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強すぎるが故の弊害

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「フレイムランス!」

「ぐおおおおお!」

 爆炎を槍の形に象った魔法、フレイムランスをミノタウロスへ発射すると、ミノタウロスは装備していた大斧を残し、一瞬にして灰塵へと帰した。
 俺はその斧も片手間に焼却。
 ここにミノタウロスが居た証拠の一切を消し、洞窟の外に出る。

『お疲れ様です、主殿。 此度も素晴らしい働きでした』

「リルも見張りお疲れ様。 誰も来なかった?」

『はい、虫一匹とて近寄ってはおりません。 流石は主殿特製の結界ですな。 これだけ人里が近いにも関わらず、誰一人異変に気付いておりませんぞ』

 一応魔力探知で周囲を探査してみたが、人間らしき存在は探知出来なかった。
 今回もなんとか秘密裏に事を進められたようでなによりだ。

「よし、なら次に行くぞ。 ついてこい」

『御意』

 先程行った魔力探知に引っ掛かった魔力の塊へと、俺はリルを引き連れ歩んでいく。
 無駄口を一切挟まない俺にリルは黙々とついてきていたが、ふと、こんな質問を投げ掛けてきた。

『ところで、主殿。 主殿はいつまでこのような事を繰り返すおつもりで? 心中はお察ししますが、これではいつか過労で……』

「いい加減くどいぞ、リル。 同じ事を何度も何度も。 それともなにか? お前は俺のやることに何か文句でもあるのか?」

『いえ、滅相もございません! 出過ぎた真似をしました、お許しください』

 リルが俺の心配をしているのはわかっている。
 だが、対抗策が整うまでは手を抜くつもりはない。
 こうなったのは、全部俺のせいなんだから。

『……ですが、わたくしは心配なのです。 あのグリフォンが襲来した件から、およそ六年。 ご自身のを知ってからというもの、殆んど毎日魔物の駆除をしているではありませんか。 このままではお体を壊してしまいます。 ご友人やご家族を守りたいお気持ちも理解出来ますが、どうかご自身のお身体もご自愛下されば、と思う次第でして』

「リル…………すまん、さっきは言い過ぎた。 俺を心配して言ってくれたのに冷たくあしらって悪かった」

『主殿! では!』

「……けど。 けど、今は手を止める訳にはいかない。 ここで休んだら、今までの苦労が水の泡になる。 それだけは容認出来ない。 だからせめて、村のギルドに上級冒険者が移籍してくるまではやらせてくれ。 頼む」

 苦悶が籠った声を聞き届けたリルは一瞬戸惑ったが、最後には肯首してくれた。
 
『承知しました。 そこまで仰るのならわたしはもう何も言いません。 存分にお力を振るいください』

「ありがとう、リル。 じゃあまずは雑魚を蹴散らそう。 行くぞ」

『ハッ!』

 何故こんな事になってしまったのか。
 何故秘密裏に魔物を狩っているのか。
 それは今から六年前。
 グリフォンを倒した一週間後まで遡る。
 
 あの頃の俺は呑気なものだった。
 魔力が高すぎるが故に魔物を引き寄せてしまう、いわば魔物誘引フェロモンを常時撒き散らしてしまう体質だったなどとは夢にも思わなかった俺は、呑気に毎日毎日、アリン達と遊び呆けていた。

「父さーん、どこー? どこに居るの、父さ……」

 その日も俺は遊びに行こうと、お付きメイドのシンシアを連れて、父の居る書斎へ向かった。
 しかしそこで、俺は聞いてしまったのだ。

「アンドリュー様、報告いたします!」

「続けてくれ」

「はっ! 斥候によると、前日より大型の魔物がさらに二体増加したとのことです! 他にも小型がおよそ百、中型十体は確実との報告がありました!」

「そうか……わかった、引き続き頼む」

「ハッ! 失礼致します!」

 父さんが、騎士達が、冒険者達が、自分が引き寄せてしまった魔物に、痛手を負わされたという話を。
 最初はもちろん、自分のせいだなんて思いもしなかった。
 だが、それから数日後。
 俺はふとグリフォンの生態が気になり、図書室で魔物図鑑を引いてみた。
 すると図鑑には驚きの生態が記されていたのである。
 
「グリフォンは…………岩山に住む、魔物……?」

 そう、生息地は岩山であって、山間ではなかったのだ。
 ならどうしてグリフォンは山に居たんだろう。
 当然ながら、俺はその疑問に行き着いた。
 そして、隣で丸まって寝ているリルを見ながらこうも思った。

「そういえばリルって元魔王の配下、なんだよな。 そんな大物がどうしてこんな田舎に……? そもそもなんで俺の前に……」

 そこに思い至った瞬間、嫌な予感がした。
 何故ならリルとグリフォンどちらも、最初から俺をターゲットにしていた気がしたからだ。
 残念ながらその嫌な予感は、最悪な形で的中してしまう事となる。

『ええ、わたくしも例に漏れず魔物は魔力の多い人間に吸い寄せられる性質がありますからな。 主殿の魔力は大層魅力的でした、今もそれは変わりませんが。 周辺に魔物が集まっているのは、それが理由ではないかと。 もしやご存じなかったので?』

 衝撃だった。
 冷や汗が吹き出た、心がざわついた。
 自分のせいで、誰かが傷ついたのではないか、死んだのではないかと思ったら、居ても立っても居られなくなった。
 何かしなくては、なんとかしなくては。
 父さんを、母さんを、友達を、アリンを守らないと、と。

 ────それからと言うもの、俺の毎日は一変。
 アリン達のみならず、両親にも秘密で魔物を狩り、バレないよう良い子を演じ、王都のギルドに支援を要請するなどの対策をそれとなく父さんに進言したりもした。
 だが、世の中そう上手くはいかない。
 父さんはギルドや騎士団に支援を要請したが、向こうは向こうで他に人を避けるほど人手が足りているわけでなく、支援は難しいという事だった。
 それは今も変わらない。
 なんでも、ここ数年の間に魔物が凶暴化しているのが理由なんだとか。
 であれば、と俺はある策を思い付いた。
 その策とは────




「シンシア、ちょっと出掛けてくるから父さん達に聞かれたらいつものように誤魔化しておいてくれ。 頼んだぞ」

 紫色の長髪をみつ編みで纏めているお付きのメイドのシンシアに軽く告げると、シンシアは冷や汗を流して懇願してきた。

「ええっ、またですかぁ!? もういっぱいいっぱいですよぉ、リュート様ぁ! 流石にそろそろバレますってぇ!」

「大丈夫大丈夫、シンシアならやれるって。 自信もてよ」

「全然慰めになってないんですけど、それぇ! 年々わたしの扱い雑になってる気がしますぅ! ……ところで今度はどこに行かれるんですかぁ? まさかとは思いますけど、湖の水竜退治とか言わないですよね?」

 湖の水竜?  
 ああ、あいつなら確か……。

「そいつならもう倒したぞ、とっくに。 あんまり強くなかったな。 雷落としたら死んだ」

「なっ、ななななな! 何をなされてるんですかぁ、リュート様ぁ! あの水竜は守り神だから倒しちゃダメだって言いましたよね、わたしい!」

 あー、なんか言ってたような言ってなかったような。

「そうだったっけ? すまんすまん、ついノリで。 まあそれは良いとして」

「良くないですぅ……全然良くないですぅ……」

「今から王都でちょっくらギルドに登録してくるから、後頼むわ。 夕方には帰ってくるから、それまでよろ。 んじゃ」

「……はい? 今なんと? 今なんと仰りました!? 王都!? 王都と聞こえましたけど、幾らなんでもそれは冗談……ああ! まだ了承してないのにもうあんな遠くに! もー! リュート様のばかぁ!」

 という訳で、俺は浮遊魔法で空を飛行機以上の速度で滑空し、あっという間に王都ハンブルグへと着いたのであった。

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