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 講義が終わり、学部の違う彼女を校門前で待つ優斗。二人の男が笑いながら、優斗の前を通り過ぎていく。

 一人の男の顔に、見覚えがあった。

 あの子と一緒じゃないのか。

 食堂で大抵一緒にいる、璃空の友達。何度か二人で帰っているのを見たことがある。 

 別に、とりたてて気にすることではない。大概は一緒だとしても、何か用があって、別々に帰ることは変ではない。

 よくあること――なのだが。

 昼間の食堂を思い出す。璃空は、弁当を半分以上残していた。顔色が悪く、元気もない。

 さすがの友人も変に思い「風邪か?」と聞いていたが、璃空は「そんなわけないだろ」と一笑していた。

 気にはなったが、他人の自分が声をかけるわけにもいかず、ただその背を見送った。

 あのあと、早退したのだろうか。
 その可能性は充分あるのに、なぜか気になった。

 どうもあの子は「そんなわけないだろ」という言葉を本気で口にしていた気がする。見た感じ、とてもそうは見えなかったのに。

 何より、あの子が他の誰かに甘えたり、頼ったりするところを見たことがない。

 それが一番、胸をざわつかせた。

 そして、笑顔で無理をする姿が脳裏に浮かんだ。

 右手で頭を抱える。考えすぎだろうか。

 ちらっと思ったが、もう止まらなかった。彼女に先に帰ると連絡し、校舎に向かって歩き出した。

 とはいえ、璃空がどこにいるかなど分かるはずもなく、とりあえず璃空が所属する法学部のキャンパスに向かった。

 あてもなく優斗は歩く。
 流石に無謀だったか。
 思ったが、足が勝手に動く。

 4階に向かう階段を登る。踊り場に足をのせた時、上から璃空が降ってきた。あの時のことは、何故かスローモーションのようにコマ送りで脳に焼き付いている。

 その後のことも、鮮明に覚えている。

 力の入らない手で、それでも必死に掴み、気持ちよさそうに、優斗の胸に頬をすりつけてくる璃空。

 優斗は堪らなくなり、気付けば抱きしめていた。

 保健室で意識を取り戻した璃空に、問いてみた。

 どうして倒れるまで我慢したのか。
 人を頼らなかったのか。
 少しのもどかしさも込めて。

 璃空は、人に面倒をかけたくないと言い、泣いた。

 ――ああ、守ってあげたいな。

 頭を撫でながら想ったのは、そんなこと。

 次いで、色んな想いが湧いてきた。

 可愛い。愛しい。
 もう一度、その小さな身体を抱きしめてみたい。

 そう思うと同時に、優斗は何故か、優越感のようなものを抱いていた。


 ほら、と。
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