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模造精霊魔法

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「よっと」

「あ、お帰りなさい、リュート様」

 テレポートで急に姿現しても驚かなくなってきましたね、メリルさん。
 慣れってすんごい。

「アルヴィン様達、見つかりました?」

「うん、こっちに向かってるよ」

 と、告げるや否や、王族のお三方がやってきた。
 ギリだったな。
 テレポートで先回りして正解だった。

「遅れてしまって申し訳ない。 少々ごたついてしまってね。 お詫びと言ってはなんどけど、これを貰ってくれないかな。 世界最高峰の特効薬、フェニクスエリクサーだ」

「え!? フェニクスエリクサーってもしかして、どんな病も治し、死者をも甦らせるというあの!?」

 い、要らねぇ……。
 あいにく俺は、この過剰な体力値や完全治癒魔法オリジンのお陰で、どんな怪我や病であろうとたちどころに治せてしまう。
 仮に一回死んだとしても、壊れスキルの起死回生ラストスタンドで、一度だけ生き返る事も可能。
 よって、こんな薬品は必要ない。
 が、返したら返したでこれまた厄介な事になるのは目に見えている。
 ……しょうがない、ここは一旦貰っておいて、必要な人を見かけたら譲ってやるとしよう。
 
「あ……ありがとうございます、リヒター様。 こんな高価な物を……」

「ですが、よろしいのですか? フェニクスエリクサーは女神の涙と呼ばれるほどの、神話級アイテム。 これ一つで城一つ建てられるぐらいの価値がありますのに、貰ってしまって本当によろしいのでしょうか」

 高価だろうとは思っていたけど、そんな価値のあるもんだったの!?
 城一つ…………これ売っ払ったらヴァレンシール村の経済は数十年、安泰なんじゃ……ごくり。

「もちろんだとも、遠慮なく貰ってくれ。 どうしても引けを感じると言うのなら、先行投資だとでも思ってくれて良い。 使うも売るも君たち次第さ」

 この人はどこまでこっちの考えを見抜いているんだか。
 末恐ろしい人だ。

「メリル、預かってて。 持ってたら金に換えたくなっちゃうから」

「リュート様……」

 言いながらエリクサーを渡すと、メリルは苦笑いを浮かべながら受け取った。

「おっし、これで兄貴の用事は済んだな。 次は俺の番だぜ、リュート!」

 本当にやるのか……。
 出来れば戦いたくは無いのだが、そうも言っていられないらしい。
 アルヴィン様は意気揚々に、槍を構えている。
 ……なんだ、あの槍。
 一見すると白銀の槍にしか見えないが、異様な気配がする。
 あれはただの槍じゃないな。
 一応、鑑定しとくか。

「…………神槍……ラタ、トスク……?」

「へぇ……」

 ────神槍ラタトスク。
 女神リオールが下界に授けた神器の一つ。
 魔力を断ち切る能力を有しており、魔力で構成された魔物や魔族を一撃で屠る槍。
 魔法に対する絶対防御術式も付与されている為、どんな強力な魔法であろうと無に帰す。
 
 神器……。
 確か、リヴァイアサンもといネッシーから貰った宝箱に入っていた、この転深の腕輪も神器だったな。 
 つまり、あの槍はこれと同じで、女神様が所有していたチートアイテムってことか。
 どおりで普通じゃない力を感じる筈だ。

「やっぱお前おもしれぇ奴だな、リュート。 一発でこいつが神器と見破ったのは、兄貴以来だぜ。 こりゃ俄然楽しくなってきやがった!」

 こっちはどうやって上手く負けるかで精一杯だから、楽しむ余裕なんか無い。
 さて、どうしたもんか。
 とりあえず、満足して貰う程度に相手を……。

「アルヴィン、本気でやる気なのかよ! 相手は子供だぜ!?」

「ああん? そりゃおめえ、本気でやるに決まってんだろ! これ程胸踊る男が目の前に居んだぜ!? 本気でやらなきゃ失礼ってなもんだろ!」

 適当に済ましてくれればそれで構わないです。

「それに……少しでも気を緩めると、一瞬で食われそうだからな」

「はあ?」

「へっ、おめえにゃ分からんだろうよ。 俺みてぇな修羅場を潜ってきた奴じゃねえと、こいつのヤバさは。 ドラゴンがガキの使いに感じるぜ、まったく」

 別にまだ何もしてないんですけど。

「リュート様、リュート様」

「はい、リュートです」

「武器はどれにします? 剣、槍、斧なんかもありますよ」

 どの武器種も熟練度がカンストしてるから特に差はないのだが、なんとなく剣が性に合っているので、俺はアイアンソードを鞘から抜いた。
 耐久性はアダマンタイトエッジに比べると雀の涙だが、本気で振らなきゃ数回は持つだろう。
 身体が成長してからというもの、余計に普通の武器がついてこれなくなったから本当に困る。
 
「メリル、離れてて」

「はい」

 呟くとメリルは、リヒター様達お付きのメイドさんや騎士達の元へと駆けていった。
 その可愛らしい姿を横目に、俺は剣を一振する。
 ピシッ。
 ヒビが……。
 脆い、脆すぎるよ!

「いつでもどうぞ」

「おう、んじゃあ……遠慮なく行かせて貰うぜ! おらあっ!」

 見本のような綺麗な突き。
 だが、そこらの騎士とは比べ物にならない程の速度と鋭さだ。
 なるほど、騎士団長を任されるだけはある。
 この人、かなり強い。

「……! おいおい、この技は初見殺しだぜ? なのに余裕で避けんのかよ」

「しかも無駄の無い動きで、紙一重に避ける……か」

「すげぇ……」

 そんな特殊な技だったの?
 普通の突きかと思った。
 
「ならこれはどうだ! 三芯槍!」

「おわっと!」

 あぶないあぶない、油断し過ぎた。
 あと少し弾くのが遅れたら、胸がチクッと痛むところだった。
 痒くなるからあんまり攻撃受けたくないんだよね。

「あれも防ぐか」

「今のを完璧にいなすとか、冗談だろ」

 ここらで一回攻撃しとくか。
 ひとまず、今のを真似して三連撃っと。

「せやっ!」

「ぐっ! なんつう速さだ、追い付くのがやっとだぜ……」

 へえ、追い付くか。
 ならもう少し速度を上げても……あ。
 剣が折れちゃった。

「もろ……はぁ、これだから普通の武器は……」

「……兄貴、あいつに渡した武器って新調したもんばっかだったよな」

「あ、ああ。 その筈だよ」

「それがあんな簡単に折れるか?」

「折れないだろうね、普通なら」

 どうしよう。
 これじゃあもう打ち合いは無理だ。
 でもこれは逆にチャンスじゃないか?

「さっすがアルヴィン様! アルヴィン様の技に剣が破壊されちゃいました! これじゃあ僕の敗けだなぁ!」

「……あ?」

「剣士にとって剣は命のようなものですからね! それを砕かれたとあっては、敗けを認めるしかない! だよね、メリル!」

「はい?」

 なに言ってんだこいつ、と言わんばかりの目を向けないでください。
 察しろ。

「……ふっ、なるほど。 そういう事か。 皆が見ている前では、本気で戦えない。 そういう事なんだね、リュートくん」

「へ……? いや、別にそんな事は……」

「なら君が全力を出せるよう、人払いをしようじゃないか」

 リヒター様が手を叩くと、メイドだけじゃなく、騎士達もこぞって出ていってしまった。

「これで本気で戦えるよね? さあどうぞ、リュートくん。 君の本気を見せてくれ」

「ちょ、まっ! 俺は別に本気でやるつもりは……!」

「おいおい、リュートよぉ。 ここまでお膳立てさせといて、やれねえとは言わねえよなあ。 おら、見せてみろよ! お前の本気って奴を! 見せねえと反逆罪にしちまうぜ?」

 国家権力乱用してきた!
 くそ、こうなったらやるしかないか。

「……はぁ、どうなっても恨み言なしですからね! 来い、アダマンタイトエッジ!」

「……!」

 虚空より突然現れた剣に、アルヴィン様を初め、アインとリヒター殿下も驚きの表情を浮かべる。

「今のは……時空魔法のアイテムボックス? まさか失われた時空属性の魔法を扱えると言うのか?」

「こりゃすげぇ、期待以上だな」

 そこまで誉める程の事なのだろうか。
 赤ん坊の頃から使っているのだが。
 と、二人の会話を話半分に聴きながら、俺は初級魔法に属するフレイムアローを構築。

「フレイムアロー!」

 間髪入れず、炎の矢を撃ち放つ。

「はっ! んな魔法なんざ、ラタトスクで切り裂いてやるよ! おらあっ!」

 おお、ホントに斬れた。
 流石はチートアイテム、大した能力だ。
 こうなると、どこまで耐えきれるか実験したくなってくる。

「そんなもんか? おら、さっさとかかってこいよ!」

「じゃあ……こんなのどう? 属性は炎、構成は模造精霊、範囲は空間。 来い、イフリート・ケルン!」

「な……こ、こいつは……!」

  突如として練兵場に現れた、焔の巨人、イフリート・ケルン。
 延々と滾り続ける焔の化身を目の当たりしたアルヴィン様だけでなく、アインとメリルも顔をひきつらせる。

「イフリート、バーングレイシャル」

 俺の言葉に反応したイフリートが、人間の二倍はあるであろう右腕でアルヴィン様に殴りかかる。
 その拳にアルヴィン様は、ラタトスクを斬りつけた。

「こなくそ! ……へっ、どうだ! 所詮は魔法、こけおどしだ! んなもん幾らやったって、このラタトスクは破けや……!」

 残念。
 イフリートは俺の魔力と直結している、いわば常時電力を送り続けられているドローンのような存在。
 俺と繋がっている限り、どれだけ魔力を断ったとしても消し去ることは不可能だ。

「……いけない! 避けるんだ、アルヴィン!」

「イフリート! カタクラフト・ノヴァ!」

 イフリートが雄叫びにも似た轟音を響かせた次の瞬間。
 口から極太の熱線を放射した。
 
「ぐううううう!」

 アルヴィン様はラタトスクに備え付けられている防御魔法でなんとか耐えるが、それも風前の灯。

  ────ビシッ。

「嘘だろ! 絶対に壊れないラタトスクの防御魔法が……!」

「……こわれる!」

「ッ!」

 熱線を浴び続けた防御魔法陣はあっという間に崩壊。
 爆発がアルヴィン様を吹き飛ばした、が。

「くそ……冗談だろ。 いったいどんだけの魔力を持ってれば、こんな芸当が出来んだっつーんだ」

 それでもまだ立ち上がるのは、プライドゆえか、それとも類いまれなる精神力ゆえか。
 なんにしろ、驚きだ。
 手加減したとはいえ、イフリートの一撃を食らって立ち上がるだなんて、感嘆に値する。
 ちょっと舐めてたな。
 じゃあ、そろそろ本気を出すか。

「アルヴィン様、すいませんでした。 正直舐めてました、あなたの事。 イフリートには流石に耐えられないと思ったので。 ですが、貴方は耐えきった。 全てを焦土と化す、こいつの攻撃を受けて。 なので、ここからは本気で行かせていただきます」

「あれで本気じゃねえとか、どんだけだよ!」

「これ程とは……ふふ、素晴らしい。 なんて、なんて素晴らしい逸材なんだ、君は。 俄然僕は君が欲しくなったよ、リュートくん」

 なにやら気持ち悪い言葉が聞こえてきた気がするが、俺はそれを聞かなかった事にして────

「へっ……来い、リュート!」

「ではお言葉に甘えて! 奥技オーバーアーツ!」

 一気に距離を詰め、渾身の突きを放つ。
 
「竜呀咆震!」

「──ッ!?」

 必殺技を思い浮かべる時、人は複雑だったり、派手だったり、特殊な構えから繰り出される技だと思いがちだが、実際は案外シンプル。
 この竜呀咆震という技が、その最たる例だろう。
 仰々しい技名の割に、その実態はただの突き。
 ここから他の技に繋がる訳じゃない、ただの突き技だ。
 だが、真に鍛えぬかれた技というのは、複雑な技術に宿るものではなく、単純な技にこそ宿るもの。
 だからこそ、誰にでも放てるこんな突きが、最強の技になり得る。
 たった一撃で、神器を弾き飛ばし、鎧を砕き、筋骨隆々の男を壁に叩きつける程までに。

「これじゃあ大人と子供だね。 まるで歯が立たない。 ねえ、アルヴィン」

「大人と子供だぁ? んな可愛いもんかよ」

 呼び掛けに応えたアルヴィン様は、ふらつきながら立ち上がり、槍を拾って。

「魔王とでも戦ってる気分だったぜ、たくよ……」

 なんか事あるごとに魔王に例えられる……。

「それで、彼は合格かい?」

「ったりめえだろ。 合格だよ、合格。 むしろこいつになら、騎士団長の座を明け渡しても良いくらいだぜ」

 その言葉を耳にしたリヒター殿下はフッと微笑むと、俺の前までやってきて、こう言ってきた。

「リュートくん、戦ってすぐで大変申し訳ないのだけれど、今から僕の部屋に一人で来てくれないかな。 少々、込み入った話がある」

 ────と。
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