うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

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第三章

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「親とは縁を切りました。もちろん完全とは言い切れませんが、彰太と家族のみなさんにご迷惑はおかけしないと誓います。ですからどうか俺たちの交際を認めて下さい。お願いします」

 全て包み隠さず語り終えた一翔がゆっくりと腰を折り、頭を下げる。彰太はぎゅっと拳を強く握った。

(またそんな、迷惑とか……何で一人で背負おうとするんだろう)

 声に出して問い質したい。でも今は何より、みんなの理解を、信頼を得たい。一翔を、家族の一員だと認めてもらいたい。だからぐっとこらえ、彰太も頭を下げた。

「──迷惑はかけたっていい」

 ぼそっと呟いたのは、父親だった。

「何かあったら、まず相談しなさい。君はどうやら、人に頼るのが苦手らしいからな」

 続けて母親は「そうね。あなたがしょうちゃんの大切な人である限り、あなたも私たちの家族なのだから」と優しく笑んでくれた。

「それじゃあ」

 彰太の頬に、ようやく赤みがさす。父は「交際は認める。一翔くんがどういった人物かは、これからじっくりと見極めさせてもらうからな!」と顔を拗ねたように背けた。母がクスクスと「息子の恋人に妬いてどうするの?」と微笑む。

 それまで黙って見守っていた瑠花は嬉しそうに「しょうちゃん。一翔くん。良かったわね」と、涙ぐみながら祝福してくれた。その双眸には、侮蔑の色などは一切宿っていなかった。

 ──受け入れてくれた。ゲイであることも、一翔との交際も。

 彰太の全身から徐々に力が抜けていく。一翔と顔を見合せ、笑い合う。二人の頬にようやく赤みがさすのを確認し、琉太がほっと息をついた。自分から提案したてまえ、うまく受け入れられなかったら。彰太を傷付ける結果になったらどう責任を取ろうか。緊張していたのは、琉太も同じだったから。

「……ママぁ」

 幼い声が小さく耳に届き、彰太はソファーに目を向けた。瑠花が声の主に慌てて近付いていく。

「あら、瑠里ちゃん。おっきしちゃった?」

 孫に目がない両親も、赤ちゃん言葉で声をかける。瑠里、ナイス。ちょうどよいタイミングで起きた姪に胸中で感謝する彰太。自宅とは違う景色に、瑠里が寝惚けた半開きの目できょろきょろとする。すると、ある一点で視線を止めた。

 瑠里が、じーっと一翔を見詰める。一翔が「こんにちは」とにこっと微笑む。瑠里はソファーからおり、おもむろに一翔に向かって駆け出した。そして「だっこ」と手を伸ばした。

 ぴしっ。
 青筋を立てたのは、もちろん彰太だ。

 だっこ。だっこ。
 連呼する瑠里に一翔は困惑しながら「いいですか?」と、瑠花に問いかけた。瑠花は「ぜひ!」と目を輝かせた。抱き上げると、瑠里は一翔の首に小さな腕をまわし、ぎゅっとした。瑠花がスマホでぱしゃぱしゃと写真を撮る。

「……おい。幼児相手に妬くなよ」

 すすすと寄ってきた琉太に囁かれ、彰太は「妬いてない」と明らかな嘘を吐いた。

「やだーもう。しょうちゃん可愛い!」

 やけにハイテンションな母親と瑠花。息子に続いて孫まで取られた父親は、悔しそうに顔を歪めている。

 あんなに怖かったのに。最悪の場合、家族との決別まで覚悟していたのに。そんなことは忘れて、一翔に抱っこされ、嬉しそうにうっとりとする姪に、彰太はひたすら嫉妬した。

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