上 下
4 / 64

魔法の仕組み

しおりを挟む
「リル、あそこの棚の上から三番目の右から二番目の本取って」

『かしこまりました、主殿』

 リルに持ってこさせた「魔法の仕組み」を受け取ると、代わりに今しがた読み終わった歴史書を渡し、元の場所に戻すよう命じた。
 この本を読もうと思ったのには理由がある。
 それは、俺が扱う魔法と母さんの扱う魔法では、何もかもが違うからだ。
 母さんの魔法を見るに、どうやらこの世界の魔法は決められた呪文や形式があるようで、俺が三年前リルと戦った時みたいなイメージだけでどうにかなるもんじゃないらしい。
 例えるなら数学みたいなもんなのだろう。
 数式が魔法の構築に必要な呪文。
 数字が魔力なのだと、あらかた予想している。
 そして、その推測は殆んど正解だったみたいだ。

「ふむふむ、なるほど。 つまり魔法を発動するには、魔法ごとに決められた詠唱を唱えながら魔力を注入して、最後に魔法名を言葉にしなきゃならないのか。 うーん、なんというか……」

 随分と無駄が多い。
 プロセスがごちゃごちゃし過ぎてる。

「俺みたいにイメージするだけで使えたら良いのにな。 そしたら詠唱なんて唱える必要もないのに」

 呟きながら、俺は光のオーブを魔法で作り出し、それを左手でコロコロ転がす。
 そこへ、リルが。

『主殿、そろそろお時間ですぞ』

「ん? なんかあったっけ? 今日は家庭教師来ない筈だけど」

『アンドリューめから昼前には書斎に顔を出すよう言われていたと記憶しておりましたが……』

 ああ、そういえばそんな事言ってたような。

「ありがと、すっかり忘れてたよ。 んじゃ行こっか、リル」

『はい! 主殿!』
 
「あっ、また乗っても良い? 子供の足だと書斎はちょっと遠いんだよね」

『勿論でございます! わたくしは主殿の忠実なる僕! いつでもお乗りください! はっはっ!』

 あの時、リルを殺さなくて正解だった。
 お陰でこのクソデカイ屋敷をひたすら歩かなくても良くなったからな。
 本当に助かる。
 ペット最高!




 コンコン。
 父さんがいつも仕事に使っている書斎の扉をノックした俺は、続けて子供特有のキーが高い声で、父さんに話しかけた。

「父さん、居る?」

「待ってたよ、リュート。 入りなさい」

「はーい。 んしょ」

 くっ、ドアノブの位置が高い!
 これだから子供の身体は。

『主殿、ここはわたくしめが……』

『子供扱いするな! こんな扉、俺一人で!』

『ですが主殿の身体はまだ子供……』

『ああん?』

 殺さんばかりの眼力を飛ばすと、リルはスゴスゴと下がっていった。
 そんなリルを横目に、俺はようやく……。

「はは、ごめんごめん。 リュートにはまだ高かったよね。 ほら、開けてあげたから入っておいで」

 もう少しで開きそうだったのに。
 父さんめ、許さん。
 今度紅茶に香辛料仕込んでやる。

「父さーん。 ドアノブにヒモとかつけといてよー。 どこのドアもドアノブ高いから開けにくい」

「それは別に構わないけど、リュートなら浮遊魔法を使えば届くんじゃないかい?」

「…………ハッ!」

 そうだ、そうだよ。
 浮遊魔法使えば良いんじゃん。
 アホか、俺は。

「……こほん。 じゃあ次からそうしようかな。 わざわざヒモを用意して貰うのもなんだしね、うん」

「ふふ、リュートもそうやって普通の子供みたいに照れたりするんだね。 妙に大人びているからお父さん少し心配してたけど、これなら問題ないかな」

「心配? なんの?」

「同じ年頃の友達が出来るかどうかを、だよ」

 友達、か。
 確かに同い年の友達は欲しいかも。
 折角人生をやり直してるんだ。
 この際、童心に帰って遊ぶのも悪くない。
 
「友達かぁ。 僕にも友達出来るかな、お父さん。 ずっと一人だったから心配だよぉ」

「そんなに心配する必要ないさ。 リュートは社交性もあるし、一人で何かを成し遂げられるだけの力と知恵もある。 勇気さえあればリュートなら友達の一人や二人、すぐ出来ると思う。 だから安心すると良い」

「はーい!」

 子供の振りすんの、マジでしんどい。
 だがこれも全ては友達を作り、人生を謳歌する為に必要な犠牲。
 その為なら俺は涙を堪え、ぶりっ子しようじゃないか。

「じゃあ昼食の後に村に顔を出してみようか。 友達になれそうな子を探しに、ね」

「うん! 楽しみー!」

 いざ行かん、我がヴェルエスタ家が治める領地へと!
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...