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反抗作戦

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 とはいえ、上流貴族に無策で挑もうなど愚行も愚行。
 やり返したところで結果は見えている。
 という訳で、確実にマークを打倒する為、頼りになる面々を召集した。

「──それではこれより、いかにしてマーク=オルガあいつに仕返しをするかの会議を始めようと思う。 ナギサ、例の物は用意出来ているな?」

「うん、もっちろん! すぐ持ってくるねー」
 
 そう言ってナギサが引きずってきたのは、掲示板用によく使われる滑車付き木の板。
 その板を俺の隣に止めると、ナギサは大判用紙を貼りつけた。
 用紙は可愛らしい文字や絵で埋め尽くされている。
 流石は新聞部、要望通りの仕上がりだ。

「なんか出てきた」

「これ、わざわざ作ったのか? なんていうか随分と本格的だな」

「ふぅ、リュート様ったら相変わらず形から入りたがるんですから」

 うるさいな、こうした方がわかりやすいんだから別に良いだろ。
 
 ──パンッ。

「皆様、お静かに。 お喋りはそこまでにしてくださいませ。 会議を始めますわよ」

 カンナが会議を進めようと注意を促すも、その行動が余計な騒ぎを引き起こしてしまった。
 というのも……。

「えっと……その前に一つ良いかな?」

「なんです? 早くしないと午後の授業が始まってしまいますから、手短にお願いしますわ」

「んじゃあ遠慮無く言わせて貰うけどよぉ……なーんで、カンナちゃんとルベールパイセンまでここに居んの? こう言っちゃなんだけど、関係なくね?」

「……ふん」

 ホルトの言葉にナギサ以外のメンバーがウンウン頷く。
 そりゃ不思議だよな、今までなんの関わりもなかった二人がいきなり会議に参加してるんだから。
 
「むっ。 関係ないとは失礼ですわね。 クラスメイトが困っていたら助けるのは、人として当然の事でなくて?」

「う、うっす……」

 うんうん。
 わかるぞ、ホルト。
 カンナに睨まれると何も言えなくなっちゃうよな。
 流石はルベール先輩の妹なだけはある。
 兄同様、威圧感が半端ない。

「ホルト……」

「し、仕方ねえだろ! あんな目で睨まれたらビビるに決まって……ヒッ!」

「はぁ」

 相変わらず話進まねえ。
 やっぱりこいつらに頼ったのは早計だったか。
 メリルにだけ相談すれば良かったかも。

「カンナ、続きを」

「……こほん。 では時間も押してる事ですし、早速本題へ入るとしましょうか。 まずはこれを見て頂戴」

 カンナが指し棒でナギサが張り付けた大判用紙を指すと、フィオがボソッと呟いた。

「マーク=オルガをギャフンと言わせよう大作戦……?」

「ふざけた作戦名だなー。 緊張感に欠けるっていうか」

「ははっ」

 俺もそう思う。

「むー、可愛くてわかりやすい良い名前じゃーん。 ねー、ヴェルちーん」

 それには賛同致しかねる。

「ふむ、思ったよりもしっかり出来てますね。 これはナギサさんが?」

「うん、そだよー。 って言っても、ヴェルちんの指示どおり書いただけなんだけどねー」

「ふふ、やはりそうでしたか。 流石はリュート様! 完璧な仕上がりでございます!」

 当然だ、これでも前世はIT企業に就職しようと、大学でそっち方面の授業を選択してたからな。
 意外とこういうのは得意なんだ。

「特にその、完遂する為の三目標というのが大変素晴らしいですね! とてもよいタスク管理かと!」

「だろ? ここが今回一番の自信作でさ、色んな状況に対応出来るよう様々な視点から……」

「……ごほん!」

 カンナにジロッと睨まれてしまった。
 皆も困り果てた表情を浮かべている。

「進めても?」

「あ、はい。 お願いします」

「はあ、まったく。 では気を取り直して、まずは第一フェーズであるマーク=オルガの弱みを掴む所から……」

 と、会議がいよいよ本題に入ろうとしたその時。

「ごめん、ちょっと良いかい?」

 シュテルクが恐る恐る手を挙げた。
 
「……どうぞ」

「はは、ごめん。 別に水を差したい訳じゃないんだけど、これだけは聞いておかないとと思ってね。 ……リュート、単刀直入に聞くよ。 今朝の一件、君はすぐマークの仕業と気付いた。 それはどうしてだい?」

「どうしてって、それは……」

 ああ、そういえば俺の机を破壊したのがマーク一味だって確信した理由を話してなかったな。
 多分シュテルクはこう言いたいのだ。
 もしやったのがマークじゃなかったら、と。
 もし間違いだった場合、取り返しのつかない事態になるのでは、と危惧しているのだろう。
 心配はごもっともだ。
 しかし、その心配は必要ない。
 あれをしたのはマークで間違いないのだから。

「確かにあんな事をするのはマーク以外居ないと思う。 けど状況証拠だけでマークがやったという証拠はない。 なのに君はまるで知っていたかのように言い当ててみせた。 もし何か理由があるなら納得のいく説明して貰えないかな。 じゃないと、これ以上関わることは出来ない」

「ああ? ざけてんのか、てめぇ……」

「悪いけど、僕らには僕らの人生がある。 もちろんリュートの力になりたいって気持ちはあるよ。 でもそれとこれは話が別だ。 誰にだって背負ってる物の一つや二つはある。 違うかい?」

「だからダチを見捨てるってのか? そいつは幾らなんでも道理が通らねえってもんだろうが! ああ!?」

「そんな事は言ってない! 僕はただ……!」

「……やめろ!」

「「「「「「「ッ!」」」」」」」

 おっと、いかん。
 なんとか喧嘩を止めようと大声を出したら、思いの外力が入って威圧してしまった。
 まだまだ魔力の制御が甘いな。
 もっと精進しないと。

「けどよ、大将! こいつは……! ちっ、わあったよ」

 俺の意図を理解してくれたようで、ルベール先輩はやや不貞腐れながら定位置の壁際にもたれかかる。

「悪い、シュテルク。 説明するから席に戻ってくれるか?」

「……うん、わかった。 それとごめん、変な事言って」

「わかってる」

 そう告げると、シュテルクは安堵した笑みを浮かべて席へと戻った。

「えっと、どうしてあれをしたのがマークだと判ったのかって話だったよな?」

「ですね」

「よし、じゃあ……口で言っても今一分かりづらいと思うから、ここはいっそ実際に見せるとしようか。 マークを犯人だとした断定した方法、スキルを。 ……痕跡よ、浮かび上がれ。 痕跡強調ルートディスターブ

「ルート……ディスターブ?」

 脳内で足跡と思い浮かべながらスキルを発動すると、瞬時に沢山の足跡が浮かび上がった。

「きゃっ!」

「うわっ、なんだこれ。 なんか足跡みたいなのが浮かんでるぞ」

「これが、ルートディスターブの効果……?」

 だがこのままでは誰の足跡なのかはわからない。
 そこでもう一工夫する。

「分析」

「……! 今度は足跡の上に文字が!」

「わたくしの……名前?」
 
 こうする事で痕跡が誰の物か一目でわかるようになるのである。
 いわゆる、合体技能ユニゾンスキルってやつだ。
 ちなみにこれらのスキルは使用者のみにしか見る事が出来ない為、皆には視覚共有スキルをこっそり付与してある。

「なるほど、これなら確かに……」

「はあ~、こんなスキルもあんのか。 リュートには入学式の時から驚かされてばかりだぜ」

 まっ、他にもマークを犯人って断定した証拠あるにはあるんだけど、それはまたおいおい。
 
「つまりリュート様はこのスキルを使って、机の断片から犯人を特定した訳ですか」

「まあ概ねそんな感じだ」

「ふぅん……」

 メリルの目付きがいやに鋭い。
 こりゃ感付かれてるな。

「わかりました、リュート様がそう仰るのならそういう事にしておきましょうか。 どうぞ続きを、ふふ」

 流石は齢十七にして王家の相談役を任されている才女。
 相変わらず恐ろしい女だよ、ホント。

「……それじゃあ気を取り直して、本題へ戻るとしましょうか。 この表を見てわかる通り、此度の反抗作戦は三つのフェーズに分かれているわ。 まず作戦のキモとなるのが、下準備となるこの第一フェーズ。 ここを疎かにすれば、間違いなく今以上の面倒事に発展するでしょうね」

「だろうな。 ったく、とことん性根の腐ったやつだぜ! あー、ムカつく! メリルさんの許しさえあれば、今すぐぶん殴りに行くのによ!」

「へぇ、なかなか話がわかるやつも居るじゃねえか。 行くんなら俺も付き合うぜ、ストレングスんとこのガキ。 こちとら舐められっぱなしってのは性に合わねえんだよ」

「おっ、良いね! んじゃいっちょ……!」

 こんの脳筋ども!
 カンナの話聞いてなかったのか!
 準備なしに行ったら面倒事になるってさっき言われたばっかだろ!

「あらあら、お兄様ったら。 先程言った事、もう忘れてしまったんですの? わたくし言いましたよね。 お兄様は余計な事を言うな、と。 もしやもうお忘れに? お兄様の忠誠心はその程度のものだったんですか?」

「……ちっ」

「ダスティ様、リュート様に迷惑をお掛けするつもりなら……わかってますよね?」

「は、はい……すいませんでした……」

 謝るとダスティは、肩を落としてスゴスゴと自分の席へと戻っていった。
 先程までの気勢はどこへやら。
 今や背中が小さく見えるほど意気消沈している。
 自業自得だが少し可哀想。

「カンナ、その第一フェーズですが実際は何をするつもりなんですか? 相手は腐っても貴族です。 同じ貴族であるメリルやダスティならともかく、平民出身のわたしではあまり力になれない気が……」

「ああ、それについてはお構い無く。 この件に関しては、とある方に一任する事になってますから。 ですわよね、メリル様」

「ええ」

 い、いつの間に……。
 俺そんな話、聞いてないんですけど。

「今しがたフィオ様が言ったように、マークは貴族。 しかも上流階級の貴族です。 このまま無策で仕返しをすれば、間違いなく手痛いしっぺ返しを食らう事になるでしょう」

「確かに……」

「そこでセシルは一つ、策を労する事にしました。 ナギサさん、これをリュート様に」

「はいはーい」

 メリルが懐から取り出したのは真っ白な封筒。
 ナギサはそれを受け取ると、言われた通り俺に手渡してきた。
 
「これは……?」

 尋ねるが、メリルは微笑むばかりで何も答えない。
 良いから見ろって事らしい。
 ……仕方ない、見てみるか。
 と、俺は渋々封筒を開け、中に入っていた手紙らしき物に目を────

「……! メリル、お前これ……!」

「ふふ、さあどうでしょうね。 うふふ」

 中に入っていたのは手紙ではなく招待状だった。
 その招待状にはこう記されている。

 次の休暇日、リュート=ヴェルエスタ様並びにマーカス=オルガ様両名を、我が屋敷に招待致します。
 どうぞ遠慮なくご参加下さいませ。
 ご馳走を用意してお待ちしております、と。
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