上 下
58 / 121

58

しおりを挟む
 講義が終わり、学部の違う彼女を校門前で待つ優斗。二人の男が笑いながら、優斗の前を通り過ぎていく。

 一人の男の顔に、見覚えがあった。

 あの子と一緒じゃないのか。

 食堂で大抵一緒にいる、璃空の友達。何度か二人で帰っているのを見たことがある。 

 別に、とりたてて気にすることではない。大概は一緒だとしても、何か用があって、別々に帰ることは変ではない。

 よくあること――なのだが。

 昼間の食堂を思い出す。璃空は、弁当を半分以上残していた。顔色が悪く、元気もない。

 さすがの友人も変に思い「風邪か?」と聞いていたが、璃空は「そんなわけないだろ」と一笑していた。

 気にはなったが、他人の自分が声をかけるわけにもいかず、ただその背を見送った。

 あのあと、早退したのだろうか。
 その可能性は充分あるのに、なぜか気になった。

 どうもあの子は「そんなわけないだろ」という言葉を本気で口にしていた気がする。見た感じ、とてもそうは見えなかったのに。

 何より、あの子が他の誰かに甘えたり、頼ったりするところを見たことがない。

 それが一番、胸をざわつかせた。

 そして、笑顔で無理をする姿が脳裏に浮かんだ。

 右手で頭を抱える。考えすぎだろうか。

 ちらっと思ったが、もう止まらなかった。彼女に先に帰ると連絡し、校舎に向かって歩き出した。

 とはいえ、璃空がどこにいるかなど分かるはずもなく、とりあえず璃空が所属する法学部のキャンパスに向かった。

 あてもなく優斗は歩く。
 流石に無謀だったか。
 思ったが、足が勝手に動く。

 4階に向かう階段を登る。踊り場に足をのせた時、上から璃空が降ってきた。あの時のことは、何故かスローモーションのようにコマ送りで脳に焼き付いている。

 その後のことも、鮮明に覚えている。

 力の入らない手で、それでも必死に掴み、気持ちよさそうに、優斗の胸に頬をすりつけてくる璃空。

 優斗は堪らなくなり、気付けば抱きしめていた。

 保健室で意識を取り戻した璃空に、問いてみた。

 どうして倒れるまで我慢したのか。
 人を頼らなかったのか。
 少しのもどかしさも込めて。

 璃空は、人に面倒をかけたくないと言い、泣いた。

 ――ああ、守ってあげたいな。

 頭を撫でながら想ったのは、そんなこと。

 次いで、色んな想いが湧いてきた。

 可愛い。愛しい。
 もう一度、その小さな身体を抱きしめてみたい。

 そう思うと同時に、優斗は何故か、優越感のようなものを抱いていた。


 ほら、と。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

本日のディナーは勇者さんです。

木樫
BL
〈12/8 完結〉 純情ツンデレ溺愛魔王✕素直な鈍感天然勇者で、魔王に負けたら飼われた話。  【あらすじ】  異世界に強制召喚され酷使される日々に辟易していた社畜勇者の勝流は、魔王を殺ってこいと城を追い出され、単身、魔王城へ乗り込んだ……が、あっさり敗北。  死を覚悟した勝流が目を覚ますと、鉄の檻に閉じ込められ、やたら豪奢なベッドに檻ごとのせられていた。 「なにも怪我人檻に入れるこたねぇだろ!? うっかり最終形態になっちまった俺が悪いんだ……ッ!」 「いけません魔王様! 勇者というのは魔物をサーチアンドデストロイするデンジャラスバーサーカーなんです! 噛みつかれたらどうするのですか!」 「か、噛むのか!?」 ※ただいまレイアウト修正中!  途中からレイアウトが変わっていて読みにくいかもしれません。申し訳ねぇ。

その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい

海野幻創
BL
「その溺愛は伝わりづらい」の続編です。 久世透(くぜとおる)は、国会議員の秘書官として働く御曹司。 ノンケの生田雅紀(いくたまさき)に出会って両想いになれたはずが、同棲して三ヶ月後に解消せざるを得なくなる。 時を同じくして、首相である祖父と、秘書官としてついている西園寺議員から、久世は政略結婚の話を持ちかけられた。 前作→【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

一度くらい、君に愛されてみたかった

和泉奏
BL
昔ある出来事があって捨てられた自分を拾ってくれた家族で、ずっと優しくしてくれた男に追いつくために頑張った結果、結局愛を感じられなかった男の話

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...