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番外編③

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「──風邪引くよ」

 頭を撫でられる感触に目を覚まし「……優斗?」とテーブルから顔を離した。

「ただいま。ほら、寝るならちゃんとベッドで寝ないと」

 璃空の手をとる。そこで優斗は、はじめて璃空が着ているものに気付いた。どう見ても、サイズの合っていないそれは。

「あれ? 俺のシャツ着てるの?」

 璃空が寝ぼけながら頷く。

 優斗が緩む口元を右手で隠す。璃空は気付かず「実家はどうだった?」と聞いた。

「ああ、うん。父さんには怒鳴られ、母さんには泣かれたよ。どうしてもっと早く言ってくれなかったのって」

 当然の反応だろう。夫の弟に言い寄る嫁なんて、親からしたらさぞかし複雑なわけで。ましてほぼ犯罪の流れで息子が童貞を奪われていたことを知れば、卒倒していたかもしれない。

「……そっか。もっとゆっくりしていきなさいって引きとめられなかった?」

 ちらっと目覚まし時計を見れば、午後十時前。少なくとも、実家を八時には出たことになる。

「まあね。でも会わなかった期間の分、主に母さんから質問攻めにあって。面倒になって逃げてきたのが正直なところかな」

「…………」

「どうしたの?」

 ん。
 璃空が両腕を伸ばす。優斗は頬を緩め、璃空を抱き締めた。

 優斗の胸に額をあて、ぐりぐり動かした。優斗がくすぐったいと笑う。

『質問攻めにあって』

 優斗の科白が頭を過る。
 
 確証があるわけではない。全くの検討違いかもしれない。でも。

(質問の中に、恋人がいるかどうかって内容もあったんじゃないかな)

 璃空も母親に訊ねられた。直接的な言葉ではなかったが。彼女がいるのかと。嬉しそうに。

 博斗を勘当してしまったいま、優斗に期待していたとしても不思議ではない。

 彼女。結婚。そして、孫。

 ──おれの夢は、どこまで続くんだろう。

 いつまで一緒にいられる?
 大人になれば、きっと今より難しくなる。
 ずっと幸せに暮らしました、なんて。
 夢物語もいいとこだ。

 もうそんなに、子供でもない。
 そして子供でいられる時間は、そう多くはない。自分たちだけ幸せならそれでいいという考えを貫けなくなるときがくるだろう。

 互いに、大切だと思える家族がいるのだから。

「……おれたちは、いつまで一緒にいられるかな」

 小さく呟いてみる。優斗は「それは俺たち次第だね」と言った。何かを察したような応えにも思えた。

「そうかな……」

「そうだよ。それは、他人が決めていいことではないからね。そして俺は、璃空と離れるつもりはないよ。ずっとね」

 璃空は顔を上げ、優斗を見た。

「ずっと?」

「うん。ずっとね、璃空が好きだよ」

 優斗の気持ちも、言葉も、真っ直ぐだ。
 真っ直ぐに、璃空の柔らかいところに落ちてくる。

 不安がらないで。大丈夫だからって。

 優斗の胸に再び顔を埋める。聴こえてくる、心臓の音。落ち着く匂い。慣れた体温。

 夢のように気持ちがいい世界。
 フワフワする現実。

 璃空は祈るように、目を閉じる。


 ──願わくば。

 目を開けて見る夢が、いつまでも続きますように。
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