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主ってのもなかなかめんどくさい

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「よっと……おし、こんなもんか。 おい、優等生。 出来たぞ」

「終わりました、リュート様!」

 崩落した建物の一部に幻覚魔法をかけて何も無かったように見せかけていると、背後からドサッと重い物を置く音の後、二人の声が聞こえてきた。
 
「お疲れ様、二人とも。 こっちももうすぐ終わるから、少し待っててくれ」

「おう」

 あとは、人払いの魔法をかけて……。

「ダウィード」

 ……うん、上手くいったみたいだな。
 こっちに近づいて来ていた騎士が離れていくのを魔力感知越しに確認する事が出来た。
 これで当分は時間稼ぎが出来る筈だ。

「リュート様、今の魔法はなんですか? 聞いた事のない魔法名でしたけど」

「ん? ああ、ただの人払い用魔法だよ。 ほら、学園に人払いの結界が張ってあるだろ? あれの小規模版って感じだな。 まあ即興で作った代物だから、そう長続きはしないんだけど」

「「…………」」

「って、あれ? どうしたんだ二人とも、急に黙っちゃって」

 もしかして俺、またなんかやっちゃいました?

「なあ先公、確か学園の結界って宮廷魔法師が十人がかりでようやく完成させられる、超上級魔法だったよな。 なのになんで縮小版とはいえ、あいつ一人でそんな魔法使えんだ? 色々おかしいだろ」

「リュート様の元に下るおつもりなら、今のうちから慣れておいた方が良いですよ~。 この程度、リュート様にとってはまだまだ序の口ですので~」

「冗談だろ」

 今更ながら本当に俺の舎弟になるつもりなんだな、先輩。
 まあここまで色々知られた以上野放しにする訳にもいかないから、その方が都合良いっちゃあ良いんだが。
 と、俺は転深の腕輪に魔力を流し込んだ。

「二人とも、お喋りはそこまでだ。 今から先輩の屋敷に、纏めてテレポートする。 喋ってると舌噛むぞ」

「は? 纏めてってお前、こんな人数を一気に転移させれる筈──」

「テレポート」

 間髪入れず、俺はテレポートを展開。
 足元に巨大な魔法陣が現れた直後、俺達はその場から姿を消した。
 そして次の瞬間目の前に現れたのは、

「……うお、マジかよ」

「これが……このお屋敷がルベール様の……?」

 流石俺様、完璧な仕事振りだ。
 誰一人欠ける事無く、転移する位置も予想通り。
 いやあ、自分の才能が怖いね。
 
『わたし! それ全部、わたしのお陰! 褒めて褒めて!』
 
 ……定期的に干渉してくるのやめて貰っても良いっすかね、女神様。
 今度感謝の祈り捧げに行きますから。

『うん、待ってるね! 楽しみにしてる! あっ! その時にはお供え物も忘れないように! 女神様のオススメはそうだなぁ……やっぱりアレかな! 洋菓子店モンブレンのケーキセット! それでお願いしまーす!』

 なんでこう毎回毎回手に入れにくい品ばかり催促を……。
 まあ良いか、どっちにしろ近々モンブレンには行く予定だったんだ。
 ついでに買ってくるとしよう。
 
「優等生、なにボーッとしたんだ。 ボサッとしてると置いてくぞ」

「あ、はは……ごめんごめん、ちょっと考え事してて」

「考え事、ですか? 一体何を考えてらしたので?」

「え? えっとそれはぁ……」

 幾ら俺に心酔しているシンシアとはいえ、女神様と交信してたなんて言ったらドン引きされるに違いない。
 ここは当たり障りの無い感じで……。

「フッ……お前が気にする事ではない、今は自分の仕事を全うするが良い」

「は、はい! 申し訳ございません! すぐ様仕事にとりかかり……今は? 今はというのはどういう……ハッ! なるほど……つまりはそういうことなのですね、リュート様! わたくし、全て把握いたしました!」

 怖い怖い怖い怖い、いきなりどうしたんだこいつ。
 完璧に目がキマッちゃってるんですけど。

「お前は一体何を言って……」

「いえ! みなまで仰る必要はございません、今はただ目の前の仕事に集中するのみ! そういう事なのですね、リュート様!」
 
「……は?」

 本当に何を言ってるんだ、こいつ。
 大丈夫か、色々と。

「では早速目の前のお仕事を片付けに行って参ります! 失礼致します、リュート様!」

「あ、ああ。 よろしく頼む」

 勢いに押し切られ茫然自失とする中それだけ返すと、シンシアは元気よく敬礼をしてルベール先輩の手伝いをしに行った。
 
「どうした、なんかあったのか?」

「ふふ、なんでもありません。 今はただ目の前の仕事に集中するのみですよ、ルベール様」

「はあ?」

 まあ何はともあれ、今はやるべき事をやらないと。
 と、二人に続いて屋敷に──ッ!
 屋敷の中から覚えのある魔力を感知した。
 この魔力は確か……。

「待て、先輩! 開けるな!」

「あん?」 

 ガチャッ。

「あら、ようやくお帰りになったのですねお兄様。 どうでしたか? 此度の調査はなにか収穫が…………え?」

「あ」

 だから開けるなって言ったのに。







「……どうぞ」

「あ、ありがとうございますぅ」

 一人暮らしの筈なのに何故かルベール邸に居た妹のカンナは、いぶかしみながらも俺達をひとまず応接室へと案内。
 一応は客として扱ってくれるらしく、お茶を振る舞ってくれた。

「お兄様は紅茶でよろしいですか?」

「ああ」

 先輩、紅茶飲むの!?
 意外すぎるんだが。
 
「リュートは……まあ適当で良いですわね」

 おい、なんか俺の扱いだけ雑だな?

「へえ……随分と気に入られたみてえじゃねえか、優等生」

「ん? そうなの?」

「おうよ。 カンナは信用した相手にしかあんなクチはぜってえ聞かねえからな。 お前、相当気に入られてるぞ」

 何故……。

「お兄様、余計な事を仰らないで下さい。 お兄様には関係ない事ですから。 ……それで」

 カンナはそう呟きながらティーカップをテーブルに起き、ルベールの隣に座る。
 そして、続けてこう言ってきた。

「これは一体全体何事なんですか? お兄様達が運んできたあの方達はどこのどなたなので? 何故あのような姿に? どうして先生とリュートが一緒に居るのです? 全て正直に答えてください」

 見られた以上、流石に隠し通す訳にもいかないか。  
 下手に隠してどこかにリークされても面倒だ、全て包み隠さず話すしかない。
 その方が色々と安心出来るしな。

「……わかった、全て正直に話すよ。 実は────」

 説明したのが俺だけだったら、きっとカンナは信用してくれなかっただろう。
 だが、臨時教諭のシンシアと信頼を置く実の兄であるルベールの口添えもあって、最初こそは驚いていたカンナだったが、徐々に落ち着きを取り戻していった。

「といった経緯があって今に至る、訳なんだが……あらかた理解出来たか?」

「……正直、全てを信用するのは難しいですわ。 いくらなんでも荒唐無稽過ぎますもの。 本当に、その……リュートがあの方達の時間を止めた、のですか? 流石にそんな事が人間に出来るとは思えません」

 そりゃ信じられないだろう。
 時間停止なんて神業も良いところだからな。
 創造魔法チートスキル様々である。

「全部本当の話だ。 俺が負けた事実も含めてな」

「お兄様………わかりました、お兄様がそこまで仰るならわたくしも信じます」

 ほっ。

「信じてくれてよかったよ、ありがと。 それじゃあ話が纏まったところで、早速今後についての話し合いを……」

「待て、優等生。 まだ話してない事がある筈だ。 話し合いはそれからだ」

 まだ話してない事?
 なんだろう、心当たりは特にないのだが。

「え? なんの話? まだしてない話あったっけ?」

「とぼけるのもいい加減にしろ。 それとも話さないつもりか?」

「だからさ、一体なんの話だって……」 

「んなの決まってるだろうが。 お前らの正体、それを教えろ」

 ……!

「とぼけたって無駄だぞ、戦った俺にはわかる。 優等生、てめえの力は普通じゃねぇ。 それこそ魔王ですらてめぇの足元にも及ばねえだろうよ。 ……てめぇはなにもんだ。 遥か昔に滅んだ魔神の生まれ変わりか? それとも……まあなんにしろ正直に答えねえなら協力はここまでにさせて貰う。 それが嫌だったら……」

「ッ! ルベール、口を慎みなさい! その不遜な物言い、断じて許せません! もしこれ以上我が主を侮辱するつもりなら……!」

「……やめろ、シンシア」

 二人の言い争いを止めようと、俺はシンシアの名を呼んだ。
 しかし、言い争いは止まらない。

「なんだぁ、俺とやるつもりか? 一度負けた癖によぉ?」

「あっ、あの時はただの子供だと思って油断しただけですぅ! 次は本気です! ボッコボコにしてあげますので覚悟してください! 降参しても許しませんから!」

「はっ、やれるもんならやってみろや! どうせ俺が勝つに決まってるがなあ!」

「この……! 言わせておけば!」

 二人は今にも戦いを始めそうだ。
 ああもう、どうしてこいつらはいちいち喧嘩を……なんか段々腹立ってきた。

「シンシア、やめろと言ったのが聞こえなかったのか?」

「で、ですがこの男はリュート様を侮辱して……! うぅ……」

 怒られたのが余程ショックだったのか、シンシアはしょんぼりしている。
 まるで親に叱られた子供のように。

「へっ、ざまあない……」

「あんたもだ、ルベール。 いい加減下らない争いはやめろ」

「あん?」

「あんたが本気で言ったわけじゃないのはわかってる。 だからそれは別に良い。 だが……俺を信じてついてきてくれているシンシアを侮辱するのだけは許さん。 しかと覚えておけ」

 そう言ってキッと睨み付けると、ルベールはバツが悪そうに頭を掻きながら。

「チッ、わあったよ」

「はぁ」

 まったく、世話のかかる。

「悪い、カンナ。 うちのもんが迷惑をかけた」

「いえ、お兄様にも問題はありましたからここはお互い様ということで」

 ルベール先輩よりよっぽど大人だな。
 シンシアより、ある意味頼りになりそうだ。
 
「……ところで、先程の話なのだけど」

「ん? ああ、わかってる。 全部包み隠さず話すよ。 どうせ色々バレちまってるしな。 ……けどその前にこれだけは言わせてくれ」

「なんだよ」

 先輩が眉を吊り上げるなか立ち上がった俺は、アイテムボックスから取り出したローブを羽織る。
 そして瞳に魔力を灯しながら、こう言った。

「これより先は他言無用。 裏切りは一切許容しない。 裏切ればその命で贖う事になると、留め知れ。 それでも構わなければ首を縦に振るが良い。 さすれば貴様らは我が同胞となり、全てを知る権利を得るであろう」

「「…………」」

 唐突に変わった同級生の雰囲気にカンナは呑まれ、唾を飲み込む。
 しかし、恐怖を感じているわけではないようだ。
 むしろどちらかと言えば、

 「仰せのままに、我が王よ」
 
 跪いたルベールの姿に、安堵しているようにも見える。
 まるで、こうなる事を望んでいたかのように。

「次期当主であるお兄様が忠誠を誓うのであれば、補佐であるわたくしとしても依存はありませんわ。 ルベール=ブロッケン、並びにカンナ=ブロッケンは貴方に忠誠を誓います。 今後とも良き友人として、そして良き従者としてよろしくお願いしますわ、我が主」

「うむ。 ではシンシアよ、後は貴様に任せる。 包み隠さず全て話してやるがよい」

「はい、了解しましたご主人様」

 ふぅ、疲れた。
 後はシンシアに任せて少し休憩しよっと。

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