最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ

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決闘

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 決闘の主なルールは三つ。
 
 一つ、戦闘不能または戦闘続行不可能と立会人が判断した場合、即戦闘行為を中止しなければならない。

 二つ、敗者は勝者の命令がなんであろうと絶対に遂行しなければならない。 生死に関わる内容は基本的に不可となるが、時と場合によってはその限りではない。 なお、拒否権は無いものとする。

 三つ、事前にドーピングをしたと判断された場合、問答無用で敗けとする。

 以上三点が決闘における絶対的なルールで、例外は認められないとダスティが教えてくれた。
 要はこの決闘に勝ちさえすれば、今後マークを俺やフィオに関わらせないようにすることだって出来るわけである。
 であれば、この状況を利用しない手はない。
 俺の平和な学園生活の為、マークには痛い目にあって貰おうじゃないか。
 
「本当にやる気か? 引き返すなら今のうちだぞ」

「はあ? やめるわけないだろ。 てめえはここで裁いてやるって決めてんだからな! オルガ家の長男、マーク=オルガ様が直々にな!」

 剣を抜いたマークは、切っ先を向けてきた。
 言うだけはあって、そこそこやるようだ。
 体幹もしっかりしているし、剣の扱いも悪くない。
 少なくとも一般生徒の中ではそれなりの腕なのだろう。
 とはいえ所詮、一般人に多少毛が生えた程度だ。
 人差し指一つで十分だろう。

「先生、剣預かっておいて貰えますか? 勢い余って殺しちゃうといけないので」

 騒ぎを聞きつけ立会人を名乗り出てくれた名も知らぬ、うだつの上がらない眼鏡教師に投げ渡す。

「しょ、正気ですか、ヴェルエスタ君! 武器を持った相手に素手で戦いを挑もうだなんて、自殺行為も良いところですよ! 君達からもなにか言ってあげてください! 友達なんでしょう!?」

「良いって言ってんだから、やらせてやりゃあ良いじゃないんですかねぇ。 つかあいつ、めちゃくちゃ強いだろうしな。 少なくとも、マーク程度じゃ手も足も出ねえよ」

「ですね。 魔法もそうですが、戦いを前にしてのあの余裕。 そして、日常生活から滲み出てしまう程の力量。 一体どんな人生を歩んできたらあんな風になってしまえるのか、わたしには想像もつきません。 本当に興味の尽きない人です」

 流石はフィオとダスティ。
 まだ出会って二日だと言うのに俺の事をよくわかってる。
 
「どいつもこいつも舐めやがって……だったら見せてやるよ、俺の方が強いって所をな! 死ねえ、リュート=ヴェルエスタ!」

 不意打ちとはまた、騎士道精神の騎の字もない……。
 同じ貴族として恥ずかしい限りだ。

「ま、待ちなさい! 合図はまだ……!」

「ああ。 構いませんよ、先生。 このくらいじゃあハンデにもなりませんから」

「ぬかせ! うおおおお!」

 首筋に向かって振られる剣に、野次馬達が一斉に「あぶない!」だの「避けて!」だの言ってくるが、この程度危なくもなければ避ける必要もない。
 指一本で十分だ。

「なっ!」

「「「「…………………は?」」」」

 全力で振り下ろされた切れ味鋭い真剣を、人差し指一つで軽々と受け止めた目の前の光景に、野次馬一堂目を点にする。
 その光景を横目に、俺は車のオモチャを小突くよう剣を弾き、人差し指をマークに向けながらこう言った。

「一撃だ」

「……?」

「このままじゃ埒があかないからな。 ハンデとして一撃でも俺に入れられたら、お前の勝ちにしてやるよ。 悪くない条件だろ?」

 野次馬達が呆然と見守る中、ダスティとフィオが「なに考えてんだ、あいつ。 バカなのか? バカなんだな?」「バカなんでしょう」と呟く。
 バカじゃないですー。
 まともにやると殺しちゃいかねないから、仕方なく条件出しただけですー。

「どこまで……どこまで俺をおちょくれば気が済むんだ、てめえは! ならその余裕がなくなるくらい追い詰めてやるよ! おらあっ!」

 怒り狂ったマークが連続で斬りかかってくるが、どれもポックルの剣捌きには届かない残念な速度。
 紙一重で楽々躱せる。

「冗談だろ」

「あいつ、わざとスレスレで避けてやがる」

「しかもかなり余裕そう。 欠伸してるし」

 皆が呆れる最中にも、マークは息が続くまで攻撃を続けていく。
 だが、10回を越えたところで限界を迎えた。

「はあ……はあ…………くそっ、なんなんだよこいつ……! あり得ねえだろ、こんなの!」

「なんだ、もう終わりか? なら次はこっちからいくぞ! 秘技……!」

「ッ!」

 攻撃を察したマークは剣を盾にする。
 しかし、次の瞬間放たれた俺の秘技。

「鎧通し!」

「がっ!?」

 鎧通しとは大袈裟な言い方過ぎるただのデコピンにより、マークは十メートルほどぶっ飛ばされた。

「「「「えぇ……」」」」

 ちなみに剣は真っ二つ。
 まるで鈍器に何度も叩かれたように、デコピンした部分が木っ端微塵になっていた。

「ば、バカな……こんな事ある筈……! てめえ、本当に人間か!?」

「失礼な、どこからどう見ても人間だろ?」

「「「「いやいやいやいや」」」」

 まあ確かに最近、より人間離れしてきた感があるが、俺はまだ自分が人間だと信じてる。
 信じてるったら信じてる。
 ですよね、女神様。
 俺、まだ人間ですよね?
 
「だったらこれはどうだ! 氷針よ、貫け! アイススパイク!」

 懐かしいな。
 ツララを飛ばす魔法か。
 昔よくリーリンが練習してたっけ。

「くそ! なんで当たらねえんだ!」

「おいおい、これがお前の全力か? 俺の知り合いのアイススパイクの方が断然強力だぞ。 しゃあない、特別に見せてやるよ。 本物の魔法ってやつをな。 ……アイススパイク」

「……!?」

 マークが放ったアイススパイクとは、形も速度も内包された魔力の量すらも桁違いな、ツララもとい氷の弾丸はマークの頬をかすって、数百メートル彼方の大木を薙ぎ倒した。
 
「……んだよ、今の」

「全然見えなかった……」

 そこまでの魔法じゃないんだけどな。
 速さだけなら音速を越える魔法もあるし。

「その様子じゃ、もう戦えないだろ。 降参するか? 俺は別に無茶な要求するつもりなんかないから、安心して降参しても……」

「降参……? てめえは俺に降参しろってのか……オルガ家の跡取りである、この俺様に! ざっけんな!」

 これは驚きだ。
 先程まで身体を震えさせていたのに、大貴族としてのプライドがそうさせているのか、今では身体の震えを抑え、戦意を迸らせている。
 まだまだやる気のようだ。
 しかし、ホームルームまでの時間はあまり無い。
 マークには悪いが、ここらで……。
 
「そうか、ならこれで……終わらせる!」

 と、言った刹那。
 俺は十メートル近くの距離を一瞬で移動。

「……ッ!?」

 マークが目の前までいつの間にか迫ってきていた俺に気付いたのも束の間。

「ふんっ!」

「かはっ!」

 無防備な腹にボディーブローを喰らったマークは悲鳴を上げる間もなく白目を剥いた。
 後に残ったのはいつもの如く、割れた地面と直線上を貫いた衝撃波により巻き上げられた粉塵。
 そして、余りの実力差に声を上げる事も忘れてしまった野次馬の姿だった。
 …………なにしてんだ、俺……。

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