うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

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第三章

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 一番先に動いたのは、母親だった。頭を下げたままの彰太に近付き「話してくれてありがとう、しょうちゃん。怖かったでしょう」と、頭を撫でた。彰太が上体を起こす。母は、いつものように慈愛に満ちた顔で笑っていた。

「何も謝ることなんてないわ。突然のことで驚いたのは確かだけれど……琉太の言う通り、私達はあなたの幸せが一番大切なの。ね、お父さん」

 母親が振り返り、問いかける。父親はぷるぷると震え、目を吊り上げていた。怒っている。そう感じた彰太は逃げ出したい気持ちと戦いながら震える口を開いた。

「あの、お父さん」

「──お前、誰かにいじめられていたんじゃないだろうな」

 遮るように告げられた言葉に、彰太は目を丸くした。どういう意味だろうと。

 彰太は「あの、そんなことより……おれはゲイで、同性愛者で」と続けようとしたのだが。

「いいから答えなさい。正直、めちゃくちゃ驚いてるし、混乱もしまくってる。でもな。父さんはそんなことより、お前のさっきの科白の方が引っ掛かったんだ。普通じゃなくてごめんなさいって何だ。誰かにそう言われたのか」

 詰め寄られ「い、言われてない。琉兄以外、誰にも言ってないから」と、彰太が一歩後退る。父親はほっと息をつき、琉太に視線を移した。

「お前はいつから知っていたんだ」

「彰太が中二のとき──彰太本人が、ゲイだって確信したころだと思う」

 そうか。父親は小さく呟いた。

「……お前がいてくれて、彰太はずいぶんと救われたんだろうな」

 少しだけ寂しそうに吐露してから、父親は彰太に向き直った。

「お前はこの男と一緒にいれて、本当に幸せなのか?」

「?! し、幸せだよ。本当に!」

 彰太が全身に力を込め、必死に答える。わかってもらいたい。認めてもらいたい。琉太と瑠花みたいに、祝福してもらいたい。そんな想いを込めた。

 はは。
 父親が穏やかに笑う。

「わかった。それは信じよう──だが」

 父親はこほんとわざとらしい咳払いをしてから、彰太の隣に立つ一翔に視線を向けた。

「あー……一翔くん、とお呼びしても?」

「はい。もちろんです」

「彰太の恋人ということは、君もゲイなのか?」

 はい。そう答えようとした一翔の声を遮ったのは、彰太だった。一翔が自分のせいでゲイだと認識されるのが、どうしてか嫌だった。

「ち、違うんだ。おれが先に好きになって、一翔は優しいから──むぐ」

「お前が入るとややこしいから、こっちに来てなさい」

 琉太に背後から口元を手で覆われ、彰太がずるずると引きづられていく。父親は横目でそれを見ながら「──違うのかね?」と再度確認した。

「いえ。違わないです。俺はこれまで、彰太しか好きになったことはないので」

 何故か母親と瑠花が「あら」と頬を染める。父親は「ふむ」と満更でもない様子だ。

「ところで。君のご両親は、二人のことは承知しているのか?」

 彰太が慌てて「──お父さん!」と二人の間に割って入った。一翔はそっと後ろから「大丈夫だよ、彰太。ありがとう」と、彰太の肩を掴んだ。それから順に、彰太の父親と母親、瑠花にそれぞれ視線を移していった。

「少し長くなりますが、聞いてもらえますか?」

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