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本物の悪夢

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「遅いねー、あの人達。 いつ来るんだろ」

「そう逸るな、ガウェイン。 あ奴らにも準備というものがある」

「ふーん、やっぱ人間ってめんどいなぁ。 ところで、その話し方なに? 変だよ?」

「……役作りだ」

 例の影の騎士団シャドウナイツ本部でコードネームを与えたエンドラと待つこと一時間。

「来たか」

 ようやく奴らがやってきた。

「お待たせしました、リュート様。 ルーク以下三名、揃っております」

「ルーク、この姿の時はリュートと呼ぶな。 影の盟主、リュクス=ペンドラゴンとでも呼ぶが良い」

「ハッ! 承知いたしました、リュクス様!」

 うん、ちゃんと渡した黒装束を着てきてるな。
 これなら大々的に暗躍しても、バレる可能性は低いだろう。

「だがまさか、影の騎士団シャドウナイツの事を知られていたとはな。 上手く隠していたつもりだったが、どうやら無駄だったようだ」

「だから言ったじゃないですかぁ。 リュート様……じゃない、リュクス様に隠し仰せるわけないって」

 跪きながらわちゃわちゃ騒ぐな。
 もっとこう、厳かな感じで頼む。

「あのさぁ……いつまで喋ってんの、君達? 我らが主の御前で失礼とか思わないのかなあ」

「「「うぐっ」」」

『新参者にたしなめられるとは、なんとも情けない……』

 それはホントにそう。

「セニア、ルーク、シンシア。 貴様らは我が認めし精鋭。 ゆえに今後は威厳ある言動に勤しめ。 これは命令だ」

「「ハッ!」」

「は、はいぃ」

 はぁ……まあ、シンシアについては追々考えるとして、まずは……。

「ガウェイン」

「はーい。 んじゃ、これより帝国軍対策会議を始めまーす。 我らが盟主、ペンドラゴン様にちゅうもーく」

 意外にもエンドラは場の操作が上手かった。
 これが年の功というやつか。

「……私からお前達に言うべき事は、ただ一つ。 何故今まで奴らの動向を掴めなかったのか、これだけだ。 そのせいで多くの犠牲が出た、もし理由があるなら述べてみよ」

「そ、それはその……」

「ルーク、自分が話そう。 ……この度は申し訳なかった、リュクス殿。 言い訳になってしまうが、奴らはなかなか尻尾を出さなくてな。 情報を掴むのが遅れてしまった。 その結果対処が遅れてしまい、誠に申し訳ない。 謝って済む問題ではないが、ここはどうか謝らせて欲しい。 此度は貴殿の民を守れず、すまなかった。 そしてどうか我々に、挽回の機会を与えてはくれないだろうか。 頼む」

「わ、わたしからもお願いしますぅ!」

 元暗殺ギルド長のシンシアでも奴らの尻尾は掴めなかった、か。
 それはつまり、それだけ用意周到だっという事。
 だとしたらこいつらに責任を負わせるのは酷。
 そもそも一番悪いのは、帝国の奴らなんだ。
 こいつらに当たるのは筋違いだろう。

「……ならば示して見せよ、お前達の忠義を。 期待しているぞ、我が忠実なる影よ」

「「「ハッ!」」」
 
 目の前で跪く、信頼の置ける従者三人と二匹。
 俺はそんな彼らを一瞥すると、とある目的を果たす為、一言二言指示を残し森から去っていった。
 シンシアと共に。



「あれか……」

 帝国と共和国の間に聳え立つアルテン連峰最大の山、リブラ山。
 その境界線である山頂を通りすぎ、帝国領内に入ってすぐ、大砲が多数設置された要塞が現れた。
 あの要塞こそが帝国の防衛拠点、ランドブルム要塞である。
 ここに来た目的は至って単純。
 俺の大切な人達を傷付けた借りを返し、二度と共和国に喧嘩を売る真似が出来ないよう、圧倒的な武力をもって帝国に恐怖を刻み込む。
 たったそれだけだ。

「トリスタンよ、よくぞ奴らの重要拠点を見つけた。 褒美としてお前にはこれをやろう」

 アイテムボックスから取り出した短剣を、トリスタンことシンシアに手渡してやると。

「こ……この短剣はもしかして、短剣使いなら誰もが憧れるというあの宵闇の月!? 良いのですか!? この様な品を戴いてしまって!」

 これ、そんな大層な品物だったの?
 昔クエストで立ちよった魔の蔓延る回廊とかいう、ベヒーモスやドラゴンゾンビのような最上級魔物しか出てこないにも関わらず、思いの外難易度が低かったダンジョンで拾ったものなんだが。

「構わん、取っておけ」

「あ、ありがとうございますぅ! 主様自ら私達に新たな名をつけてくれただけでも有り難いですのに、こんな物まで戴けるなんて……一生大事にさせて貰いますぅ!」

 泣いて喜ぶほど?
 そういえば昨日、正体を秘匿する為に名をつけてやった時も、みんな感動していた気がする。
 こいつらの感性はよくわからん。

「では私は、セニア様……ランスロット様達が行っている魔物の残党狩りや村の防衛の手伝いに戻りますぅ! リュクス様に女神の祝福がありますように!」

「ああ」

 流石は元暗殺者。
 まるで忍びのように木の枝を乗り継ぎ、あっという間に暗闇へと姿を眩ましてしまった。

「……よし、俺もそろそろやるとしようか。 まずはそうだな、小手調べに……」

 昨日の戦いから逃げ延びた兵士が報告した影響か、木陰から見えるだけで、数十人が警備についている。
 それなりの戦力だ。
 普段のように力を抑えて攻略しようと思ったら、結構な労力がかかるだろう。
 だが今回は奴らにツケを払わせる為、俺を敵に回すとどうなるか理解させる為、殆どの兵士を始末する必要がある。
 この程度の戦力じゃあ話にならない。
 堅牢な外壁ごと、全て焼き払ってやる。

「……! 何者だ、貴様! ここで何をしている!」

「おい! 聞いているのか、貴様! さっさと名乗れ! 名乗らぬなら帝国の法に則り、貴様を捕縛……」

「メルトキャノン」

 山から突然飛び降りてきた俺に兵士達が武器を手に距離を詰めてくる中、俺は意に介さず熱線を発射。
 放たれた熱線は真っ直ぐ外壁に飛んでいき、着弾した直後に起きた爆発が、鋼鉄の扉もろとも外壁を吹っ飛ばした。
 
「なっ……!」

「き、貴様! 何を……」

 遅い。

「がっ!?」

 手前に居た兵士の首を手刀で一刀両断すると、

「ひっ!」

 それを目撃したもう一人の生き残りはガタガタと剣を震わせ、怯えを見せる、が。

「う……うあああああっ!」

 殺されるぐらいなら殺してやると言わんばかりに、兵士は斬りかかってきた。
 しかしその剣は俺の指先一つで軽々と受け止められ、男はより恐怖を滲ませる。
 恐れを感じている人間を殺すのは道義に反するが、今の俺は悪鬼羅刹。
 手加減など一切するつもりはない。
 ドスッ。

「あり得……ない…………鎧を、素手で……」

 こんな紙装甲で俺の貫手を止められると思ったら、大間違いだ。

「アダマンタイト製の鎧でも装備してから出直してくるんだな、愚物が」

 まあ、もう聞こえていないんだろうが。

「囲め、囲め!」

 要塞に足を踏み入れると、待ち構えていた大勢の兵士が取り囲んできた。

「これ以上好きにさせるな! なんとしてもここでくい止めるんだ!」

「ハッ!」

「フッ、やれるものならやってみろ。 どうせ、無駄な足掻きだろうがな」

 人数上では圧倒的不利にも関わらず、大胆不敵な笑みに浮かべる俺に、兵士の多くが飲み込まれる。
 しかし、どれだけ強大な敵が相手だろうと、こいつらも軍人の端くれ。

「か……かかれー!」

 死すらも厭わない覚悟で、襲いかかってきた。
 その意気や良し。
 ならば見せてやるとしよう。
 本物の悪夢というものを。
 
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