うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

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第三章

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 半年間、ラインのやり取りのみだった二人は、ようやく奈良で再会をはたすことができた。彰太の部屋でこれまでの経緯を話していた一翔は、突然電池が切れたかのように止まり、座っていたソファーにずずっと沈んだかと思うと──一気に熟睡した。

「一翔?!」

 あまりに急だったので、彰太はおろおろした。けれど気持ちよさそうに寝息をたてはじめた一翔にほっとし、目を細めた。

「……頑張ったね、一翔」

 頭をそっと撫でてみる。まだ夢を見ているような気分だ。自分の部屋に、一翔がいるなんて──などど浸っている場合ではない。これまでずっと気をはっていたに違いない一翔のために、しなければならないことがある。

「──運べるかな」

 ソファーのすぐ隣にあるベッドに視線を向ける。一翔の肩と膝の下に腕を通し、横抱きにしてベッドまで運ぼうとしたのだが──一ミリも持ち上がらず、彰太は泣く泣く断念した。もっと鍛えておけば良かったと後悔しながら、快適な温度を保つためにクーラーをつけ、一翔に毛布をかけた。それからしばらくの間、彰太はずっと一翔の寝顔を見ていた。


 ふっ。
 目覚めた一翔は、ぎょっとした。目の前に、泣きそうな顔でこちらを凝視する彰太がいたからだ。

「……え、えと」

「やっと起きたあああ」

 ソファーの上で上体を起こした一翔の腰に彰太が抱き付く。何事だと一翔が慌てる。

 今何時だ。壁時計を見ると、六時をさしていた。最後に確認した覚えのある時刻は、午後八時。約十時間寝ていたことになる。確かに寝すぎだが、そこまで──。

 いや、違う。カーテンからもれる外の明るさは朝のものではない気がする。一翔はスマホを確認し、確信した。

 ほとんど一日、爆睡していたということを。

「……嘘」

 これまで熟睡、爆睡などしたことはない。夢はばんばん見ていたし、途中で起きることもしばしば。どんなに疲れていようとも、寝れて五時間。まして一日中寝るなど。

「気持ちよさそうに眠ってるから起こせないし。でも全然目を覚まさないから不安になって……」

 鼻をすする彰太の頭を「ご、ごめん。俺も驚いた」と一翔が何度も撫でる。彰太は少しして、がばっと顔を上げた。にっと口元を緩める。

「お腹空いたんじゃない? 何か買ってこようか?」

 ありがとう。
 お礼を言いつつ、一翔は改めて、八畳ある洋室を見回した。足の踏み場もない、というほどでもないが、決して片付いているとはいえない。なのに、ここから見える縦長のキッチンはそんなに汚れてはいないうえ、妙に片付いている。そしてテーブルの上には、コンビニ袋とお菓子の空き袋がちらほらと。
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