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「眠るの、やだな……」

 璃空がポツリと呟く。

「どうして? 色々あって、疲れたでしょ?」

 優斗のことは信じている。

 たくさん、言葉を、想いをくれたから。

 それでも、これが夢ではないと信じきれていない自分がいて。

 優斗がベッドに入ると、璃空はその胸に頬をつけるようにして、横になった。

 やっぱり、夢のようだ。

 本当にこれは、現実なんだろうか。

 自分は今、夢を見ている真っ最中ではないだろうか。だって、ここが現実だと証明できるものは何もない。

 現実の優斗は雪野といて、幸せに生きているかもしれない。眠ってしまえば、今日あった出来事全て、夢になりそうな気がした。

 優斗の体温と、匂い。
 心臓の音が聞こえる。

 それらは全部、目を閉じても感じられるもので。

 余計に、現実感がない。

 眠りたくないのに。逆らいきれない睡魔が襲ってくる。瞼が重い。璃空の想いに反して、意識が遠のいていく。

「……璃空、泣いてるの?」

 優斗の心配そうな声が、仄かなオレンジ色に染まった部屋を満たす。

「目が覚めたら、きっと、優斗はいないんだ」

 璃空は目を閉じながら、泣いている。
 現実と夢の狭間にいる。
 そんな感じだ。

「大丈夫。傍にいるよ、ずっとね」

 頭を撫で、囁く。

 少し安心したのか、泣き声が小さくなる。

「優斗は、何でおれのこと好きでいてくれるの……?」

 頭を撫でる手が止まる。璃空は独り言のように、答えを待つことなく続けた。

「……甘えたで、泣き虫で、貧乏で……男で……顔もそんなによくないし……いいとこなんて何もないのに……なんで……」

 璃空はそのまま、眠りに落ちていった。

 その寝顔を見ながら、優斗は安心したように口元を綻ばせた。

 良かった。

 璃空は、何も変わってない。

 それが、こんなにも嬉しくて、ホッとするなんて。

「何で、か」

 優斗は苦笑する。

 どこが好きかと聞かれれば、全部だ。
 全部が等しく愛おしい。
 甘えん坊なところも、泣き虫なところも。

 秘める強さも。

 男とか、貧乏とか。
 優斗にとってはどうでもいいことだ。

(……そう言えば。顔がどうとか言ってたな)

 本気だろうか。

 少なくとも優斗は、今まで付き合ったどの女より、璃空が可愛いと断言できるのに。

 それに、意識するようになった最初の理由は。


 今思うと、一目惚れに近かった気がする。

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