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ルベール=ブロッケン

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「嘘だろ、ヴェルエスタのやつ。 ただの蹴りで防御魔法を破壊するどころか、一撃でのしちまったぞ」

「戦うのが俺じゃなくてホントよかった……」

 先程の戦いに圧倒的力量で勝利を収めた俺への感嘆の声をクラスメイトが囁く中。
 それを切り裂くよう、ロバート先生が声を張り上げる。

「では最後の試合を始める! ルベール=ブロッケン、前へ!」

 遂に来たか、本命のルベール=ブロッケン。
 練習風景を見ていたが、ルベール先輩の大剣術はなかなかのもの。
 あの大剣を軽々と振るう膂力、大地を砕くほどの剣撃、目を見張る戦闘センス。
 どれを取っても先輩の実力は一線級で、油断したら一撃貰ってしまいそうだ。
 心して立ち向かわねば。

「よう、ガキ。 お前結構やるじゃねえか。 こりゃ久々に楽しめそうだ」

「はは、そりゃどうも」

 どうしてこう不良ってのは、血の気が多いんだ。
 俺には理解しがたい人種だ。

「両者、構え! ……始め!」

 さて、どう戦ったもんか。
 一般的な大剣での戦い方は、防御を固め、カウンターを狙うのが主流。
 対して俺の武器は、中距離から攻撃や巻き付けなどの搦め手が主な手段となる鎖分銅。
 となれば、まずは小手調べに分銅で攻撃を────

「おらあっ!」

 なっ!
 ジャンプ斬りだと!?
 
「ッ!」

 不意を突かれたせいで、大袈裟に横っ飛びしてしまった。
 着地までおよそ一秒。
 たった一秒だ。
 だが近接戦闘においてこの一秒は、またとない好機。
 これを逃す筈がない。

「ぶっ飛びな、優等生!」

「くっ!」

 今のはやばかった。
 咄嗟に鎖で横薙ぎを防がなかったら、今の一撃で敗けていた。
 この男……今までに戦ってきた奴らより、遥かに強い!

「はっ、今のを防ぐかよ。 決まったと思ったんだがな」

「あいにく、これでもそれなりに修羅場を潜ってきててね。 このくらいじゃまだまだ!」
 
「そうこなくっちゃなあ!」

 強さだけならアリンやセニアに軍配が上がるだろう。
 剣筋は荒く、戦闘スキルも雑で二人には遠く及ばない。
 だがルベール先輩の恐ろしい所はそこじゃない。
 
「オラオラオラオラァっ!」

 尽きることのないスタミナ、一度でも当たれば致命傷となる強烈な一撃、長剣を振るが如くの剣速。
 なによりも恐ろしいのは彼の戦闘センスだ。
 戦えば戦うほど相手の癖や弱点を見抜き、そこを確実に突いてくる天才的な戦闘センスは唯一無二。
 カンストしているステータスやチートに頼っている俺には、到底真似できない芸当だ。
 これがルベール=ブロッケン。
 天才の戦い方か!

「足元がお留守だぜ、優等生!」

「──!」

 足を払われた!?
 まずい、このままじゃ振り下ろされる大剣に防御魔法を砕かれてしまう。
 だがそうはさせない!

「終わりだ!」

戦技オーバルアーツ、破槌鞭!」

 ガキンッ。

「チッ!」 

 武器を弾くことに特化した技、破槌鞭で眼前に迫る大剣を弾くと、先輩は反動でよろけ若干隙が出来た。
 その隙に俺は体勢を整え、距離を取る。
 先輩との距離はこれで八メートル。
 流石の先輩もこの距離ではどうしようも────

「烈風斬!」

「いっ!」

 マジかよ、この先輩!
 大剣唯一の遠距離スキル、飛ぶ斬撃こと烈風斬まで習得してんのかよ!
 どうなってんだこの人、明らかに学生レベルの実力じゃないだろ。

「はあっ!」

 なんとか鎖で斬撃を消し飛ばしたが、先輩は二度三度と絶え間なく烈風斬を飛ばしてくる。
 このままじゃ埒があかない。
 制限時間も残る30秒。
 ここらでなんとか挽回したいところだ。
 
「どうしたどうした、優等生! そんなもんかよ、お前の実力は!」

「随分言ってくれるな、先輩! ならこれはどうだよ! 縛鎖鞭!」

 ほぼ同時に飛んできた二つの斬撃を一撃で無効化した俺は、すかさず鎖をしならせ、先輩の右足に向かわせる。
 一直線に向かっていった鎖は見事、先輩の右足に巻き付いた。
 よし、上手くいった。
 後はこれを引っ張れば、体勢を崩して隙だらけに……。

「へっ、性格も良い子ちゃんなら戦法も良い子ちゃんってか! これだから優等生ってやつは、よ!」

「──!?」

 まさか誘われた!?
 鎖が踏みつけられたせいで、動きを封じられてしまった。
 なんという戦闘センスだ、恐れ入る。
 だが先輩、それは悪手だ。
 無理矢理引っ張れば鎖は壊れるかもしれないが、少なくとも先輩は間違いなくよろける。
 その一瞬の隙さえあれば問題ない。
 確実に……!

「決められる! ふん!」

「……くくっ! バーカ」

「んなっ!」

 これが狙いだったのか!
 思い切り引っ張った瞬間に足を外された俺は、勢いを殺せず後ろによろける。
 ここまで全部、この人の掌の上ってことなのかよ。
 なんてやりづらい相手なんだ。
 マジで強いな、こんちくしょう!

「これで今度こそ終わりだ、優等生!」

 これで終わり?
 ここで試合終了?
 俺が敗ける?
 数多の魔物を屠ってきた、この俺が……?
 ……いや、まだだ!
 まだ時間は10秒ある!
 先輩、あんまり俺を……!

「舐めるな!」

「……ぐっ!」

「「「「「おおっ!」」」」」

 これは避けられないと慢心したのか、一瞬剣速が落ちたのを見逃さなかった俺は、剣の腹をぶん殴り、先輩の手から大剣を弾き飛ばしてやった。

「この、クソガキがっ!」

「さっきからクソガキクソガキうるせんだよ、あんた! 留年してるあんたが言えた義理か!」

 と、吠えながら先輩のパンチを避けた俺は自分の拳に鎖を巻き付ける。
 そして──

「これで、俺の……」

「チィッ!」

 先輩の腹にボディーブローを……!

「勝ち……!」

「そこまで! 試合終了だ、ヴェルエスタ! このままやるつもりなら、反則敗けにするぞ!」

「っ!?」

 あ、あぶなかった……。
 拳は先輩の腹スレスレの位置。
 後少しでも反応が遅かったら、反則敗けしていただろう。

「この勝負は引き分けとする。 良いな、二人とも」

「ああ」

「……わかり、ました」

 引き分け……引き分けか。
 初めてだな、勝てなかったのは。
 たとえ実力の二割しか力を発揮してないにしろ、魔法が使えないにしろ、スキルの殆どを封印していたにしろ、引き分けは引き分けだ。
 言い訳はすまい。
 そんでもって、認めるしかないな。
 ルベール先輩が俺にとってライバルになり得る存在だということを。
 まったく、とんでもない人が居たもんだ。
 今後どう化けるのか、今から末恐ろしいよ、先輩。
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