんて、よからぬ事を考えてますって言ってるようなものだ。
「……折角の申し出だけど遠慮するよ。 俺は一人でも平気だから、護衛は必要ない。 悪いな」
「おいおい、嘘つくなよ兄ちゃんよぉ。 知ってるんだぜぇ?」
「知ってるって、何を?」
「んなの決まってんだろぉ? てめぇのスキルの事さ。 噂で聞いたんだけどよぉ、自分に好意を寄せる相手が近くに居ねぇと効果が出ないんだろぉ? つまり誘因共鳴がまともに作用しねぇ今の兄ちゃんは、雑魚に毛が生えた程度っつー訳よ。 わかるか、この意味?」
「…………かもな。 けど小型の魔物程度ならまだなんとか退けられるぐらいの力はあるから、心配は無用だ。 護衛は必要ない」
と、吐き捨てながら視線を逸らすと、男は舌打ちして仲間を引き連れて去っていった。
下卑た笑みを浮かべながら。
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