111 / 121
番外編③
24
しおりを挟む
「──風邪引くよ」
頭を撫でられる感触に目を覚まし「……優斗?」とテーブルから顔を離した。
「ただいま。ほら、寝るならちゃんとベッドで寝ないと」
璃空の手をとる。そこで優斗は、はじめて璃空が着ているものに気付いた。どう見ても、サイズの合っていないそれは。
「あれ? 俺のシャツ着てるの?」
璃空が寝ぼけながら頷く。
優斗が緩む口元を右手で隠す。璃空は気付かず「実家はどうだった?」と聞いた。
「ああ、うん。父さんには怒鳴られ、母さんには泣かれたよ。どうしてもっと早く言ってくれなかったのって」
当然の反応だろう。夫の弟に言い寄る嫁なんて、親からしたらさぞかし複雑なわけで。ましてほぼ犯罪の流れで息子が童貞を奪われていたことを知れば、卒倒していたかもしれない。
「……そっか。もっとゆっくりしていきなさいって引きとめられなかった?」
ちらっと目覚まし時計を見れば、午後十時前。少なくとも、実家を八時には出たことになる。
「まあね。でも会わなかった期間の分、主に母さんから質問攻めにあって。面倒になって逃げてきたのが正直なところかな」
「…………」
「どうしたの?」
ん。
璃空が両腕を伸ばす。優斗は頬を緩め、璃空を抱き締めた。
優斗の胸に額をあて、ぐりぐり動かした。優斗がくすぐったいと笑う。
『質問攻めにあって』
優斗の科白が頭を過る。
確証があるわけではない。全くの検討違いかもしれない。でも。
(質問の中に、恋人がいるかどうかって内容もあったんじゃないかな)
璃空も母親に訊ねられた。直接的な言葉ではなかったが。彼女がいるのかと。嬉しそうに。
博斗を勘当してしまったいま、優斗に期待していたとしても不思議ではない。
彼女。結婚。そして、孫。
──おれの夢は、どこまで続くんだろう。
いつまで一緒にいられる?
大人になれば、きっと今より難しくなる。
ずっと幸せに暮らしました、なんて。
夢物語もいいとこだ。
もうそんなに、子供でもない。
そして子供でいられる時間は、そう多くはない。自分たちだけ幸せならそれでいいという考えを貫けなくなるときがくるだろう。
互いに、大切だと思える家族がいるのだから。
「……おれたちは、いつまで一緒にいられるかな」
小さく呟いてみる。優斗は「それは俺たち次第だね」と言った。何かを察したような応えにも思えた。
「そうかな……」
「そうだよ。それは、他人が決めていいことではないからね。そして俺は、璃空と離れるつもりはないよ。ずっとね」
璃空は顔を上げ、優斗を見た。
「ずっと?」
「うん。ずっとね、璃空が好きだよ」
優斗の気持ちも、言葉も、真っ直ぐだ。
真っ直ぐに、璃空の柔らかいところに落ちてくる。
不安がらないで。大丈夫だからって。
優斗の胸に再び顔を埋める。聴こえてくる、心臓の音。落ち着く匂い。慣れた体温。
夢のように気持ちがいい世界。
フワフワする現実。
璃空は祈るように、目を閉じる。
──願わくば。
目を開けて見る夢が、いつまでも続きますように。
頭を撫でられる感触に目を覚まし「……優斗?」とテーブルから顔を離した。
「ただいま。ほら、寝るならちゃんとベッドで寝ないと」
璃空の手をとる。そこで優斗は、はじめて璃空が着ているものに気付いた。どう見ても、サイズの合っていないそれは。
「あれ? 俺のシャツ着てるの?」
璃空が寝ぼけながら頷く。
優斗が緩む口元を右手で隠す。璃空は気付かず「実家はどうだった?」と聞いた。
「ああ、うん。父さんには怒鳴られ、母さんには泣かれたよ。どうしてもっと早く言ってくれなかったのって」
当然の反応だろう。夫の弟に言い寄る嫁なんて、親からしたらさぞかし複雑なわけで。ましてほぼ犯罪の流れで息子が童貞を奪われていたことを知れば、卒倒していたかもしれない。
「……そっか。もっとゆっくりしていきなさいって引きとめられなかった?」
ちらっと目覚まし時計を見れば、午後十時前。少なくとも、実家を八時には出たことになる。
「まあね。でも会わなかった期間の分、主に母さんから質問攻めにあって。面倒になって逃げてきたのが正直なところかな」
「…………」
「どうしたの?」
ん。
璃空が両腕を伸ばす。優斗は頬を緩め、璃空を抱き締めた。
優斗の胸に額をあて、ぐりぐり動かした。優斗がくすぐったいと笑う。
『質問攻めにあって』
優斗の科白が頭を過る。
確証があるわけではない。全くの検討違いかもしれない。でも。
(質問の中に、恋人がいるかどうかって内容もあったんじゃないかな)
璃空も母親に訊ねられた。直接的な言葉ではなかったが。彼女がいるのかと。嬉しそうに。
博斗を勘当してしまったいま、優斗に期待していたとしても不思議ではない。
彼女。結婚。そして、孫。
──おれの夢は、どこまで続くんだろう。
いつまで一緒にいられる?
大人になれば、きっと今より難しくなる。
ずっと幸せに暮らしました、なんて。
夢物語もいいとこだ。
もうそんなに、子供でもない。
そして子供でいられる時間は、そう多くはない。自分たちだけ幸せならそれでいいという考えを貫けなくなるときがくるだろう。
互いに、大切だと思える家族がいるのだから。
「……おれたちは、いつまで一緒にいられるかな」
小さく呟いてみる。優斗は「それは俺たち次第だね」と言った。何かを察したような応えにも思えた。
「そうかな……」
「そうだよ。それは、他人が決めていいことではないからね。そして俺は、璃空と離れるつもりはないよ。ずっとね」
璃空は顔を上げ、優斗を見た。
「ずっと?」
「うん。ずっとね、璃空が好きだよ」
優斗の気持ちも、言葉も、真っ直ぐだ。
真っ直ぐに、璃空の柔らかいところに落ちてくる。
不安がらないで。大丈夫だからって。
優斗の胸に再び顔を埋める。聴こえてくる、心臓の音。落ち着く匂い。慣れた体温。
夢のように気持ちがいい世界。
フワフワする現実。
璃空は祈るように、目を閉じる。
──願わくば。
目を開けて見る夢が、いつまでも続きますように。
5
お気に入りに追加
638
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
本日のディナーは勇者さんです。
木樫
BL
〈12/8 完結〉
純情ツンデレ溺愛魔王✕素直な鈍感天然勇者で、魔王に負けたら飼われた話。
【あらすじ】
異世界に強制召喚され酷使される日々に辟易していた社畜勇者の勝流は、魔王を殺ってこいと城を追い出され、単身、魔王城へ乗り込んだ……が、あっさり敗北。
死を覚悟した勝流が目を覚ますと、鉄の檻に閉じ込められ、やたら豪奢なベッドに檻ごとのせられていた。
「なにも怪我人檻に入れるこたねぇだろ!? うっかり最終形態になっちまった俺が悪いんだ……ッ!」
「いけません魔王様! 勇者というのは魔物をサーチアンドデストロイするデンジャラスバーサーカーなんです! 噛みつかれたらどうするのですか!」
「か、噛むのか!?」
※ただいまレイアウト修正中!
途中からレイアウトが変わっていて読みにくいかもしれません。申し訳ねぇ。
うまく笑えない君へと捧ぐ
西友
BL
本編+おまけ話、完結です。
ありがとうございました!
中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。
一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。
──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。
もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい
海野幻創
BL
「その溺愛は伝わりづらい」の続編です。
久世透(くぜとおる)は、国会議員の秘書官として働く御曹司。
ノンケの生田雅紀(いくたまさき)に出会って両想いになれたはずが、同棲して三ヶ月後に解消せざるを得なくなる。
時を同じくして、首相である祖父と、秘書官としてついている西園寺議員から、久世は政略結婚の話を持ちかけられた。
前作→【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
キスより甘いスパイス
凪玖海くみ
BL
料理教室を営む28歳の独身男性・天宮遥は、穏やかで平凡な日々を過ごしていた。
ある日、大学生の篠原奏多が新しい生徒として教室にやってくる。
彼は遥の高校時代の同級生の弟で、ある程度面識はあるとはいえ、前触れもなく早々に――。
「先生、俺と結婚してください!」
と大胆な告白をする。
奏多の真っ直ぐで無邪気なアプローチに次第に遥は心を揺さぶられて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる