うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

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第一章

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 兄の不安を余所に、二人の交際は順調に続いていった。昼休みにこっそり会うのはもちろん、白沢の仕事がない放課後、時には休日に会うこともあった。彰太の幸せは絶頂期だった。

「た、多比良。ほら、お菓子だよ~」

「おれ、もうそういうの止めたんだ」

「何でだよ。ハグさせてくれよ」

 彰太が男友達に「駄目」ときっぱり返答する。白沢に直接止めてほしいと言われたわけではないが、彰太は少しでも白沢に嫌われることはしたくなかった。とはいえ、背後からハグされることは多々あったが、少なくとも、お菓子をもらって自分からされにいくことはなくなった。


 二人は高校二年となり、クラスが別れてしまった。少し寂しかったが、今まで通り、昼休みや放課後、休日には変わらず白沢は会ってくれた。

 だが、幸福に慣れてしまうと、更に欲は増してくるようで。

(もう少し、まわりの目を気にせずにイチャつきたいな)

 それには互いの家に行くのがいいと思うのだが、葉山が言っていた通り、白沢は家に人を入れるのが苦手らしく、一度も誘われたことはない。彰太の両親は共働きだが、母は夜の六時までに帰ってくるため、あまり時間がとれない。そのうえ、土日は両親ともに家にいることが多い。

 桜が散り、新緑のまぶしい季節となったとある日曜日。お風呂に入り、さっぱりとした彰太は兄のベッドにごろごろ転がりながら「琉兄は、瑠花さんと何処でイチャイチャしてんの?」と言い出した。

 琉太は定位置である座椅子に座り、雑誌を読みながら「んー?」と、生返事をした。彰太は琉太の耳元で、もう一度同じ質問をした。二倍ほどの声量で。

「うるせー!」

 耳をおさえる琉太を無視し「ね、何処でしてんの? 人前で堂々としてんの?」と彰太は真剣な顔で訊ねる。琉太は諦めたように雑誌を閉じた。

「してねーよ。普通に、親のいないときを狙っての家とか。外なら、二人っきりになれるカラオケとか」

「カラオケって、監視カメラがあるって聞いたことあるけど」

「あったとしても、別にキスぐらいで文句言われたりはしねーだろ」

 言ってから、しまったとばかりに琉太は口を右手で覆った。案の定彰太は「……へー」と、じとっとした双眸を向けてきた。男女の交際とは訳が違うんだよといわんばかりの目だ。

「まあ、あんまよくはないよな。別に見せつけたいわけでもないし。車があればいいんだろうけど、まだ学生のオレたちにはきついよな」

 琉太はしばらく黙考したあと「あ」と口を開いた。

「父さんと母さんに、旅行をプレゼントするっていうのはどうだ? 確か、結婚記念日がもうすぐだったろ」

「旅行?」

「そ。どっかの土日にさ。オレも瑠花と旅行に行くから。そしたら一日中、家で思う存分あいつとイチャつけるぞ」

 彰太は目をきらっきら輝かせ、ベッドに置いてあったスマホを手に取った。

「じゃあ、早速白沢の予定を確認して──」 

 言葉を切り、動きを止めた彰太を訝しむように琉太が「どうした?」と下から覗き込む。彰太はスマホを持つ手をゆっくりと下げた。

「やっぱり、明日学校で直接聞く。ラインとか電話だと、表情見えなくて怖いから」

 琉太は「怖い?」と眉を潜めた。

「白沢は優しいから、絶対いいよって言ってくれると思う。でも本当は嫌かもしれないから」

「……気にしすぎじゃないのか? ちゃんと、好きだって言ってくれたんだろ?」

 いつも鬱陶しいぐらいにノロケてくるくせに、ふとこんな風に、戒めのような言葉を口にする。慰めるような琉太の問いに、彰太は何も答えることが出来なかった。

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