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王とは。国とは

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「へーか」

 朝の会議をすませ、城にある教会にやってきたアルオに、子どもたちが我先にと集まってきた。

「へーか。だっこしてぇ」「ぼくもぉ」と、あまりにも馴れ馴れし過ぎる子どもたちに神官たちは肝を冷やすが、アルオは「ここはいい」と神官たちを下がらせ、一番前にいる女の子を抱き上げ、教会の長椅子へと腰かけた。

 ここにいるのは、四人。ロブに捕らわれていた五人の子どものうち、一人は今も、心を病んだままだ。笑顔をなくし、声をなくし、部屋から出て来ない。毎日訊ねてはいるが、癒してあげられる日など来るのだろうか。

 ──けれど、せめてこの子どもたちだけでも。

「何か困ったことはないか?」

「ないよ。まいにちおなかいっぱいごはんがたべられるなんて、すごいね……でもね」

 アルオの膝の上にいる女の子が、うつむく。他の子どもたちも、同様にうつむいた。

「どうした?」

「……へーか。わたしたち、よるがこわいの」「まっくらななかでめをとじるとね。こわいこと、いたいことおもいだすの」「だからね。へーか。いっしょにねて」「へーかといっしょならこわくないもん」と、子どもたちが次々に口を開いていく。

「ああ、わかった。約束しよう」

 アルオが目を細める。子どもたちは、やったーと手をあげた。それからしばらく子どもたちと雑談したアルオは、席を立った。

「また、夜に来る。ちゃんと神官たちの言うことを聞くようにな」

 はい。
 子どもたちの返答にうなずき、アルオは教会の扉を開けた。そのすぐそばに、頭にアリをのせ、膝を抱えてうずくまるリオンがいた。

「また着いてきたのか」

 リオンはゆっくりと顔をあげると、両手をアルオに向かって広げた。アルオがやれやれと抱き上げる。

「……とうさまは、ぼくのとうさまだもん」

 アルオの首に腕をまわしたリオンが、不貞腐れたように呟いた。アルオは目を丸くし、次いで、随分と子どもらしくなったものだと、声を出して笑った。


 余談ではあるが。

 陰の者に、どうしてあのとき、子どもたちのことを教えたのだと聞いてみた。陰の者は、

『陛下は、私たちを臣下と呼び、私たちの仲間の死に、怒ってくれました。そんな王は、はじめてでしたので』

 と言い、それについて、それ以降は何も語ろうとはしなかった。

 それを聞いたモンタギューは「陰の者も、アルオ様に王でいてほしかったうちの一人だったのですね」と口元を緩めた。




 ──それより二十年後。

 王位を継いだシリルは、王佐となったリオン、フィル。そして史上初となる女性宮廷魔法士となったレイラと共に、父であるアルオが築きあげた平和を守りきることを誓い、臣下はむろん、民の話しにも耳を傾けた。

 圧倒的な力とカリスマ性で民を惹き付けたアルオとは違うかたちで、シリルは民の支持と信頼を得ていった。

 その意志は、シリルたちの子どもたちにも、しっかりと受け継がれていったという。

 

               ─完─
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感想 106

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みんなの感想(106件)

ゆゆち
2021.09.15 ゆゆち
ネタバレ含む
西友
2021.09.15 西友

感想ありがとうございます。
これから気をつけますね!

解除
yrpyon
2021.08.11 yrpyon
ネタバレ含む
西友
2021.08.11 西友

いくつもの感想、本当に嬉しかったです。
続きを書いて良かったと思えました。

最後まで、ありがとうございました!

解除
さっこ
2021.08.10 さっこ
ネタバレ含む
西友
2021.08.10 西友

はい、すみません…。
これにて完結です。。
王とは。国とは の第8話にて、旅の間に声を取り戻したことに触れています──が、めちゃくちゃあっさりだったので、分かりにくかったですね。申し訳ありません…。。

最後までお付き合い、ありがとうございました!

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