最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ

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後悔先に立たず

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「ぐああああ……!」

「大丈夫ですか!? 今、治療しますので!」

「悪い、こっちにも治癒師を頼む! 今にも死にそうだ!」

「駄目だな、こりゃあもう足を切断するしか……」

 村は案の定、酷い状況だった。
 傷付いた騎士や冒険者が横たわり、治療を受けている。
 犠牲となったのは、戦った者達だけじゃない。
 戦う力を持たない子供やお年寄りも、犠牲になったようだ。
 そこかしこから啜り泣きが聴こえてくる。

「リュート、戻ったのか」

「父さん……」

 父さんも酷い有り様だ。
 衣服に血が滲んでいる。
 きっと中は傷だらけだろう。
 俺がもっと早く駆けつけていればこんな事には……。

「父さん、ごめん。 こんな時に遊びに行ってて。 こうなるってわかってたら……」

「子供がそんな事気にするな。 それに……」 

 父さんは俺をジッと見つめると、フッと笑って。

「なに?」

「……いや、なんでもない。 それよりも、すまないが怪我を治してくれないか。 まだ完璧に驚異が去った訳じゃない以上、倒れている訳にはいかないからな」

「うん、わかった。 ヒール」

 治癒魔法をかけてあげると、父さんは心なしか少し落ち着いた顔色になった。
 手遅れになる前で本当に良かった。

「もう治ったのか、流石はリュートだな。 教会や診療所の治癒師なんかとか比べ物にならない腕前だ。 まあ、お前と比べられる方が可哀想というものか。 ……なあ、リュート。 先程のはやはりお前が……」

 と、核心を突く内容を父さんが口にしようとした時。
 遠方からサイラスが息も絶え絶えといった様子でこっちに走ってきて、

「リュート、帰ってきてたのか! 丁度良かった、今すぐ一緒に来てくれ! お前が来てくれねえと、リーリンが……リーリンが!」

 そんな事を────





「ごほっ……ごめん……ね、お姉ちゃん……」

「リーリン! しっかりして、リーリン! なに弱気になってんのよ! 約束したでしょうが! わたしとあんたであいつを支えて、この村を大きくするんだって! あれは嘘だったの!?」

「泣か……ないで、お姉ちゃん。 最後はお姉ちゃんの笑った顔が……見たいな」

「……ッ」

「リーリンねぇ……」

 なんだよ、これ……どうしてリーリンが、血塗れになってるんだ。
 腹が裂けてるんだ、片目が潰れてるんだ、あり得ない方向に腕が曲がってるんだ。
 なんで……なんでリーリンがこんな目に……!

「リーリン!」

「リュ……ウト?」

 駆け寄ると、その凄惨さがいかに凄まじいものか、手に取るようわかった。
 このままじゃあ、リーリンは間違いなく死ぬ。
 恐らく後、数分の命だろう。
 治癒師が目を伏せて頭を振っている所からして、そう判断せざるを得なかった。

「リュート……くん……? 幻覚かなぁ……こんなとこにリュートくんが居る筈無いのに……」

「俺だ、リーリン! リュートだ! 助けに来たぞ! だからしっかりしろ、リーリン!」

 呼び掛けるが、リーリンは虚ろな瞳で薄ら笑いを浮かべるだけで、他に反応はない。

「リュート……リュート、お願い。 妹を助けて……助けてくれたらわたし、何だってするから! 一生賭けてあんたに尽くす! だからお願い! 妹を助けて……!」

「……言われるまでもない。 当たり前だ!」

 俺はシルトアウラ様とオウル様から頂いた、マンティコア皮の上着を脱ぎ捨て、リーリンの胸元に手を添える。

「死なせない! 絶対に死なせるものかよ! 戻ってこい、リーリン! リジェネレート!」

 リーリンに触れた右手に魔力と意識を集中させ、一心不乱に魔法を生成。
 地面に俺以外にはまず解読不可能な綿密かつ難解な魔法陣を出現させ、最上位治癒魔法。
 【リジェネレート】を発動させた。

「…………すぅ」

「ま、まさかこんな事が……」

 なんとか上手くいってくれたか。
 リジェネレートのお陰で、リーリンの破れた腹部や折れた右腕は元に戻ってくれた。
 左目は眼球そのものが蘇生不可能なぐらい潰れているか、失くなっているかで治らなかったが、ここまで治っただけマシと思うべきだろう。

「リーリン……よかった、本当に……」

「へへっ。 やっぱお前はすげえよ、リュート。 あんな状態から治しちまうなんてよ」

「うん、流石はリュート様だよ」

 呆然としている治癒師を余所に、褒め称えてくる二人に照れていると、

「え……?」

 突然アリンが抱きついてきて、泣きながら何度も何度も感謝の言葉を口にする。

「ありがとう……ありがとう、リュート。 妹を救ってくれてありがとう。 あんたが居なかったら今頃リーリンは……うぅ……」

「アリン……」

 俺はそれ以上言葉にせず、アリンの背中をただたださすり続けた。
 彼女が泣き止むまでずっと。


 
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