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「信じられない?」

 優斗は困ったように顔を傾ける。璃空は思わず、目を背けた。

 優斗の言葉を、信じたい。
 でも、怖い。

 もし信じて、また捨てられたら、きっと自分は駄目になる。もう二度と、立ち直れないかもしれない。

 夢を見たあとの現実が、こんなにも辛いなんて、知らなかったから。

 シーツを強く、握りしめる。まだ腑に落ちない点がある。聞くべきか、迷う。

 この質問をすることによって、優斗が離れて行ったりしないだろうか。そんな考えが頭を過ぎる。

 夢でも何でもいい。
 優斗が今、目の前にいる。
 その現実を、手放したくなかった。

「璃空。何が聞きたい?」

 はっとする。

 絨毯に膝をつき、両手を璃空の頬に添え、目線を合わせながら優斗が微笑する。

「言って? 璃空が信じてくれるなら、俺は何だってするよ」

 真っ直ぐな眼差しに、目の奥が熱くなる。

 変わらない。優斗はいつも、璃空の言葉、態度、表情で、悩む想いを敏感に拾いとってくれる。

 変わってないなら。それなら。

 信じてみようか。優斗を。

「空港、で」

「空港? ……そっか。来てくれてたんだ」

 その場所の意味を察し、優斗が嬉しそうに笑む。

 璃空は言葉を続けた。

「そこで、見たんだ。優斗と雪野さんが一緒に歩いているところ。優斗は、すごく楽しそうにしてた。自惚れかもしれないけど。おれにだけ向けてくれる特別な顔してた。だから」

「……うん。そうだろうね」

 否定を信じたその口から、肯定の言葉が出た。

 璃空は泣きたいような、怒りたいような、そんな気持ちになった。

「な、んだよ。それ。やっぱり雪野さんのことが好きなんじゃん。それならはっきり……っ」

「だって、璃空のことを話していたからね」

 ぐいっと腕を引っ張られ、再び優斗の腕の中にすっぽり収まった。

「璃空は本当に、泣き虫だなあ」

 どこか嬉しそうに優斗が笑う。璃空が目に涙を溜め、誰のせいだと怒鳴る。笑い声が止み、少しの沈黙が二人を包んだ。

「優斗?」

 不安になり、小さく名を呼ぶ。優斗は璃空を抱きしめたまま、口を開いた。

「……ラインの返事がなくて、少しの不安はあったけど」

「?」

「きっと待っていてくれるって、家に帰った。それで、やっと璃空に逢えると思ったら、璃空はいなかった。ポストに鍵が入っていて……まさかと思って。でも信じられなくて。けど、部屋から璃空のものが全部なくなっていたから」

 璃空を抱える腕の力が、わずかに強まるのを感じた。

「璃空がどこにいるのか急いで調べたんだ。そしたら、前原くんと一緒にいる璃空を見つけて……後をつけたら、一緒の部屋に入っていったから」

 璃空が「調べる?」と訳が分からないといった風に聞き返す。優斗はさらっと「璃空のスマホには、位置を教えてくれるアプリが入っているからね」と言った。

 璃空は初耳だったが、優斗に前原との仲を誤解されたことが何よりもショックで、アプリのことは頭からとんだ。
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