うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

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第二章

6

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「久しぶり」

 居酒屋に入ると「多比良?!」「うわ、全然変わってねー」との賑やかな声があちこちから上がってきた。

「多比良くん。ホント久しぶり。ちっとも同窓会に来てくれないんだもん」

 いつも幹事をしてくれている元クラス委員長の女性が、頬を膨らませる。

「ごめん。だって、奈良からだと遠くて」

「ウソ。東京の大学に通ってたこと、知ってるんだからね。その間に二回もしたのに」

「ご、ごめんなさい」

 貸し切りとなっている居酒屋には、大きな座敷があって、長いテーブルが二つ並んでいる。彰太は高校のときにいつもつるんでいた友達の横に腰をおろした。

「お前、まだ十代で通るんじゃねーの?」

「さっき店員さんに年齢確認された」

 まじか。
 笑いが巻き起こる。その後ろのテーブルには、女に囲まれた葉山がいた。

「白沢くん、結婚したの?!」

「そ。ちなみに、もうじき一歳になる娘もいるぞ」

「うそ!」「やだー!」と、女子たちの嘆きが居酒屋にこだまする。彰太は思わず、薄く笑った。

(……そっか。もう、子どもまでいるんだ)

 一翔が結婚してから、二年。彰太は地元の居酒屋で、高校の同窓会に出席していた。

 毎年、年末年始には必ず実家に帰省していた。同窓会をやる居酒屋は実家からそう遠くないうえ、帰省するタイミングの年末に行うというので、久しぶりに出席することにした。

 高校三年のクラスには、一翔もいた。一翔に会う可能性もあったから、これまではずっと欠席していた。でも、もういい加減いいだろうと思った。

(もう六年経つし……一翔なんか、おれのこと忘れてたりして)

 綺麗な奥さんと、可愛い娘。これでマイホームを建てて、白い犬でも飼っていれば完璧だな。

 彰太は苦笑した。

 六年前のあの日、一翔は、間違いなく正しい道を選んだのだと。

 そんなことを思った。 


 同窓会がはじまって一時間ぐらい経ったころだろうか。

「──ごめん! 遅くなった」

 少し息を荒くしながら居酒屋の扉を開けて中に入ってきたのは──一翔だった。

 女たちの黄色い歓声が上がる。彰太はみんなの目線に交じり、一翔を見た。

 面影はむろんある。だが、背が少し伸び、髪型も変わり、大人の顔立ちとなった一翔。確かに、数年の歳月を感じた。

 白沢くん、こっちに来て。
 複数の女の甘い声が、一翔を呼ぶ。

 それを何となく見送り、彰太は再び懐かしい同級生の話しの輪の中に入った。その後、二度ほど遠くにいる一翔を見たが、目線が合うことはなく、ほっとしたような、やっぱり少し寂しいような、そんな気分を抱えながら、同窓会は幕を閉じた。


 午前二時。

 二次会をする予定だったとのことだが、大半がべろべろに酔っていて、それどころではなかった。彰太を含め、まだ正気を保っている六人で手分けして、同級生たちをタクシーに押し込んだ。

 少し顔が赤い程度で、一番酔っていなさそうな一翔は、相変わらずというか、酔った女たちに言い寄られ、抱きつかれていたが、それでも笑顔でなだめ、時には力ずくで女たちをタクシーに押し込んでいた。

 酔った同級生をどうにか全員タクシーに乗せ終えたのは、同窓会が終わってから一時間経ってからのことだった。

「くそっ。酔っ払いども」「……疲れた。早く帰って寝たい」と、地面に座りそうな勢いの同級生の肩を、彰太は軽く叩いた。

「お疲れさま。おれ、もう行くよ」

「でも、実家に帰るんだろ? 多比良の家、ここからそんなに近くなかったよな?」

「酔い覚ましにちょっとその辺歩いてから、そこらでタクシーつかまえて帰るよ」

「そっちは住宅街で、店も人もいないから危なくないか?」

「女の子じゃないんだから、平気だって。少し歩くだけだから。じゃあ、また」

 手をふり、背を向ける。横目に一翔が見えたけど、彰太は見えないふりをした。やっぱりまだ好きなんだなあと、再確認だけはして。
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