上 下
45 / 66

本来の仕事

しおりを挟む
「なるほどなるほど、入学式の日にそんな事があったんだねー」

「へえ、そりゃなんつーか」

 フィオが去ってから暫くしてやってきたダスティを交え、俺は入学式直前にあったフィオとの出来事を洗いざらい話した。
 道中でフィオを助けたこと、門の前でのやり取りを包み隠さず。
 すると、それを聞いた二人は飯を飲み込んだ後、同時にこう言ってきた。

「やっちまったな、これ以上ないってくらい」

「うんうん」

 返す言葉もない。

「すみません……」

「うちらに謝ってどうすんのさ、ヴェルちんが謝らないといけない相手は他に居るでしょ」

「ごもっともです……」

 と、ナギサに叱られ消沈していたら、ダスティが遠くで一人寂しく昼食を摂っているフィオを見ながらこんな事を言ってきた。

「なんにしろ責任は取ってやれよ、リュート」

「せ、責任……?」

「俺が見た限りフィオは恐らく、好意を寄せている相手に粘着するタイプだ。 粘着体質の女は厄介だぞ。 相手が居ようとお構い無しだからな。 なあ、ホークエル」

「だねー」

 マジかよ。

「まっ、幸いなのはヴェルちんが伯爵家のご子息だって事かな」

「は? なんで?」

「だってそんだけ高い爵位の家柄ならさ、側室の一人や二人居てもなんも問題ないわけじゃん? むしろ貴族として箔がつくってもんでしょ。 だよね、ダスティくん」

「おう、だな。 うちの親父もそうなんだけどよ、伯爵階級以上の家柄は基本的に側室が数人居るのが普通だぞ。 だからその婚約者の許しさえ出れば、フィオを側室にするのもアリなんじゃね? つか、現状それが一番マシな手段だろ。 ああいうタイプは切羽詰まると何するかわかんねえからな」

 許しなんか出るわけないだろ。
 あのメリルさんだぞ、メンヘラ気質のあのメリルさんだぞ。
 黒魔術で呪いかけられるわ、フィオが。

「切羽詰まるって……例えば?」

「うーん、無理心中とか?」

 バッドエンド確定じゃねえか。

「つっても、流石にそこまではやんねえだろ。 命を粗末にするような奴に、精霊は力を貸さねえかんな」

 精霊は精神体ゆえに、悪意にとても敏感だ。
 特に人間や魔族の悪意は精霊にとって耐え難い程の毒らしく、少しでも邪悪な意思を持つ者の前には姿を現さないと言われている。
 契約なんてもっての他。
 人間が精霊と契約する事はまず不可能。
 だが稀に、精霊と契約出来る者が居た。
 その人達はこう呼ばれている。
 聖人、と。
 
「だと良いんだけどな……」

「いやあ、モテる男はつらいね~! このこの~! ……んで、精霊ってなに?」

「……はあ、そこからかよ」

 俺に苦笑いを向けられるのはともかく、見るからに脳筋なダスティにバカにされるのは腹に据えかねるのか、ナギサはプクッと頬を膨らませて。

「まだ習ってないんだからしょうがないでしょー! むー!」

「な、なに怒ってんだよ! ちょっととしたジョークじゃねえか! そう怒んなって! ああもう、わかったわかった! 教えてやるから機嫌直せっての! なっ!」

「えー、ダスちんなんかバカっぽいからヴェルちんの方が良い」

「おい」

 と、二人が漫才を繰り広げる最中。

「……ん?」

 ふと視界の端にとある教員の姿が映り込んだ。
 そいつは俺がホームルーム以降、ずっと探していた教員だった。

「だってダスちん、脳筋っぽいし」

「くっ、否定しきれねえ! 確かに俺は勉学よりも実戦の方が……おん? どした、リュート。 トイレか?」

「悪い、二人とも。 用事思い出したから先に帰っててくれ。 じゃあな」

 アイコンタクトをとりながら首を傾げる二人を横目に、俺はトレーを返却した後、その教員の座る席へと向かった。
 そこでは満面の笑みで焼きそば的な食い物に舌鼓を打つ、シンシアの姿が────

「ん~、これが毎日無料で食べれるなんてとっても幸せです~! 教師生活バンザイですねぇ。 いくらアンドリュー様の頼みとはいえ最初は嫌々でしたが、こんな生活を送れるなら案外悪くは……」

「せーんせい! ちょっと質問があるんですけど、今良いですかぁ?」

「あっ、はーい。 どうしましたか? もしかしてさっきの授業で何かわからない所でも…………はぅ!」

 シンシアの今の心境は、天国から地獄に突き落とされた気分だろう。
 何しろ、ホームルーム以降避け続けていた自分の仕える主が目の前に居るのだから。
 
「はわわわわわ……」

「よう、シンシア。 どうだ、俺に黙っての教師生活は。 楽しんでるか? もちろん、これがどういう事か洗いざらい話してくれるよな、先生? 話さないなら、お前が大事にしてる俺のブロマイドコレクションを全て燃やす」

「そ、そそそそれだけはご勘弁をぉ! 全部お話ししますから、ブロマイドだけはどうか! どうかぁ!」

 泣くほどかよ。







「よし、ここなら良いだろ」

 シンシアを連れてやってきたのは、人通りの少ない武道館の裏手。
 案の定、人の気配はなく、秘密の話をするのにはうってつけだ。

「さあ、そろそろ話して貰うぞ、シンシア。 なんでお前がここに居る。 なんで教師なんかやってる。 洗いざらい全て吐け」

「はい……全てお話しします……」

 観念したシンシアは、ポツリポツリと白状し始めた。

「リュート様も知っての通り、わたしは裏工作や潜入が得意なのですが……」

「ああ、知ってる。 暗殺ギルドのマスターをやってたんだから、そりゃあ得意だわな」

「今回、リュート様が学園へ入学されるにあたって、実はアンドリュー様からこんな仕事を依頼されたんです。 息子の力を世間に知られる訳にはいかない。 そこでシンシアよ、お前はこれよりレオール学園に臨時教師として潜入し、息子を陰ながら補佐してやってくれ。 頼んだぞ、と。 なのでわたしはリュート様に申し訳なく思いつつも、秘密裏に事を進め、教師として潜伏するに至ったんです」

 要は俺が約束を破って好き勝手力を行使しないよう、監視役としてシンシアを派遣した、と言ったところか。

「父さんめ……まったく、少しは息子を信用しろよな。 まあ実際目立ちまくってる訳だから、文句を言える立場じゃないんだが。 ……じゃあこれからは暫く、教師として生活するのか? メイド業は?」

「そ、それについては申し訳ございません、リュート様! メイド業は一旦お休みして、教師業に注力するよう言われてますのでリュート様には大変申し訳ないのですが、暫くは他人ということでどうか……!」

 シンシアは元々メイドとしてではなく、俺の世話役兼護衛として雇われた元暗殺者。
 これが彼女の本来の仕事だ。
 ワガママを言って困らせるわけにはいかない。

「わかった、そうして欲しいならそうするよ。 これからよろしく、シンシア先生」

「は、はい! こちらこそどうぞよろしくお願いします!」

「でも次からはちゃんと報告してくれよ? 知らされてないといざという時、どう対応すれば良いかわからんから」

「了解ですぅ! 次からは必ず報告しますぅ!」

 やれやれ、本当に大丈夫なのかね。
 シンシアは元凄腕暗殺者の割に結構ドジっ子だからな。
 いささか不安である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

1枚の金貨から変わる俺の異世界生活。26個の神の奇跡は俺をチート野郎にしてくれるはず‼

ベルピー
ファンタジー
この世界は5歳で全ての住民が神より神の祝福を得られる。そんな中、カインが授かった祝福は『アルファベット』という見た事も聞いた事もない祝福だった。 祝福を授かった時に現れる光は前代未聞の虹色⁉周りから多いに期待されるが、期待とは裏腹に、どんな祝福かもわからないまま、5年間を何事もなく過ごした。 10歳で冒険者になった時には、『無能の祝福』と呼ばれるようになった。 『無能の祝福』、『最低な能力値』、『最低な成長率』・・・ そんな中、カインは腐る事なく日々冒険者としてできる事を毎日こなしていた。 『おつかいクエスト』、『街の清掃』、『薬草採取』、『荷物持ち』、カインのできる内容は日銭を稼ぐだけで精一杯だったが、そんな時に1枚の金貨を手に入れたカインはそこから人生が変わった。 教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。 『戦闘民族君』、『未来の猫ロボット君』、『美少女戦士君』、『天空の城ラ君』、『風の谷君』などなど、様々な神の奇跡を手に入れる為、カインの冒険が始まった。

処理中です...