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「合コン、やりたいなあ」

 9月中旬。

 昼間には夏の名残が。朝夕には秋の訪れを感じる、そんな夏と秋の狭間の月。

 残暑が少し落ち着き、柔らかな秋の雲が見える、晴れの空。

 午後12時10分。

 チャイムの音が、大学の構内に響いた。講義を終えた学生たちが、各々の教室から出てくる。
 
 その中に、廊下を早足に歩き、人混みを綺麗にすり抜けていくリュックを背負った男がいた。

 髪を染める学生も多い中、その男は黒髪で、さらに言えば、平均的な男子大学生より、少し背丈は小さめだった。

 大学生活にも慣れた、朝比奈璃空である。

 歩く璃空の前にさっと立ちはだかり、これみよがしに独り言を呟いたのは、短髪で金髪の男。前原まえはらだった。璃空は「やればいいじゃん」と憮然と返した。

「誰も幹事をやりたがらないんだ」

「お前がやれよ」

「人には向き不向きってあるだろ?」

「あるな」

「朝比奈が幹事やってくれたとき、すごい評判良かったんだよなあ。気遣いもできるし、仕切るのうまいし。イケメンじゃないから、女の子ももっていかれなかったし」

「褒めたいのか、けなしたいのか分かんないけど。それよりも重要なことあるだろ?」

「へ?」

「ノート、いいのか?」

 う、と前原が言葉に詰まる。

 璃空と前原はともに法学部で、同じ資格習得を目指している。選択している科目はほぼ同じで、大学からの付き合いだが、一緒に行動することも多い。

 にも関わらず、1限、2限ともに前原の姿は教室のどこにもなかった。

「寝坊しちゃって……」

 璃空はふう、とため息をつく。リュックの中から2冊のノートを取り出した。

「ほら、これ貸してやるから。合コンは……悪い。しばらく行く気ない。バイト忙しいし」

 前原が、しゅんと落ち込みながら「ありがと」とノートを受けとる。

「最近そればっかだなー。前はもう少し、付き合い良かったのに」

 自覚がある璃空は、多少悪いとは思いつつ、そうかなと惚けた。

「じゃあ、おれ行くな」

「また家に帰るのか?」

「うん。昼食代浮くし、朝、弁当つくんなくていいから、その分寝てられるし」

 これは嘘ではない。でも、家に急いで帰りたい一番の理由はまた別のところにある。

 学食で昼をすますという前原と別れ、璃空は早歩きで、大学の敷地内にある駐輪場を目指した。

 ちょっともう、我慢できない。
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