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嫌がらせ

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「いやー、マジで凄かったよな、さっきの試合」

「だよなー。 あんなハイレベルな試合、初めて見たぜ。 特にリュートのやつ、やばくね? あと数秒余裕あったら、絶対あいつ勝ってたろ」

「それな」

 制服に着替えようと自分のロッカーに向かっていたら、そんな会話が耳に入ってきた。
 みな興奮冷めやらぬようで、そこかしこで同じ話題が飛び交っている。
 アリンにこれ以上目立つなと念押しされてから、はや四日。
 今日もまた目立ってしまった。
 目立たずに済む日はいつかやってくるのだろうか。
 俺の平穏な学園生活はいずこ……。

「お疲れ様、リュート」

「おっつー」

 二人も今から着替えるようで、ロッカーから制服を取り出すところだった。
 その隣には美少女もとい、ルゥが服を脱いで……?

「お、お疲れさま! リュートくん!」

「…………」

 なんだろう、ルゥのこの場違い感は。
 男なんだから男子更衣室で肌を晒すのはおかしな事ではない筈なのに、なんだか見てはいけないものを見てしまっている感覚を覚えてしまう。

「ふぅ」

 何故胸元を脱いだ服で隠す。
 余計にいかがわしく見えるから止めてくれ。

「おい、早く行こうぜ」

「お、おう」

 ほら見ろ、言わんこっちゃない。
 下手に肌を晒すもんだから、周囲の男子達が急いで出ていってしまった。
 このままでは俺達の健全な学生生活に支障をきたしそうだ。
 そのうちルゥ専用の更衣室を作るべきではなかろうか。
 一度学園側に打診してみよう。

「あいつら何急いでんだ?」

「さあ、よっぽどお腹でも空いてたのかもね」

 違う!
 違うぞ、二人とも!
 そうじゃないんだ!
 これも全てルゥの無防備さが原因で……!

「まっ、どうでもいっか。 それよりも早く着替えて飯にしようぜ! 腹へったー!」

「今日はリュートも一緒なんだよね? 良かったのかい、いつものお友達は」

「ああ、それは大丈夫。 二人とも色々忙しいみたいだから、今日ぐらいはね」

 というか、フィオに関してはあれ以来避けられてるんだけどね。
 視線はちょくちょく感じるけど。
 昼休みとか、帰り道とかで。
 ダスティの言ったように若干ストーカー染みてきた気がするが、気のせいと思いたい。
 と、淡い一抹の希望を期待しながら俺はロッカーを────ガサガサ。

「……ん? リュート、なんか落としたぞ」

「紙くず……?」

「……はぁ、またか」

 足元に落ちた、ぐちゃぐちゃに丸められた紙くず。
 それを一瞥した俺は、同じ物が敷き詰つめられたロッカーに埋まっているであろう制服を救出すべく、先日ようやく開発に成功したあの魔法を発動させた。
 座標接続ポイントワープ────







 それから数日が経ったある日。

「──なあ」

「なに?」

 食堂を出てからしきりに背後を気にするダスティが、こんな事を言ってきた。

「そろそろあれ、どうにかしてくれよ。 視線が気になってしかたねえ」

 あれ……?
 ああ、フィオの事か。
 食堂での一件以降何を思ったのか、フィオは突然ストーカーにジョブチェンジ。
 今ではこうして俺の後を尾けてくるのが日課となりつつある。

「どうにかって言われてもなぁ」

 話しかけようとすると逃げちゃうから、話も出来ない状況なんだよな。
 こんな状態でどうしろというのか。

「そういうダスティは、なんか案とかないの?」

「ああ? あるわけねえだろ、んなもん。 つかお前が蒔いた種なんだから、お前がなんとかしろよ。 俺は関わんねえぞ」

 ごもっともで。

「あっ、俺ちょっくらトイレ行ってくるわ。 長くなると思うから先戻ってても良いぜ」

「はいはい、んじゃ先戻ってるわ。 また放課後になー」

「おーう」

 と、別れたのも束の間。

「リュート」

「ん?」

 数歩も歩かない内に戻ってきたダスティが、こんな事を……。

「お前なら重婚も目じゃねえさ。 頑張れよ、伯爵様」

「おい」

「重婚……!」

 なに瞳を輝かせてるんですか、フィオさんや。
 良いのか、お前はそれで良いのか?
 自分で言うのもなんだけど、もし重婚っなったら二番目なんですよ、あなた。
 それで本当に良いの?
 俺だったら嫌だけどなぁ。
 わからん、乙女の思考は難解すぎる。

「こほん」

 そうして天恵を得たフィオは、ここ一週間の奇行を無かったかのように、堂々とした態度で、

「リュート、久しぶりですね。 元気でやっていましたか? わたしは色々ありましたが、なんとか持ち直して今や……」

 話しかけ────

「あのー、君がもしかしてヴェルエスタくん?」

「へ?」

 誰?
 振り向くと手紙を手にした見知らぬ女子が立っていた。

「…………」

 いかん、フィオの人見知りが発動してしまった。
 フリーズしたまま一向に動かない。
 カッチコチである。

「えっと、俺がヴェルエスタで間違い無いですけど、君は……?」

「よかったー、見つかってホッとしたよ。 はい、これ。 君宛の手紙」

「ど、どうも」

 反射的に受け取ると、女子生徒は「確かに渡したからね」と言って、早々に立ち去っていった。
 まるで逃げるように。

「差出人は……書いてない、か」

 まあ誰からかは想像に難しくないが。
 どうせマーク=オルガか、その取り巻きからだろう。
 
「どうせまた嫌がらせの手紙かなんかだろーな。 フィオもそう思わな……フィオ?」

 あれ、居ない。

「どこ行ったんだ、あいつ」

 折角話のネタが出来たから、こいつをきっかけに仲直りしようと思ったのに。
 なかなか上手くいかないもんだ。

「しゃあない、一人で読むとしますか。 でもその前に……鑑定」

 ……ああ、やっぱりか。
 思った通り、手紙にはとある仕掛けが施されていた。
 この世界には魔法やスキルの他に、幾つか不思議な力がある。  
 メリルやシルトアウラ様が得意な黒魔術や、フィオの使う精霊魔法もその一つ。
 中でも厄介なのは、黒魔術を元に発明された、「呪物」と呼ばれる代物だ。
 呪物とは文字通り、呪いの品。
 使用する事で対象に呪いをかけられるという、とんでもない代物。
 それが呪物だ。
 とはいえ、効果はマチマチ。
 強力な物は国が管理していて、学生が手に入れられる呪物なんてのは、悪戯に使える程度の効果しかない。
 よって、この手紙に内包された呪いも気にするほどの物じゃあない。
 なら敢えて引っ掛かり、書いた本人に呪いを跳ね返してやるのもまた一興。
 俺にかかれば呪いの反射なんかちょちょいのちょいってね。

「さてさて、一体どんな内容が…………!」

 案の定、手紙を開いた瞬間、呪いが俺に降りかかってきた。
 鑑定によると、呪いの種類は週日不幸。
 一週間、不幸に苛まれるといった軽い呪いだった。
 これなら別に反射するまでもない呪いだが、俺のスキル、呪術反射。
 チートスキル級のこのパッシブスキルはどんな呪術にも脊髄反射で機能してしまう為、キャンセルは不可。
 よって、呪いは自動的に呪物を使った人間に跳ね返されてしまうのである。

「へへっ! マーク様、ヴェルエスタのやつ手紙読みましたよ! これであいつは一週間、絶えず酷い目に……!」

「────ッ!」

「きゃあっ!」

「うおっ! なんだ!?」

 おん……?
 今なんか向こうから誰かが階段を転げ落ちる音がしたような…………まさか。

「ぐ……あぁ……」

「マ、マーク様ぁぁぁぁ!」

「す、すすす、すいません、マーク様! まさか後ろにいらっしゃるとは! 本当に申し訳ございません!」

 案の定、マークが階段を転げ落ちた音だったか。
 バカなやつ、やめときゃよかったのに。
 まあでもこれに懲りて、暫くは大人しくなるだろう。
 呪いの効果が続く一週間くらいは。
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