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番外編③
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「あ、母さん? 今までの話し、ちゃんと聞いてくれていたかな──そう。ありがとう」
?!
驚く三人を余所に、優斗は母親と会話を続ける。そしてスマホを「はい、兄さん。母さんが代われって」と顔面蒼白の博斗に差し出してきた。
「……い、いつから」
「小瀬野さんに電話すると同時に、俺のスマホから母さんにも電話をかけていたんだよ。困惑しながらも、ちゃんと今までの会話の全てを聞いてくれていたみたいだよ」
博斗の隣に立つ佳菜子は、俯いたまま押し黙っている。優斗は横目で佳菜子を見てから「その人の本性について」と口火を切った。
「兄さんはともかく、母さんと父さんなら俺の話しを聞いてくれたかもしれなかったけど、これまで俺は何も言わなかった。それは多分、兄さんにこれ以上嫌われたくなかったから。でもね」
優斗は正面から博斗を見据え「何か、久しぶりに会ってみて驚いたよ。どうしてこんな人に嫌われるのが怖かったんだろうって」と、晴れやかに笑った。
「ほら、母さんが待ってるよ。早く電話に出てあげて」
促され、怒鳴り散らしたい思いをぐっと抑えながら博斗は震える手で電話に出た。
「あの……母さん──はい……はい。すぐに実家に向かいます……佳菜子もですか……はい」
数分後。
通話を終えた博斗は、睨み付けながらスマホを優斗に向かって投げ捨てた。
ふと、佳菜子が顔を上げた。
「わたしは行かないわ。だってお義母さんは、優斗くんを信じるもの。そして優斗くんは、お友達を巻き込んでまでわたしを陥れようとしている。さっきの電話の相手もきっとそうよ」
「……佳菜子」
「あなたも行く必要なんてないじゃない」
博斗と目線を交差させるなり、佳菜子はぱんと両手を合わせた。
「そうだわ! いい機会だから、親子の縁を切ったらどうかしら?」
ぎょっとしたのは、博斗ばかりではない。
「!? 何を」
「聞いて、博斗さん。お義母さんは博斗さんと会っても、優斗くんのことばかり。あなたが昔から悩んでいた通りよ。あなたのことなんて、きっと愛していない」
可哀想な博斗さん。
佳菜子が憐れみの目を博斗に向ける。
しん。
束の間、静寂が訪れる。破ったのは、優斗だった。
「俺はその人に会うのが嫌で、大学に入学してから一度も実家には帰省していない。母さんが俺のことを気にするのは、そのせいだよ」
「……うるさい! 黙ってろ!」
はあはあ。
博斗が息を荒くする。
優斗は諦めたように、一度、目を閉じた。
「──分かった。でも、一つだけいいかな。ずっと不思議だったんだけど、その人のどこを好きになったの?」
「お前には関係ないだろ」
「そうだね。でも、知りたいんだ。もう二度と兄さんに会わないと誓うよ。何処かで会っても、決して話しかけたりしない。だから最後に教えてよ」
博斗が僅かに目を見開く。優斗の表情は落ち着いている。穏やかにすら見える。それが余計に、嘘ではないように思えた。
博斗はぐっと拳を握りしめ「……お前より、俺の方が好きだと……お前を紹介しても、佳菜子は俺が一番だと言ってくれた……っ」と絞り出すように吐露した。
「それだけかとお前は笑うだろうがな……俺にとってそれは、何より嬉しいことだったんだよ……浮気してもいい。最後に俺のところに帰ってきてくれるなら……っ」
佳菜子は目を細め「そうよ。わたしの一番は、博斗さんだけ。あなただけを愛しているわ」と、そっと博斗の肩に触れた。
愛、ね。
優斗はぽつりと呟いた。
?!
驚く三人を余所に、優斗は母親と会話を続ける。そしてスマホを「はい、兄さん。母さんが代われって」と顔面蒼白の博斗に差し出してきた。
「……い、いつから」
「小瀬野さんに電話すると同時に、俺のスマホから母さんにも電話をかけていたんだよ。困惑しながらも、ちゃんと今までの会話の全てを聞いてくれていたみたいだよ」
博斗の隣に立つ佳菜子は、俯いたまま押し黙っている。優斗は横目で佳菜子を見てから「その人の本性について」と口火を切った。
「兄さんはともかく、母さんと父さんなら俺の話しを聞いてくれたかもしれなかったけど、これまで俺は何も言わなかった。それは多分、兄さんにこれ以上嫌われたくなかったから。でもね」
優斗は正面から博斗を見据え「何か、久しぶりに会ってみて驚いたよ。どうしてこんな人に嫌われるのが怖かったんだろうって」と、晴れやかに笑った。
「ほら、母さんが待ってるよ。早く電話に出てあげて」
促され、怒鳴り散らしたい思いをぐっと抑えながら博斗は震える手で電話に出た。
「あの……母さん──はい……はい。すぐに実家に向かいます……佳菜子もですか……はい」
数分後。
通話を終えた博斗は、睨み付けながらスマホを優斗に向かって投げ捨てた。
ふと、佳菜子が顔を上げた。
「わたしは行かないわ。だってお義母さんは、優斗くんを信じるもの。そして優斗くんは、お友達を巻き込んでまでわたしを陥れようとしている。さっきの電話の相手もきっとそうよ」
「……佳菜子」
「あなたも行く必要なんてないじゃない」
博斗と目線を交差させるなり、佳菜子はぱんと両手を合わせた。
「そうだわ! いい機会だから、親子の縁を切ったらどうかしら?」
ぎょっとしたのは、博斗ばかりではない。
「!? 何を」
「聞いて、博斗さん。お義母さんは博斗さんと会っても、優斗くんのことばかり。あなたが昔から悩んでいた通りよ。あなたのことなんて、きっと愛していない」
可哀想な博斗さん。
佳菜子が憐れみの目を博斗に向ける。
しん。
束の間、静寂が訪れる。破ったのは、優斗だった。
「俺はその人に会うのが嫌で、大学に入学してから一度も実家には帰省していない。母さんが俺のことを気にするのは、そのせいだよ」
「……うるさい! 黙ってろ!」
はあはあ。
博斗が息を荒くする。
優斗は諦めたように、一度、目を閉じた。
「──分かった。でも、一つだけいいかな。ずっと不思議だったんだけど、その人のどこを好きになったの?」
「お前には関係ないだろ」
「そうだね。でも、知りたいんだ。もう二度と兄さんに会わないと誓うよ。何処かで会っても、決して話しかけたりしない。だから最後に教えてよ」
博斗が僅かに目を見開く。優斗の表情は落ち着いている。穏やかにすら見える。それが余計に、嘘ではないように思えた。
博斗はぐっと拳を握りしめ「……お前より、俺の方が好きだと……お前を紹介しても、佳菜子は俺が一番だと言ってくれた……っ」と絞り出すように吐露した。
「それだけかとお前は笑うだろうがな……俺にとってそれは、何より嬉しいことだったんだよ……浮気してもいい。最後に俺のところに帰ってきてくれるなら……っ」
佳菜子は目を細め「そうよ。わたしの一番は、博斗さんだけ。あなただけを愛しているわ」と、そっと博斗の肩に触れた。
愛、ね。
優斗はぽつりと呟いた。
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