上 下
70 / 121
番外編①

9

しおりを挟む
「じゃあ、どうして」

 んー。
 小瀬野が頭をがしがしといじる。

「……あいつ、酔って意識が朦朧としはじめてから、ずっとおんなじ名前ばっか連呼しだしてさあ。ゆーと。ゆーとって」

 優斗の双眸が、僅かに見開く。

「普通に考えりゃ恋人だろうけど、男の名前だろ? 変だなーっと思って、聞いてみたわけ。ゆーとって、恋人かって。したら、頷いたんだよ。マジかよって、最初はドン引きしてたんだけど」

 小瀬野が薄く笑う。
 優斗は黙って、先を促した。

「何か、ふとお前のこと思い出してさ。まさかと思いながら、ゆーとって同じ大学の佐伯優斗のことかって聞いたら、ドンピシャで」

 小瀬野は言葉を切り、俯いた。

「相手がお前だって知ったら……何か、すげー憐れになって。どんな理由で付き合うことになったかは知らねーけど、絶対からかわれてるだけなんだろうなって。オレの妹ですらフラれたのに、男のこいつなんか、いいように使われた挙げ句、もっと手酷くフラれるんだろうなって考えたんだ。だから」

「……だから?」

 優斗が静かに声を上げる。

「何ていうか、こっぴどくフラれて泣く前に、お前と別れた方があいつのためになるんじゃないかと思ったんだよ。あいつ真面目そうだし、好きでもない奴とヤったってなったら、自分から別れを切り出すんじゃないかと思って。どうせ、一度も抱いてやってないんだろ? 男相手に、勃つわけないもんな」

 優斗は押し黙っている。それを肯定と受け取ったのか、小瀬野はさらに続けた。

「あいつ、本当にお前のこと好きみたいだぜ。オレが言うのも何だけどさあ、相手は選べよ。遊びだか何だか知らねえが、いくら男だからって、あんな純粋な奴に手ぇ出すなよな」

 煽りやからかいなどは感じない、少しの怒気すら感じられる口調で言いながら、小瀬野がタバコの灰を灰皿に落とす。

「──璃空が誘ったっていうのは?」

 優斗の問いに、小瀬野が鼻で笑う。

「そんなことする奴じゃねーだろ。見てて分かんねーの? あいつは居酒屋ですでに意識なかったし、朝までぐーすか寝てたよ」

 優斗は頭に血が上ってくるのを感じたが、何とか耐えた。まだ確認しなければいけないことがある。

「……俺たちが付き合っていること、前原くんとあなたの彼女も知っているんですか?」

「ああ、安心しろよ。オレの女は前原に絡んで二人でできあがってたし、オレたちの会話は誰にも聞かれてねーから」

 タバコを灰皿に置き、小瀬野が腕を組んだ。優斗が何を語るのか、窺っている様子にも見える。

 どうして璃空に嘘をついたのか。理由の全て、言い終えたのだろう。そう判断した優斗は、口元だけに笑みを残したまま、表情を消した。

 結局。
 全部、嘘だったってことか。

「──余計なこと、しないでくれますか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...