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「前原のこと、すっかり忘れてた。連絡きてるかも。ていうか、連絡しないと」

 前原に何も告げないまま、一日以上が経ってしまった。流石に心配しているかもしれない。悪いことをした。

 がばっと上体を起こした璃空に、優斗はこともなげに言った。

「大丈夫だよ。前原くんにも、ちゃんと連絡は入れておいたから」

 璃空が目を丸くする。

「……優斗が?」

「うん。釘も刺しておきたかったし」

 璃空がギョッとする。恐る恐る、口を開いた。

「……何、言った?」

「秘密にしとこうかな。大丈夫。下手なことは言ってないよ」

 黒い笑みを浮かべると、優斗はキッチンに姿を消した。聞きたいが、聞くのが怖い。璃空はジレンマに陥ったが、これ以上問いただすのはやめようと決めた。

 もういいや。疲れたし。幸せだし。

 優斗が、冷えた水の入ったコップを差し出す。もう片方の手に、同じように水の入ったコップを持っている。

 ちょうど喉が渇いていた璃空は礼を言い、それを受け取った。立ちながら水を飲む優斗をちらっと見上げる。

 ぐったりしている璃空に対し、優斗は余裕の表情だ。

 何が違うんだろう。体力にはそこそこ自信があるのに。大体自分はほぼマグロ状態で、ほとんど優斗が動いていたのに。いくら自分がネコとはいえ、情けなさすぎる。

「おかわり、いる?」

 空っぽのコップを優斗に渡しながら「大丈夫」と頭を横にふった。

 とりあえず今は、少しでも体力を回復させなければと、璃空はベッドに寝ころんだ。

「優斗」

「うん?」

 自分のすぐ傍。そこを手でポンポン叩く璃空。

「はいはい」

 察した優斗は、二つのコップをテーブルに置き、ベッドに身体を横たえた。



 そして、空が茜色に染まるころ。

 璃空はむくりと起き上がり、颯爽とキッチンに向かった。

「手伝おうか?」

「大丈夫。優斗はテレビでも見てて」

 腕をまくり、妙に張り切る璃空。

 せめて。せめて料理だけは負けていられない。

 その燃える背中を見た優斗は、何かを悟った。

 邪魔をしない方が良さそうだ。

 優斗は小さく笑うと、リモコンを手に取り、テレビをつけた。
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