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最強無敗の少年は圧倒的な力で戦場を制す 

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「悪い、ガルさん! 話の途中だけど用事が出来たから、これで失礼させて貰う! 報酬金はいつも通り、預金でお願い!」

「なに? 待つんだ、カズト。 いきなりどうしたと……」

  ガルさんが呼び止めるも、俺はスタスタ扉へ向かっていく。

「行くぞ、エンドラ。 お前の力が必要になるかもしれん、力を貸してくれ」

「はーい。 ご主人様の仰せのままにー」

 一万の軍勢だ。
 広範囲大魔法を使えば殲滅は容易いが、準備にそれなりの時間がかかる為、その間に犠牲者が出る可能性がある。
 リルやセニア達も頑張ってくれるだろうが、あいつらだけで間違いなく止めきれないだろう。
 だがエンドラが……俺の三割の本気を受けても幾度となく立ち上がったエンドラが加われば、進行を阻止する事ぐらいなら出来る筈。
 その一抹の希望に賭けるしかない。
 と、意気込みながら扉を開けると、退屈そうに待機していたメリルが視界に入ってきた。
 向こうも同じタイミングで気付いたらしく、俺と目を合わすと嬉しそうに微笑んだ。
 
「あっ! お帰りなさい、カズトさん! クエスト完了出来ましたか?」

「ああ、そっちは問題ない。 ただ……」

「ただ……?」

 メリルを巻き込みたくないと思いつつ、かといって蚊帳の外にさせたくなかった俺は、現在のヴェルエスタ領について、かいつまんで説明をした。
 すると、話を全部聞き終わったメリルは、突然血相を変えて。

「リュート様! お父様達には私から説明しておきますので、リュート様は今すぐお戻りください! 今のヴェルエスタ領には、貴方が必要な筈です! 貴方が守るべきもの、守りたいものをその手で守ってきてください! ヴェルエスタ家の子息として、そしてリュート=ヴェルエスタとして!」

「……! ……わかった、行ってくる。 後の事は任せた、メリル!」

「はい。 行ってらっしゃいませ、リュート様。 ご武運をお祈りしております」

 道中、受付のお姉さんをナンパしていたアインともすれ違ったが、アインには適当に理由をつけてはぐらかし、俺とエンドラはギルドから飛び出した。

「くっ……!」

 相変わらずここの通りは人が多い!
 これだから都会は!
 流石に人混みの中でテレポートを使うわけにはいかない。
 どこか良い所はないか。
 人通りが少なくて、なおかつ暗い場所は……って、そういえば確かあそこの路地裏に誰も通らない、都合の良い場所があった気が……。

「エンドラ、こっちだ!」

「ほーい」

 エンドラを連れて潜り込んだそこは、かつてセニアを村に誘ったあの裏路地だった。
 ここなら人に見られる心配はない。
 
「こんなとこ来てどうするの? というか、用事ってなに?」

「今からテレポートする。 どこか俺の身体に触れていてくれ。 一緒に跳ぶぞ」

 何か言いたげなエンドラだったが、観念したのか、俺の手を握る。

「いいよ、お兄ちゃん。 いつでもどーぞ」

 左手に広がっていく、エンドラの温もり。
 俺はその、人ならではの暖かさを感じながら、転深の腕輪を発動させた。

「よし……じゃあ行くぞ、エンドラ! テレポート!」





 やはり転深の腕輪は凄い。
 魔法の中でも制御の難しいテレポートも何のその。
 本来であれば一人転移させるだけでも一苦労なテレポートなのに、多人数同時に転送させてくれるとか、流石はチートアイテム。
 規格外だ。
 お陰でシャドウナイツの拠点。
 森の中に作られた円卓会議場へと、一瞬にしてやって来る事が出来た。
 転深の腕輪様々である。
 
「ここ、どこ? 森……? それにしては妙に生活感があるような……ねえ、お兄ちゃん。 この場所って……」

「エンドラ、話は後だ。 悪いけど、上空から偵察してくれないか? 平原と近くの村の状況を知りたい」

「ん、りょーかーい」

 相変わらず緊張感の欠片もない返事をしたエンドラは、竜化し、上空へと飛んでいった。
 その光景を余所に、俺はアイテムボックスからこういう時の為に用意しておいた、偽装用の衣装。
 暗闇に溶け込める漆黒のフード付き上着と衣類や手袋を取り出し、手早く着替えていく。
 エンドラが戻ってきたのは、準備を整え、フードを被った頃合いだった。

「ただいまー……って、なにその格好。 最初誰かと思ったよ」

 やはり竜形態だと喋れないようで、エンドラは降りてくるなり竜人形態へと変態。
 ロリっ娘と呼ぶに相応しい容姿で、ケラケラ笑う。

「色々事情があってな。 貴族の息子として戦う場合は、こうして姿を隠さなくちゃならないんだ。 だから笑うんじゃねえ」

「ふーん。 なーんか人間ってめんどくさそー。 ドラゴンに生まれて良かったー」

「……で、状況は?」

「ああ、それなんだけどさあ。 あの村もう駄目かもー。 この国では見る筈もない魔物が押し寄せて来ててさ、一応バリケード作って応戦してたけど、突破されるのも時間の問題だと思うよ」

 おおかた、リルの話通りか。
 
「魔物の種類は?」

「うーんと確か、スコーピオンやリザードマンみたいな共和国に居ない魔物ばかりだったかな。 どちらかと言えば、帝国に生息してる魔物っぽい?」

 だとすると、この進行はただの魔物大行進パスパレードじゃない。
 十中八九、帝国の仕業だろう。
 恐らく、通り道となる境界の防衛砦は既に……。

「戦場に人は居たか? 騎士とか冒険者とか」

「ううん、人は見かけなかったよ。 村に退却したんじゃないかな。 あっ、でも魔物の後方で黒ずくめの奴らを何人か見たかも。 なんだったんだろ、あれ。 魔物に指示を出してるようにも見えたけど、そんな事はあり得ないし」

 一万の魔物を使役するだなんて、まず不可能だ。
 もし本当に指示を出しているのだとしたら何らかのトリックはある筈だが、今の段階では知る方法も無いから後回しで良いだろう。
 今すべきは他にある。
 皆を守る事だ。

「エンドラ、お前は村の方へ行ってくれ。 そこにセニアっていう、刀を使う女剣士が居る。 そいつと共闘して、魔物を蹴散らすんだ」

「うん! がってん承知だよ、お兄ちゃん! おーし、お兄ちゃんにボコボコにされた鬱憤あいつらで晴らすぞー!」

 あ、やっぱり気にしてたのね。





「クエエエエッ!」

「邪魔」

 愚かにも俺を喰おうとしてきた巨大トンビに裏拳をかますと、トンビは隕石が如く落下し、魔物数十体を纏めて肉片へと変えた。
 多少数を減らした筈だが、減っている気がしない。  
 折角空いた空間も、直ぐ様他の魔物で埋め尽くされてしまった。
 
「やっぱり広範囲魔法で殲滅した方が早そうだな」

 ……っと、いかんいかん。
 準備をする前に、エンドラが無事あいつらと合流出来たか確認しないとな。

「千里眼」

 視界が遮られない限り、なんキロ先でも見通せる肉体強化系スキル、千里眼。
 俺以外にはまず使える者は居ないであろうそれを使い、村の入り口付近を見てみると、セニアが魔物を斬り伏せながら騎士や冒険者に指示を飛ばしている所だった。
 流石はセニアだ、頼りになる。
 
 おっ、エンドラが合流した。
 飛来した当初は皆エンドラに剣を向けていたが、テレパシーで話を通しておいたセニアは気がついたようで、共に魔物を倒し始めた。
 その光景を見て仲間だと知った騎士達も、エンドラの援護を開始する。
 リルもありがとな、人間の為に戦ってくれて。
 よし、これで魔法の準備に入れる。
 味方を巻き込まず、かつ敵を殲滅出来るあの新魔法の出番だ。
 だがまずは、下準備として……。

「テレポート」

 村人にこの姿を見られるだろうが問題ない。
 誰も俺がリュートだと気付く筈が……、

「おい、なんだあいつ! 魔族か!? 急に現れたぞ!」

「敵の新手か!?」 

 誰が魔族だ。
 確かに少し怪しい格好をしているし、浮遊してるから怪しむのもわかるが、人外扱いは酷くないか。

「貴方、あれってもしかして……」

「………………」

 な、なんで父さん達がこんな前線に!?
 ……いや待て、落ち着け、俺。
 領民を守るのは領主、ひいては貴族の務め。
 父さん達がここに居るのはなんらおかしい話じゃない。
 一旦深呼吸しよう。

「すーはー、すーはー」

「……ふっ、流石は自分が主と認めた御方おんかただ。 やはり貴殿に仕えて正解だった」

『主殿! 主殿! はっはっ!』

「はわわわわわ……あのお方、とてもカッコいいですぅ! まるで深淵の化身そのものですぅ! 憧れますぅ! ……あれ? なんでしょう、どこか見覚えがあるような……?」

 めっちゃバレとる。
 いかん、このままじゃあ父さん達にバレるのも時間の問題だ。
 さっさと奴らを殲滅してしまおう。
 と、俺は魔力を練り上げながら、別人の振りをすべく、実に中二病な猿芝居を始めた。

「矮小なる者共よ。 我が前に立ちはだかった事、後悔しながら死んでゆくが良い」

「おお、なんという神々しさ……あれこそが世界を統べる覇王の器! このルーク=アルブレム! 一生あなた様についていく所存でございます!」

 黙れ、ルーク。
 解任するぞ、このバカタレが。

「深淵より出でし、灰塵の落涙────」

 魔力を解放した瞬間、俺の背後、両側に百近くの魔法陣が展開。
 そして、

「メルトダウン」

 全ての魔法陣から星屑が如く質量で発射された、火属性魔法バレットレーザー。
 否、威力を底上げしながらも魔力量は抑え、なおかつ着弾時に爆発するよう改良を施したバレットレーザーの改良型。
 メルトキャノンが、着弾と共に一万にも及ぶ魔物の軍勢を、瞬く間に塵にしていく。
 
「嘘だろ……」

「あれだけ居た魔物が、一瞬で……」

 生き残った数十匹と後方で指示を飛ばしていた帝国兵は取り逃したものの、それ以外は全て灰塵と帰した戦場を目の当たりにし、誰もが口々にそんな言葉を口ずさむ。
 
「あなた……」

「うむ……」

 父さん達も同様で、俺を見上げるその表情はとても複雑。
 感謝と苦渋を舐めているかのような、そんな顔を浮かべていた。

「ガアアアアアアッ!」

「「「うおおおおおおおっ!」」」
 
 エンドラの勝利の雄叫びに、勝利を実感した騎士達も、同じく雄叫びを響かせる。
 だが俺の心は一向に晴れてくれなかった。
 何故なら────
 
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