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新聞部部員ナギサ=ホークエル ──2──

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「──それでは皆さん、メリルわたしはここで失礼します。 くれぐれも羽目を外しすぎないように。 ああ、そうそう。 ナギサさん、先程の話お忘れなきよう」

「はーい! おっまかっせをー! 直ぐに取りかかりまーす!」

 メリルは別れ際に「ふふ」と微笑むと、足取り軽く階段を登っていった。
 なに、今のやり取り。

「さっきの話って?」

「んー? ……むふふー、ひっみつー! まっ、その内分かるから楽しみにしといてよ! 悪いようにはしないからさ! んじゃまた後でねー!」

「あっ、おい!」

 もっと詳しく話を聞こうと引き留めようとしたが、止める間もなく友達の所へと走っていってしまった。
  
 悪いようにはしないってなんだよ。
 絶対俺が関係してる何かじゃん。
 嫌な予感しかしないんですけど。
 
「ありゃーなんか企んでんな」

「先程メリルと何か密談を交わしていましたが、そこで何か取引でもしたのでしょうか」

「だと思うぜ。 密談した直後から、明らかにメリルさんの機嫌良くなってたからな。 間違いないだろ」

 そう言って、ダスティは廊下を歩き始めた。
 俺とフィオもダスティの後に続いて、自分の教室へと歩みを進めていく。

「にしても、あの人も案外分かりやすいっつーかなんつーか。 孤高の剣姫けんきの素がまさかあんな感じだなんて、予想外も良いところだぜ。 なあ、フィオ」

 孤高の剣姫? 
 なにそれ、カッコいい。

「えっと……ごめんなさい、初めて聞きました。 リュートはこの話知ってましたか?」

「いや、俺も知らなかったな」

「なんだよ、リュート。 フィオはともかくお前も知らねえのか? 許嫁なのに?」

 腹立つ。

「許嫁だからって何でもかんでも知ってる訳ないだろ。 良いからさっさと教えろよ」

「へいへい、わかったわかった。 教えてやるからそう怒んなって」

 ダスティは苦笑しながら話を続ける。

「……メリル=オークレイが、なぜ孤高の剣姫と呼ばれているのか。 その理由を強いて言うなら、天才だった……いや、天才過ぎたから、だろうな」

「え……?」

 ……なるほどな、だから「孤高」なのか。
 今のでどうして孤高の剣姫なんて呼ばれているのか、なんとなくわかってきた。
 なにせメリルは……。

「天才、ですか。 まあリュートの許嫁ですからね、メリルもまた規格外な人なのでしょう。 ですが、何故「孤高」と? とてもそのような人には思えませんが」

「だから最初に言ったろ、天才過ぎたってよ。 人ってのは才能ある奴に憧れるもんだが、それは凡人に毛が生えた程度の天才までだ。 文武両道、才色兼備、眉目秀麗を地で行くメリルさんみたいな人はなんつーか……」

「憧れを通り越して恐れられるようになってしまう、か」

 父さんが危惧していたのはこういう事なのだろう。
 強すぎる力は人を恐れさせ、畏れさせてしまう。
 だから父さんは俺に力を隠して生きろと厳命したのだ。
 俺が普通の生活を送れるように。

「流石に恐れられるまではいかねえだろうけど、まっ、そんなとこだろーよ。 つっても、メリルさんの場合はそれだけじゃなさそうだがな」

「と言うと?」

「だってよく考えてもみろよ。 天才っつったら、遥かにリュートの方が上だろ? なんたって学年首席どころか、ミスリルゴーレムを消し炭にするっつう学園始まって以来の快挙を成し遂げた怪物なんだからな」

 誰が怪物だ、誰が。
 
「けど、リュートは誰からも恐れられてねえ。 どころか、こいつの周りにはいつも人が集まってくる。 こんだけ凄い魔法を扱えるにも関わらずな。 それは何でだ?」

「何故、ですか。 ふむ……色々考えられますが、それは恐らくリュートの人柄によるものでしょうね。 驕らず、謙虚で、誰にでも平等に接するこの性格は、誰にとっても好ましいものだと思います。 かくいう私も、リュートのそういう所が好ましいと言いますか……こほん」

 照れるなら言わないで貰っても良いっすか。
 俺も死ぬほど恥ずかしいので。

「そう! そこなんだよ、メリルさんとリュートの違いは!」

 ダスティは急に立ち止まると、振り返り様に指差してきた。
 何がそこまで彼を熱くさせているのか、妙に興奮しているダスティに俺はフィオにヤレヤレと肩をすくませた。
 フィオも流石に少し引いてるようで、苦笑いを浮かべている。

「確かにメリルさんも謙虚で、自分の立場に驕らない魅力的な人だと思うぜ? たださ、リュートと違ってなんつーか……壁を感じるんだよな、昔から。 他人を信用する気なんざサラサラないっつーか、何考えてるのか分かんねえっつーか」

 そういえば、アリンとリーリンも昔そんなような事言ってたな。
 どれだけ仲良くなっても距離を感じるとかなんとか。
 当時は2人の気のせいだと思ってたが、もしかしたら……。

「っと、わりい。 気ぃ悪くさせちまったか?」

「いや、大丈夫。 その通りだと思うから」

「そうか? なら良いけどよ」

 と、ダスティが前を向いたその時。
 俺の目に、妙なものが映り込んだ。
 
「んあ? なんだありゃ。 妙に騒がしいな」

「随分人がごった返してますけど、何かあったんでしょうか」

「さあ……」

 俺の通う一年二組の教室前にクラスメイト達がひしめいている。
 その誰も彼もが「こりゃひでぇな」、「これは幾らなんでも……」と呟いており、困り果てた様子。
 トラブルか何かか?

「ちょっと聞きに行ってくるわ。 また後でな、2人とも」

「おう」

「ええ、また」

 2人に別れを告げ、俺は自分のクラスに駆け寄った。

 ん……?
 あの後ろ姿は確か……。

「よう、2人とも。 こんな所でなにしてるんだ? 教室入んないのか?」

「あ、リュート……」

「げっ、もう来ちまったのかよ」

 ホルトとシュテルクの顔がややひきつっている。
 どうしたというのだろう。

「なんだよ、その反応。 酷くない? 俺ってもしかして嫌われてる?」

「バッ、違うって! 俺らがリュートを嫌うわけないじゃんよ! なあ、シュテルク!」

「う……うん、まあね。 ただ、今は少しタイミングが悪いというか……」

 意味がわからん。

「……? まあ良いや、とりあえず教室入ろうぜ。 そろそろ先生も来るだろうしさ」

「ちょっ!」

「リュート、待っ……!」

 と、俺はシュテルクとホルトが何にそんな焦っているのか疑問に思いつつも、教室に足を踏み入れた。
 そこで俺は、クラスメイト達がどうして悲壮感漂う顔色を浮かべるに至ったのかを思いしらされる事となった。

「…………」

「あちゃぁ……だから待てっつったのに」

 なるほどね、どおりでみんな呆然としてたわけだ。
 やってくれたな、あのクソ野郎。
 
「く……くくく…………くくくくく! ははははは!」

「え、えっと……リュート、大丈夫……」

「……ああそうかよ。 お前がその気ならとことん徹底抗戦してやるよ、クソッタレが! 後で後悔しても知らんからな! 元極道舐めんなよ、三下ぁ!」

 突如として変貌した俺の様子に、クラスメイト全員が立ち尽くす。
 そんな中、無惨にも破壊された自分の机を見下ろしながら俺は決意した。
 待ってろよ、マーク=オルガ。
 この仮は倍にして返してやるからな!
 ────と。
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