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超絶めんどくさい三兄弟
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「リュート様、メリル様。 リヒター様が参るまで申し訳ございませんが、こちらでしばしお待ちくださいませ。 何かありましたら控えのメイドにお申し付けください。 出来うる限りの対応を取らせていただきます。 それではわたくしはこれで」
リヒター殿下が寄越したメイドは言いつけ通り俺達を談話室に案内すると、深々と会釈して、その場を後にした。
だだっ広い談話室には、ポツンと残された俺とメリルのみ。
他に人は居ない。
きっと俺達が寛げるよう人払いをしてくれたのだろうが、自室の数倍はありそうな部屋の広さのせいか、逆にソワソワしてしまう。
かといって、どこもかしこも高級な品ばかりで下手に触れやしない。
寛げる筈なんかなかった。
きっとメリルも落ち着かないに違いな……。
「私はお紅茶淹れますねー。 リュート様は座って待っててください」
「あ、はい」
ソワソワしてたの俺だけだったわ。
よくここに来ているとしか思えないほど、メリルはテキパキとお茶を用意している。
「どうぞ、リュート様」
「ありがとう……」
なんだか昨日から格の違いを思い知らされている気がしてならない。
メリル様とお呼びした方が良いだろうか。
「ズズッ…………! うまっ! なにこのハーブティー! 今まで飲んでたのが飲料水に感じるくらい旨いんだけど!」
「病み付きになっちゃいますよねぇ。 お陰様でうちのハーブティーも全部この茶葉になっちゃいました」
「なんてブランド?」
「ブランドではなく、お店ですね。 ウエステリア公国の学園都市ウェンリットにあるお紅茶店、アフタヌーンというお店から取り寄せてるんです」
てことは、これ輸入品なのか。
意外だな、城にある物だからてっきり自国生産の物とばかり。
確かウエステリア公国って、ノルスガルド共和国の同盟国だったっけ。
だとしたら、輸入品を置いてるのもおかしくないのかも。
「へえ、外国の紅茶なんだ。 どおりで……それで、お値段の方はおいくらで? きっとお高いんでしょう?」
「ふふ。 これだけ美味しいんですから、もちろんお高いと思いますよね? 思いますよね? でも実はそんな事ないんです。 このお紅茶なんと……! 一袋、一万コルで買えちゃうんです! とってもお安くないですか!?」
どこが安いねん。
一般家庭の月収レベルなんですけど。
日本円に換算すると、十万円ってところか。
くそ高えな。
紅茶一袋の値段じゃねえ。
「一万コルか……どうすっかなぁ。 ギルドに預けてある金下ろしてくれば買えるけど、輸入だと取引がめんどくさそうだし」
「でしたら私が仲介役を担いましょうか? そしたらリュート様は私に注文とお支払だけしてくだされば、面倒な手続き無しで買えますけど」
ほぉ、悪くないな。
「マジで? じゃあお願いしようかな。 明日早速ギルドに下ろしてくるか。 定期購入したいから手始めにまずは十万コルほど……」
と言って、そこで気が付いた。
自分の迂闊な発言と、メリルのにんまり顔に。
「随分とギルドに溜め込まれていらっしゃるんですね、リュート様。 流石は王都の危機を救った英雄、Sランク冒険者のカズトさん。 という訳ですか、ふふふ」
「うっ」
完璧にバレた……。
というか、バレていたっぽい……?
「き、気づいてたのか? 俺がカズトだって」
「そりゃあ気付きますよー。 だってどれだけ戦力を整えても、一体として討伐出来なかったあの四大魔物を一人で蹴散らしてしまう人なんて、リュート様以外考えられませんもの」
そこまでの奴らだったのか、四大魔物って。
強いとは受付のお姉さんから聞いていたけど、思いの外雑魚かったから大袈裟に言ってるだけだとばかり。
「それにその後、セニアさんがヴァレンシールのギルドに移籍したでしょう? そこでピンと来たんです。 もしやカズトさんとリュート様は同一人物なのでは、と」
な、なんて名推理なんだ。
名探偵メリル、ここに爆誕。
「どうですか? 私の推理、間違ってますか?」
「……合ってます…………」
……ん?
ちょっと待てよ?
メリルにバレてるってことは、もしや父さんや母さんにもバレてるんじゃ……。
いやでも、もし知ってたら絶対既に言ってきてるし、それは無いか。
なら、ここでメリルの口を塞いでしまえば……。
「やっぱり! そうだと思ったんです! 噂に聞くカズトさんの強さと良い、年齢と良い、リュート様と合致してましたからね。 そうとしか考えられませんでした! 実はずっと答え合わせしたかったんですけど、あんまり人に言いたくなさそうだったので聞けずじまいだったんですよねぇ。 あっ、じゃあもしかして王都を賑わしたあの怪盗との度重なる攻防もやはりリュート様が……!」
「……メリル、一つ取引しないか?」
「はい……?」
唐突な提案にキョトンとするメリル。
そんな彼女に俺は続けて。
「メリルは僕の……いや、俺の秘密を知りたいんだよな?」
「そう……ですね。 リュート様の事は全部知っておきたいと思ってはいますが……」
「なら、メリルの知りたい俺の秘密は包み隠さず話してやるよ」
「……!」
それを聞いた途端、メリルの瞳がキラキラ輝いた。
メリルにとって俺との秘密の共有は喉から手が出るほど欲しい情報の筈。
断ることはまずしないだろう。
「でもその代わり、幾つか頼みを聞いて欲しい。 良いか?」
「はい、なんなりと! 何でもお申し付けください! むふー!」
ほい、釣れた。
爆釣である。
あんまりにも簡単に釣れるもんだから、ついついにやけそうになってしまう。
「じゃあ三つほど、お願い出来るかな? まず一つ目は、俺が冒険者である事を他言しない事。 次に、カズトとして活動している時は、俺とメリルはただの依頼人と冒険者という立場でお願い。 そんで最後はこれ。 もし俺の立場上どうしようもない問題が起きた時、力を貸してほしいんだ。 どう? 出来そう?」
「えっと……そんな事でよろしいのですか? それでしたらわざわざ言われずとも協力するつもりだったんですけど……」
あれ、そうなの?
じゃあこの取引、ただ単に俺が損してるだけじゃね?
「そっか、ならこの話はなかったことに……」
「あっ、でも! 約束しておかないともしかしたら口を滑らしてしまうかもしれませんから、一応契約は結んでおきましょうか! ね、リュート様!」
こ、こいつ、脅してきやがったぞ。
流石は貴族、駆け引きが上手い。
「はい……」
と、メリルにしか旨味がない契約が結ばれた所で、締結するまで待っていたのかとばかりに、待ち人がやって来た。
「わりいわりい、出迎えに来んのが遅くなっちまった。 ちっとあっちでいざこざが起きちまってな」
「いざこざ……ですか? どうされたんです?」
なんとなく予想はつく。
多分────
「ああ、実は兄貴とアインが喧嘩しちまっててな。 収拾がつきそうにねえんだ。 んでだ、わりいんだがてめえら手貸してくれねえか? 俺だけじゃあどうにも収拾がな」
やっぱりか。
アルヴィン様によると、二人はリヒター殿下の私室で大喧嘩しているらしい。
理由はアインの縁談。
悪評高いルティア=レーヴェンとの縁談を、アインが嫌がっているとかなんとか。
俺はそのルティアってお嬢様の事を全く知らないが、アインやメリルの反応からして、まっとうな女ではないのだろう。
殿下直々に説得の手伝いを頼まれたから善処はするが、正直あまり乗り気じゃない。
アインの気持ちを思うと流石にな……。
そんな俺の感情など知るよしもないアルヴィン様は、俺達をリヒター殿下の私室に案内。
頼むぜ二人とも、と一介の辺境貴族の子息と、正義心が強すぎて他の貴族から煙たがれているオークレイ家のご息女に無茶な事を呟きながら、扉を開けた。
「いい加減にするんだ、アイン。 お前の人生はお前の物じゃない、王家の、ひいては国民のものだ。 そろそろ自分も王族の一員だと自覚し、受け入れなさい。 この縁談は国王からの勅命でもある。 この意味がわからないお前でもないだろう?」
「ざけんな! クソ親父がなんて言おうと俺の人生は俺のもんだ! 誰がくれてやるかよ!」
なんか、予想以上にガッツリ喧嘩してる……。
王族も兄弟ゲンカになると、俺らとそんなに変わらないのかも。
内容は天と地の差だけど。
「いくらなんでも失礼だぞ、アイン! 父上に対してなんという口を……! 恥を知れ!」
「はっ! 息子の顔も見に来ない、こっちの話を聞こうとしないような奴に通してやる義理なんざないね!」
「お前……!」
これ、なんとかなる?
俺、この喧嘩どうにかする自信ない。
メリルもこればかりは口出し出来ないと思ったのか、愛想笑いを浮かべている。
「……こほん! あー、兄貴。 ご用命の客人を連れてきたぜ?」
アルヴィン様の咳払いでようやくこっちに気付いてれたリヒター殿下は、咄嗟に取り繕い、穏やかな雰囲気で話しかけてきた。
「申し訳ない、二人とも。 こんなつまらない所をお見せしてしまって。 なんとも恥ずかしい限りだよ」
「い、いえ……お構い無く」
そしてこのまま回れ右して、屋敷に帰らせてくれないだろうか。
お願いします。
「恥を晒したついでに、一つお願いを聞いてもらえないかな?」
嫌です。
と、断りたいが、相手はかのリヒター殿下。
お断りすることなんか俺には出来そうにない。
「な、なんでしょう」
「はは、そう畏まらないでくれ。 変な事を頼むつもりなんかないからね。 ただ、愚弟の説得を頼みたいだけなんだ。 どうかな?」
なんで俺がそんな事を……。
「えっと……お言葉なんですが……」
「ん?」
「実はアイン殿下とはその……今日知り合ったばかりでして、あまりお力になれないかと……」
「そうなのかい?」
リヒター殿下は事実なのか確認するよう、メリルに目配せをする。
「残念ながら」
「ふむ、参ったな。 これは少々誤算だね。 どうしたものか」
そう言ってる割に全然余裕そうなんだよな、この人。
本当は全て計算済みなのではないだろうか。
「まあでも物は試しだ。 一度説得を試みては貰えないかい? 目の上のたんこぶの僕よりも、年齢の近い君達の言葉なら聞き入れるかもれないからね」
「……どうする、メリル?」
「はぁ……本当に面倒な方ですね、アイン様は。 こうなったらやるだけやってみましょう。 結果はどうなるにしろ、義理は果たせますので」
どんだけ嫌いなのよ、アインの事。
「メリルくんは相変わらず手厳しいね。 流石は代々王家専属のご意見番を任されている家のご息女だ。 若いからといって油断は出来ないな。 じゃあ二人とも、よろしく頼む」
兄弟ゲンカに何故か巻き込まれてしまった俺とメリル。
この壮大な争いにどう幕を下ろせば良いのか全く見当のつかない二人と、絶対に縁談をしたくない男との戦いの火蓋が今、切って落とされた。
リヒター殿下が寄越したメイドは言いつけ通り俺達を談話室に案内すると、深々と会釈して、その場を後にした。
だだっ広い談話室には、ポツンと残された俺とメリルのみ。
他に人は居ない。
きっと俺達が寛げるよう人払いをしてくれたのだろうが、自室の数倍はありそうな部屋の広さのせいか、逆にソワソワしてしまう。
かといって、どこもかしこも高級な品ばかりで下手に触れやしない。
寛げる筈なんかなかった。
きっとメリルも落ち着かないに違いな……。
「私はお紅茶淹れますねー。 リュート様は座って待っててください」
「あ、はい」
ソワソワしてたの俺だけだったわ。
よくここに来ているとしか思えないほど、メリルはテキパキとお茶を用意している。
「どうぞ、リュート様」
「ありがとう……」
なんだか昨日から格の違いを思い知らされている気がしてならない。
メリル様とお呼びした方が良いだろうか。
「ズズッ…………! うまっ! なにこのハーブティー! 今まで飲んでたのが飲料水に感じるくらい旨いんだけど!」
「病み付きになっちゃいますよねぇ。 お陰様でうちのハーブティーも全部この茶葉になっちゃいました」
「なんてブランド?」
「ブランドではなく、お店ですね。 ウエステリア公国の学園都市ウェンリットにあるお紅茶店、アフタヌーンというお店から取り寄せてるんです」
てことは、これ輸入品なのか。
意外だな、城にある物だからてっきり自国生産の物とばかり。
確かウエステリア公国って、ノルスガルド共和国の同盟国だったっけ。
だとしたら、輸入品を置いてるのもおかしくないのかも。
「へえ、外国の紅茶なんだ。 どおりで……それで、お値段の方はおいくらで? きっとお高いんでしょう?」
「ふふ。 これだけ美味しいんですから、もちろんお高いと思いますよね? 思いますよね? でも実はそんな事ないんです。 このお紅茶なんと……! 一袋、一万コルで買えちゃうんです! とってもお安くないですか!?」
どこが安いねん。
一般家庭の月収レベルなんですけど。
日本円に換算すると、十万円ってところか。
くそ高えな。
紅茶一袋の値段じゃねえ。
「一万コルか……どうすっかなぁ。 ギルドに預けてある金下ろしてくれば買えるけど、輸入だと取引がめんどくさそうだし」
「でしたら私が仲介役を担いましょうか? そしたらリュート様は私に注文とお支払だけしてくだされば、面倒な手続き無しで買えますけど」
ほぉ、悪くないな。
「マジで? じゃあお願いしようかな。 明日早速ギルドに下ろしてくるか。 定期購入したいから手始めにまずは十万コルほど……」
と言って、そこで気が付いた。
自分の迂闊な発言と、メリルのにんまり顔に。
「随分とギルドに溜め込まれていらっしゃるんですね、リュート様。 流石は王都の危機を救った英雄、Sランク冒険者のカズトさん。 という訳ですか、ふふふ」
「うっ」
完璧にバレた……。
というか、バレていたっぽい……?
「き、気づいてたのか? 俺がカズトだって」
「そりゃあ気付きますよー。 だってどれだけ戦力を整えても、一体として討伐出来なかったあの四大魔物を一人で蹴散らしてしまう人なんて、リュート様以外考えられませんもの」
そこまでの奴らだったのか、四大魔物って。
強いとは受付のお姉さんから聞いていたけど、思いの外雑魚かったから大袈裟に言ってるだけだとばかり。
「それにその後、セニアさんがヴァレンシールのギルドに移籍したでしょう? そこでピンと来たんです。 もしやカズトさんとリュート様は同一人物なのでは、と」
な、なんて名推理なんだ。
名探偵メリル、ここに爆誕。
「どうですか? 私の推理、間違ってますか?」
「……合ってます…………」
……ん?
ちょっと待てよ?
メリルにバレてるってことは、もしや父さんや母さんにもバレてるんじゃ……。
いやでも、もし知ってたら絶対既に言ってきてるし、それは無いか。
なら、ここでメリルの口を塞いでしまえば……。
「やっぱり! そうだと思ったんです! 噂に聞くカズトさんの強さと良い、年齢と良い、リュート様と合致してましたからね。 そうとしか考えられませんでした! 実はずっと答え合わせしたかったんですけど、あんまり人に言いたくなさそうだったので聞けずじまいだったんですよねぇ。 あっ、じゃあもしかして王都を賑わしたあの怪盗との度重なる攻防もやはりリュート様が……!」
「……メリル、一つ取引しないか?」
「はい……?」
唐突な提案にキョトンとするメリル。
そんな彼女に俺は続けて。
「メリルは僕の……いや、俺の秘密を知りたいんだよな?」
「そう……ですね。 リュート様の事は全部知っておきたいと思ってはいますが……」
「なら、メリルの知りたい俺の秘密は包み隠さず話してやるよ」
「……!」
それを聞いた途端、メリルの瞳がキラキラ輝いた。
メリルにとって俺との秘密の共有は喉から手が出るほど欲しい情報の筈。
断ることはまずしないだろう。
「でもその代わり、幾つか頼みを聞いて欲しい。 良いか?」
「はい、なんなりと! 何でもお申し付けください! むふー!」
ほい、釣れた。
爆釣である。
あんまりにも簡単に釣れるもんだから、ついついにやけそうになってしまう。
「じゃあ三つほど、お願い出来るかな? まず一つ目は、俺が冒険者である事を他言しない事。 次に、カズトとして活動している時は、俺とメリルはただの依頼人と冒険者という立場でお願い。 そんで最後はこれ。 もし俺の立場上どうしようもない問題が起きた時、力を貸してほしいんだ。 どう? 出来そう?」
「えっと……そんな事でよろしいのですか? それでしたらわざわざ言われずとも協力するつもりだったんですけど……」
あれ、そうなの?
じゃあこの取引、ただ単に俺が損してるだけじゃね?
「そっか、ならこの話はなかったことに……」
「あっ、でも! 約束しておかないともしかしたら口を滑らしてしまうかもしれませんから、一応契約は結んでおきましょうか! ね、リュート様!」
こ、こいつ、脅してきやがったぞ。
流石は貴族、駆け引きが上手い。
「はい……」
と、メリルにしか旨味がない契約が結ばれた所で、締結するまで待っていたのかとばかりに、待ち人がやって来た。
「わりいわりい、出迎えに来んのが遅くなっちまった。 ちっとあっちでいざこざが起きちまってな」
「いざこざ……ですか? どうされたんです?」
なんとなく予想はつく。
多分────
「ああ、実は兄貴とアインが喧嘩しちまっててな。 収拾がつきそうにねえんだ。 んでだ、わりいんだがてめえら手貸してくれねえか? 俺だけじゃあどうにも収拾がな」
やっぱりか。
アルヴィン様によると、二人はリヒター殿下の私室で大喧嘩しているらしい。
理由はアインの縁談。
悪評高いルティア=レーヴェンとの縁談を、アインが嫌がっているとかなんとか。
俺はそのルティアってお嬢様の事を全く知らないが、アインやメリルの反応からして、まっとうな女ではないのだろう。
殿下直々に説得の手伝いを頼まれたから善処はするが、正直あまり乗り気じゃない。
アインの気持ちを思うと流石にな……。
そんな俺の感情など知るよしもないアルヴィン様は、俺達をリヒター殿下の私室に案内。
頼むぜ二人とも、と一介の辺境貴族の子息と、正義心が強すぎて他の貴族から煙たがれているオークレイ家のご息女に無茶な事を呟きながら、扉を開けた。
「いい加減にするんだ、アイン。 お前の人生はお前の物じゃない、王家の、ひいては国民のものだ。 そろそろ自分も王族の一員だと自覚し、受け入れなさい。 この縁談は国王からの勅命でもある。 この意味がわからないお前でもないだろう?」
「ざけんな! クソ親父がなんて言おうと俺の人生は俺のもんだ! 誰がくれてやるかよ!」
なんか、予想以上にガッツリ喧嘩してる……。
王族も兄弟ゲンカになると、俺らとそんなに変わらないのかも。
内容は天と地の差だけど。
「いくらなんでも失礼だぞ、アイン! 父上に対してなんという口を……! 恥を知れ!」
「はっ! 息子の顔も見に来ない、こっちの話を聞こうとしないような奴に通してやる義理なんざないね!」
「お前……!」
これ、なんとかなる?
俺、この喧嘩どうにかする自信ない。
メリルもこればかりは口出し出来ないと思ったのか、愛想笑いを浮かべている。
「……こほん! あー、兄貴。 ご用命の客人を連れてきたぜ?」
アルヴィン様の咳払いでようやくこっちに気付いてれたリヒター殿下は、咄嗟に取り繕い、穏やかな雰囲気で話しかけてきた。
「申し訳ない、二人とも。 こんなつまらない所をお見せしてしまって。 なんとも恥ずかしい限りだよ」
「い、いえ……お構い無く」
そしてこのまま回れ右して、屋敷に帰らせてくれないだろうか。
お願いします。
「恥を晒したついでに、一つお願いを聞いてもらえないかな?」
嫌です。
と、断りたいが、相手はかのリヒター殿下。
お断りすることなんか俺には出来そうにない。
「な、なんでしょう」
「はは、そう畏まらないでくれ。 変な事を頼むつもりなんかないからね。 ただ、愚弟の説得を頼みたいだけなんだ。 どうかな?」
なんで俺がそんな事を……。
「えっと……お言葉なんですが……」
「ん?」
「実はアイン殿下とはその……今日知り合ったばかりでして、あまりお力になれないかと……」
「そうなのかい?」
リヒター殿下は事実なのか確認するよう、メリルに目配せをする。
「残念ながら」
「ふむ、参ったな。 これは少々誤算だね。 どうしたものか」
そう言ってる割に全然余裕そうなんだよな、この人。
本当は全て計算済みなのではないだろうか。
「まあでも物は試しだ。 一度説得を試みては貰えないかい? 目の上のたんこぶの僕よりも、年齢の近い君達の言葉なら聞き入れるかもれないからね」
「……どうする、メリル?」
「はぁ……本当に面倒な方ですね、アイン様は。 こうなったらやるだけやってみましょう。 結果はどうなるにしろ、義理は果たせますので」
どんだけ嫌いなのよ、アインの事。
「メリルくんは相変わらず手厳しいね。 流石は代々王家専属のご意見番を任されている家のご息女だ。 若いからといって油断は出来ないな。 じゃあ二人とも、よろしく頼む」
兄弟ゲンカに何故か巻き込まれてしまった俺とメリル。
この壮大な争いにどう幕を下ろせば良いのか全く見当のつかない二人と、絶対に縁談をしたくない男との戦いの火蓋が今、切って落とされた。
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