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第一章
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年が明けた、元旦。
高くて青い寒空が広がっている。
自宅から歩いていける距離にある神社に両親と初詣に行った帰りの彰太は、白沢からのラインに気付いたとたん、嬉しさに震えた。
「お母さん。友達のとこ行ってくる!」
やけに嬉しそうな彰太に「お夕飯までには帰ってくるのよ」と母が微笑む。父はその後ろで「……親より友達か。琉太も彼女のとこ行っちゃうし」とぶつぶつ言っていたが、彰太はまるで気付かず、背を向けて走っていってしまった。
「白沢!」
駅前にいた白沢が軽く手を上げる。数日ぶりの白沢に、彰太は顔がにやけるのを止められなかった。
「明けましておめでとう、多比良」
荒くなった息を整えつつ「おめでとう。元旦に会えるなんて思ってなかった」と彰太は満面の笑顔だ。白沢も何だが嬉しくなった。
「ごめんね。急に。何か予定とかあったんじゃない?」
「ううん。ちょうど、親と近くにある神社に初詣に行った帰りだったから」
そう。
白沢が笑う。まわりにいる女子たちが白沢を見ながら赤い顔をして騒いでいる。彰太は何だか、自慢したくて仕方がなかった。
(白沢は、わざわざおれに会いに来てくれたんだよ)
女のみんなのためじゃなくて、男のおれに。
「学校に用事でもあったの? それとも仕事?」
この駅は学校の最寄り駅だ。白沢が何処に住んでいるのかは知らないが、電車通学ということだけは知っている。
「ううん。多比良に会いたくて」
──またそういう期待を持たせるようなことを、ぺらっと言う。
彰太は顔を赤くしながらも舞い上がりそうになる心をぐっと静め「ふうん」と何でもないふりをした。白沢は分かりやすすぎる彰太に、口元に手を当て、笑いを堪えた。そして──確信した。
「多比良。このあと時間ある?」
彰太が「あ、あるよ!」と意気込む。白沢が「ちょっと付き合ってほしいところがあるんだ」と口元を緩める。
「何処に行くの?」
そうだな。
白沢はしばらく悩む素振りを見せたあと「人目のつかないところ」と笑った。
「──ここなら大丈夫かな」
住宅街から少し外れた場所にある、ブランコとシーソーしかない小さな公園。回りは鬱蒼と繁った草、木々に囲まれており、忘れられた公園といった感じのところだった。
何だろう。やっぱり、ああいうことはもう止めたい。そういう話しかな。それならラインでもすれば済むことなのに。
──律儀だな、白沢は。
思わず、笑みがこぼれた。嫌う要素がなくて、ホントに困る。どんどん好きになっていってしまう。でも、怖くはなかった。だって、はじめから何も期待してないから。
「多比良」
白沢は公園の回りにある大木の下で止まった。振り返り、両腕を広げる。彰太は頬を緩め、白沢の腕の中におさまった。幸せ。胸中でこっそり呟く。
「……やっぱり、あったかいな」
心に染み入るように、ゆっくりと白沢が言葉を紡いだ。いつもの白沢とは何処かが違うような気がして、彰太は顔を上げた。
顔が、とても綺麗で整った顔が近付いてくる。目を見開いていると、口と口が軽く触れあい、そっと離れた。
「ほら」と、白沢が彰太の手を取り、自分の胸に当てた。
「分かるかな。鼓動が早いの。それとね。俺は今、すごく満ち足りた気分なんだ。幸せっていうのかな」
白沢は真っ直ぐに、彰太を見た。
「これって、好きってことだよね?」
「────」
「違う?」
彰太は事態が呑み込めず、目を丸くしたまま「……もう一回、して」と、意図しないところで呟いた。白沢が嬉しさに笑う。
「いいよ。何度でも」
唇に、柔らかくて、ほんの僅かなあたたかい感触。あり得ないほど近くにある白沢の綺麗な顔。
夢じゃない。夢じゃないんだ。
(……キス、してる。白沢と)
「多比良と会わなかったこの数日間、ずっと考えていたんだ。俺は多比良のこと、本当に恋愛対象として見てないのかなって」
白沢は顔を離し、静かに語り始めた。
「まず想ったのは、会えなくて、寂しいってこと。そして、他の人が多比良に触れるのが嫌なのは、本当に、友達としての嫉妬なのかなって」
これが白昼夢というものか。彰太は頭の隅で思いながらも、白沢の言葉を一つも聞き漏らすまいと耳を全力で傾けていた。
「友達ならキスなんてしないよね。でも俺は、多比良を見て、キスしたいと思った」
真っ直ぐで、真剣な双眸とぶつかる。
「好きだよ、多比良。俺と付き合ってくれませんか?」
彰太は目をはち切れんばかりに見開いたあと、がくがくと膝を震わせ、ぺたんと地面に座り込んだ。
「た、多比良? 大丈夫?」
「……へーき」
彰太の腕をとり、立たせた白沢はぎょっとした。彰太がボロボロと、涙を流していたからだ。
「……白沢がおれのこと好きだって言った。付き合ってって」
「うん。言ったね」
「おれは女じゃないけど、本当にいいの?」
白沢が「うん。多比良がいい」と、彰太の涙を親指でぬぐう。優しい微笑みに、思わずみとれる。
「おれも、白沢が好き」
想いの重さは、きっと違うだろうけど。すぐに、女の子がいいって気付いてしまうかもしれないけど。
白沢の首に両腕をまわし、何度も囁いた。白沢はその度「うん」と応えてくれた。
高くて青い寒空が広がっている。
自宅から歩いていける距離にある神社に両親と初詣に行った帰りの彰太は、白沢からのラインに気付いたとたん、嬉しさに震えた。
「お母さん。友達のとこ行ってくる!」
やけに嬉しそうな彰太に「お夕飯までには帰ってくるのよ」と母が微笑む。父はその後ろで「……親より友達か。琉太も彼女のとこ行っちゃうし」とぶつぶつ言っていたが、彰太はまるで気付かず、背を向けて走っていってしまった。
「白沢!」
駅前にいた白沢が軽く手を上げる。数日ぶりの白沢に、彰太は顔がにやけるのを止められなかった。
「明けましておめでとう、多比良」
荒くなった息を整えつつ「おめでとう。元旦に会えるなんて思ってなかった」と彰太は満面の笑顔だ。白沢も何だが嬉しくなった。
「ごめんね。急に。何か予定とかあったんじゃない?」
「ううん。ちょうど、親と近くにある神社に初詣に行った帰りだったから」
そう。
白沢が笑う。まわりにいる女子たちが白沢を見ながら赤い顔をして騒いでいる。彰太は何だか、自慢したくて仕方がなかった。
(白沢は、わざわざおれに会いに来てくれたんだよ)
女のみんなのためじゃなくて、男のおれに。
「学校に用事でもあったの? それとも仕事?」
この駅は学校の最寄り駅だ。白沢が何処に住んでいるのかは知らないが、電車通学ということだけは知っている。
「ううん。多比良に会いたくて」
──またそういう期待を持たせるようなことを、ぺらっと言う。
彰太は顔を赤くしながらも舞い上がりそうになる心をぐっと静め「ふうん」と何でもないふりをした。白沢は分かりやすすぎる彰太に、口元に手を当て、笑いを堪えた。そして──確信した。
「多比良。このあと時間ある?」
彰太が「あ、あるよ!」と意気込む。白沢が「ちょっと付き合ってほしいところがあるんだ」と口元を緩める。
「何処に行くの?」
そうだな。
白沢はしばらく悩む素振りを見せたあと「人目のつかないところ」と笑った。
「──ここなら大丈夫かな」
住宅街から少し外れた場所にある、ブランコとシーソーしかない小さな公園。回りは鬱蒼と繁った草、木々に囲まれており、忘れられた公園といった感じのところだった。
何だろう。やっぱり、ああいうことはもう止めたい。そういう話しかな。それならラインでもすれば済むことなのに。
──律儀だな、白沢は。
思わず、笑みがこぼれた。嫌う要素がなくて、ホントに困る。どんどん好きになっていってしまう。でも、怖くはなかった。だって、はじめから何も期待してないから。
「多比良」
白沢は公園の回りにある大木の下で止まった。振り返り、両腕を広げる。彰太は頬を緩め、白沢の腕の中におさまった。幸せ。胸中でこっそり呟く。
「……やっぱり、あったかいな」
心に染み入るように、ゆっくりと白沢が言葉を紡いだ。いつもの白沢とは何処かが違うような気がして、彰太は顔を上げた。
顔が、とても綺麗で整った顔が近付いてくる。目を見開いていると、口と口が軽く触れあい、そっと離れた。
「ほら」と、白沢が彰太の手を取り、自分の胸に当てた。
「分かるかな。鼓動が早いの。それとね。俺は今、すごく満ち足りた気分なんだ。幸せっていうのかな」
白沢は真っ直ぐに、彰太を見た。
「これって、好きってことだよね?」
「────」
「違う?」
彰太は事態が呑み込めず、目を丸くしたまま「……もう一回、して」と、意図しないところで呟いた。白沢が嬉しさに笑う。
「いいよ。何度でも」
唇に、柔らかくて、ほんの僅かなあたたかい感触。あり得ないほど近くにある白沢の綺麗な顔。
夢じゃない。夢じゃないんだ。
(……キス、してる。白沢と)
「多比良と会わなかったこの数日間、ずっと考えていたんだ。俺は多比良のこと、本当に恋愛対象として見てないのかなって」
白沢は顔を離し、静かに語り始めた。
「まず想ったのは、会えなくて、寂しいってこと。そして、他の人が多比良に触れるのが嫌なのは、本当に、友達としての嫉妬なのかなって」
これが白昼夢というものか。彰太は頭の隅で思いながらも、白沢の言葉を一つも聞き漏らすまいと耳を全力で傾けていた。
「友達ならキスなんてしないよね。でも俺は、多比良を見て、キスしたいと思った」
真っ直ぐで、真剣な双眸とぶつかる。
「好きだよ、多比良。俺と付き合ってくれませんか?」
彰太は目をはち切れんばかりに見開いたあと、がくがくと膝を震わせ、ぺたんと地面に座り込んだ。
「た、多比良? 大丈夫?」
「……へーき」
彰太の腕をとり、立たせた白沢はぎょっとした。彰太がボロボロと、涙を流していたからだ。
「……白沢がおれのこと好きだって言った。付き合ってって」
「うん。言ったね」
「おれは女じゃないけど、本当にいいの?」
白沢が「うん。多比良がいい」と、彰太の涙を親指でぬぐう。優しい微笑みに、思わずみとれる。
「おれも、白沢が好き」
想いの重さは、きっと違うだろうけど。すぐに、女の子がいいって気付いてしまうかもしれないけど。
白沢の首に両腕をまわし、何度も囁いた。白沢はその度「うん」と応えてくれた。
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