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年が明け、2月にあった選考試験に見事合格した優斗。
心からおめでとうと言えた自分を少し誇らしく思いながら、少しでも長く優斗といられるように、璃空はバイトを減らした。
長期の休みにも、二人は家に帰らなかった。
楽しかった。
嬉しかった。
惜しむように、二人でいた。
璃空はその間、優斗がいなくなる寂しさを一度も吐露することはなかった。
優斗がアメリカに発つ前日も。
――当日も。
「いってらっしゃい」
8月中旬。
ぽつぽつと、小雨が降る。
そんな朝。
玄関のドアノブに手をかける優斗に、璃空が笑顔で声をかける。見送りは、二人が暮らすこの部屋。
留学先の大学へは、優斗を含め、5名で行く。そんな中、璃空が空港まで見送りに行けるはずもない。
ただの友人が、それもたった一人で行けば、変に思われるのは目に見えている。
「……ごめんね」
「何で優斗が謝るんだよ。それより、ちゃんと約束覚えてる?」
優斗が頷く。璃空はそれだけで満足そうに表情を緩める。そんな璃空に、優斗は優しく口づけをした。
「いってきます」
背を向け、優斗がドアの向こうに消える。
それを、黙って見届ける。
顔から笑みが消えた。
でも、それは一瞬のことで。
璃空はくるりと踵を返した。
「さて、おれも支度しないと」
わざと明るく声に出してみる。
冬休み、春休み共に実家に帰らなかったため、弟から「夏休みに帰ってこなかったらグレる」と訳の分からない脅しをされていたので、今日から実家に帰ることにしたのだ。
でもこれは、自分のためでもあった。
優斗がいない、優斗の部屋は寂しい。辛い。
一人でいると、思い出に縋り、きっと毎日でも泣いてしまうだろう。学校がはじまる前に、優斗がいない生活に少しでも慣れておく必要がある。手のかかる弟が傍にいれば、大分気が紛れるだろう。
――多分。
「大丈夫かな、おれ」
支度をしないと。そう言ったはずなのに、何故か自分はベッドに横たわっている。そして腕の中には、先程まで優斗が着ていたパジャマがある。
「……まだ5分しか経ってない」
恨めしく、目覚まし時計を睨む。
あと、半年。
果たして耐えられるかどうか。
優斗と知り合う前、どうやってこの甘えたがりの自分を抑えていたのだろう。
もう、覚えていない。
あの頃には戻れない。
けれど。今はまだ、時が過ぎれば優斗は戻ってくる。そう信じていられる。
だけど。
「優斗がおれに飽きたり、おれより好きな人が出来たら、優斗はもう、二度と戻ってこないんだ……」
言葉にすると、よりその重みを感じた。夢が続く可能性がある今は、それほど悲観する状況ではない。
自分に言い聞かせ、璃空はむくりと起き上がった。そして、実家に帰る準備をはじめた。
一人きりの部屋で、どんどん激しくなる雨音を聞いた。
心からおめでとうと言えた自分を少し誇らしく思いながら、少しでも長く優斗といられるように、璃空はバイトを減らした。
長期の休みにも、二人は家に帰らなかった。
楽しかった。
嬉しかった。
惜しむように、二人でいた。
璃空はその間、優斗がいなくなる寂しさを一度も吐露することはなかった。
優斗がアメリカに発つ前日も。
――当日も。
「いってらっしゃい」
8月中旬。
ぽつぽつと、小雨が降る。
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玄関のドアノブに手をかける優斗に、璃空が笑顔で声をかける。見送りは、二人が暮らすこの部屋。
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「……ごめんね」
「何で優斗が謝るんだよ。それより、ちゃんと約束覚えてる?」
優斗が頷く。璃空はそれだけで満足そうに表情を緩める。そんな璃空に、優斗は優しく口づけをした。
「いってきます」
背を向け、優斗がドアの向こうに消える。
それを、黙って見届ける。
顔から笑みが消えた。
でも、それは一瞬のことで。
璃空はくるりと踵を返した。
「さて、おれも支度しないと」
わざと明るく声に出してみる。
冬休み、春休み共に実家に帰らなかったため、弟から「夏休みに帰ってこなかったらグレる」と訳の分からない脅しをされていたので、今日から実家に帰ることにしたのだ。
でもこれは、自分のためでもあった。
優斗がいない、優斗の部屋は寂しい。辛い。
一人でいると、思い出に縋り、きっと毎日でも泣いてしまうだろう。学校がはじまる前に、優斗がいない生活に少しでも慣れておく必要がある。手のかかる弟が傍にいれば、大分気が紛れるだろう。
――多分。
「大丈夫かな、おれ」
支度をしないと。そう言ったはずなのに、何故か自分はベッドに横たわっている。そして腕の中には、先程まで優斗が着ていたパジャマがある。
「……まだ5分しか経ってない」
恨めしく、目覚まし時計を睨む。
あと、半年。
果たして耐えられるかどうか。
優斗と知り合う前、どうやってこの甘えたがりの自分を抑えていたのだろう。
もう、覚えていない。
あの頃には戻れない。
けれど。今はまだ、時が過ぎれば優斗は戻ってくる。そう信じていられる。
だけど。
「優斗がおれに飽きたり、おれより好きな人が出来たら、優斗はもう、二度と戻ってこないんだ……」
言葉にすると、よりその重みを感じた。夢が続く可能性がある今は、それほど悲観する状況ではない。
自分に言い聞かせ、璃空はむくりと起き上がった。そして、実家に帰る準備をはじめた。
一人きりの部屋で、どんどん激しくなる雨音を聞いた。
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