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魔法の仕組み

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「リル、あそこの棚の上から三番目の右から二番目の本取って」

『かしこまりました、主殿』

 リルに持ってこさせた「魔法の仕組み」を受け取ると、代わりに今しがた読み終わった歴史書を渡し、元の場所に戻すよう命じた。
 この本を読もうと思ったのには理由がある。
 それは、俺が扱う魔法と母さんの扱う魔法では、何もかもが違うからだ。
 母さんの魔法を見るに、どうやらこの世界の魔法は決められた呪文や形式があるようで、俺が三年前リルと戦った時みたいなイメージだけでどうにかなるもんじゃないらしい。
 例えるなら数学みたいなもんなのだろう。
 数式が魔法の構築に必要な呪文。
 数字が魔力なのだと、あらかた予想している。
 そして、その推測は殆んど正解だったみたいだ。

「ふむふむ、なるほど。 つまり魔法を発動するには、魔法ごとに決められた詠唱を唱えながら魔力を注入して、最後に魔法名を言葉にしなきゃならないのか。 うーん、なんというか……」

 随分と無駄が多い。
 プロセスがごちゃごちゃし過ぎてる。

「俺みたいにイメージするだけで使えたら良いのにな。 そしたら詠唱なんて唱える必要もないのに」

 呟きながら、俺は光のオーブを魔法で作り出し、それを左手でコロコロ転がす。
 そこへ、リルが。

『主殿、そろそろお時間ですぞ』

「ん? なんかあったっけ? 今日は家庭教師来ない筈だけど」

『アンドリューめから昼前には書斎に顔を出すよう言われていたと記憶しておりましたが……』

 ああ、そういえばそんな事言ってたような。

「ありがと、すっかり忘れてたよ。 んじゃ行こっか、リル」

『はい! 主殿!』
 
「あっ、また乗っても良い? 子供の足だと書斎はちょっと遠いんだよね」

『勿論でございます! わたくしは主殿の忠実なる僕! いつでもお乗りください! はっはっ!』

 あの時、リルを殺さなくて正解だった。
 お陰でこのクソデカイ屋敷をひたすら歩かなくても良くなったからな。
 本当に助かる。
 ペット最高!




 コンコン。
 父さんがいつも仕事に使っている書斎の扉をノックした俺は、続けて子供特有のキーが高い声で、父さんに話しかけた。

「父さん、居る?」

「待ってたよ、リュート。 入りなさい」

「はーい。 んしょ」

 くっ、ドアノブの位置が高い!
 これだから子供の身体は。

『主殿、ここはわたくしめが……』

『子供扱いするな! こんな扉、俺一人で!』

『ですが主殿の身体はまだ子供……』

『ああん?』

 殺さんばかりの眼力を飛ばすと、リルはスゴスゴと下がっていった。
 そんなリルを横目に、俺はようやく……。

「はは、ごめんごめん。 リュートにはまだ高かったよね。 ほら、開けてあげたから入っておいで」

 もう少しで開きそうだったのに。
 父さんめ、許さん。
 今度紅茶に香辛料仕込んでやる。

「父さーん。 ドアノブにヒモとかつけといてよー。 どこのドアもドアノブ高いから開けにくい」

「それは別に構わないけど、リュートなら浮遊魔法を使えば届くんじゃないかい?」

「…………ハッ!」

 そうだ、そうだよ。
 浮遊魔法使えば良いんじゃん。
 アホか、俺は。

「……こほん。 じゃあ次からそうしようかな。 わざわざヒモを用意して貰うのもなんだしね、うん」

「ふふ、リュートもそうやって普通の子供みたいに照れたりするんだね。 妙に大人びているからお父さん少し心配してたけど、これなら問題ないかな」

「心配? なんの?」

「同じ年頃の友達が出来るかどうかを、だよ」

 友達、か。
 確かに同い年の友達は欲しいかも。
 折角人生をやり直してるんだ。
 この際、童心に帰って遊ぶのも悪くない。
 
「友達かぁ。 僕にも友達出来るかな、お父さん。 ずっと一人だったから心配だよぉ」

「そんなに心配する必要ないさ。 リュートは社交性もあるし、一人で何かを成し遂げられるだけの力と知恵もある。 勇気さえあればリュートなら友達の一人や二人、すぐ出来ると思う。 だから安心すると良い」

「はーい!」

 子供の振りすんの、マジでしんどい。
 だがこれも全ては友達を作り、人生を謳歌する為に必要な犠牲。
 その為なら俺は涙を堪え、ぶりっ子しようじゃないか。

「じゃあ昼食の後に村に顔を出してみようか。 友達になれそうな子を探しに、ね」

「うん! 楽しみー!」

 いざ行かん、我がヴェルエスタ家が治める領地へと!
 
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