163 / 173
第10章
第9話 アナタと目的
しおりを挟む「………こんな所だ」
「はへぇ~………」
話を語り終えたイーラさんは、頬を染めどことなく気恥ずかしそうだった。
まぁ、軽率な行動による恥部も多分に含まれるし、出来れば知られたくない類の話ではあるのだろう……
だけど……全てを聞き終えた僕は、彼女が勇者様のファンとなったことに対して大いに納得がいった。
『勇者様に助けられたから』という、非常に単純にして明快な理由は……
僕が勇者様に憧れた理由と全く同じなのだから。
「森から連れ出された私は、兄の元へと戻った。
当然の如く、兄からは叱りの言葉を受けたよ。
あれ程までに怒る兄の姿は、120年生きて来て初めてだったな」
「おおう、突然のカルチャーショック」
唐突に『エルフ』感満載の台詞を叩きつけられ、僕は思わずクラっときてしまった。
そうか……イーラさん現在125歳か……
「その後アルミナは再び戦いの場へと戻り……
そして……『勇者』対『魔王』の戦いは………」
「『勇者』の勝利で、終わった………と……」
イーラさんの言葉に、僕が続けて答える。
「その後、兄は目を覚ました『里』の者から糾弾され、追放された。
しかも……私が『森』の中で負った傷を、『里』に魔法をかけようとした兄を止めようとして負った傷だ、ということにしたのだ」
「それって………」
イーラさんは、少し憂いを帯びた表情になった。
「残された私にいらぬ迫害が及ばぬように……私は『里』の為に兄に歯向かった、というストーリーを作ったということだ。
結局……私は最後まで誰かの世話になりっぱなしだったよ……」
「………………」
勇者様に助けられ……トリスティスさんに助けられ……
イーラさんは、自分の未熟さを思い知ったのだろうか。
まるで、かつてキュルルと出会った日の僕のように……
「ふん………これで私から話せることは全部だ。
これで、お前は納得したか?」
「まあ、はい……
ただ……もう一つ……」
イーラさんの故郷が勇者様達と『魔王』の決戦の場になったことは分かった。
イーラさんが勇者様のファンになった理由も分かった。
最後に僕が聞きたいことは……
「イーラさん……言いましたよね……
この『勇者学園』を、潰すって……
それは………一体、何故………?」
「…………………………」
僕と同じ様に勇者様に憧れているイーラさんが……
この『勇者学園』を潰そうだなんて……
「『勇者』とはなんだ?」
「え?」
突然、イーラさんが僕に向かって質問をした。
『勇者』とは、なにか……って……?
いきなり言われても……
あ、でも確か……この大陸では『勇者』というものは―――
「えーっと……我が国において『勇者』っていうのは、人類の持つ可能性『エクシードスキル』を開花させ、やがては並の人類を遥かに凌駕した能力『スーパー・エクシードスキル』へと―――」
「それだぁッ!!!」
「うえっ!?」
イーラさんがビッ!と指を差し、僕の言葉を遮った。
い、一体何……!?
「『エクシードスキル』だの『スーパー・エクシードスキル』だの……!!
そんなくだらないモノが『勇者』の条件などと!!
私は絶対に認めないッ!!」
「え、ええええ……!?」
イーラさんは今までの落ち着いた口調から一転、興奮しながら鼻息を荒げて叫びだした。
「あの日、私は真の『勇者』の姿を見た!!
アルミナは誰よりも強く!美しく!!気高かった!!!
あれこそが『勇者』だ!!!」
「あ、あの、ちょっと……」
イーラさんはベッドの上に立ち上がり、尚も猛る。
「何が『勇者学園』だ!!
『勇者』という名に釣られ、力も志もない俗物共も!!
『勇者』という名を俗物共を集める餌として使うこの場所も!!
私は!!絶対に!!認めないぃいいい!!」
―――ビュォオオオオオオ!!!
「ひぃぃぃぃーーー!!!」
両手を振り上げ、先程の黒い竜巻を部屋中に吹き荒ばせながら叫ぶイーラさんを前に、僕は身を屈めて悲鳴を上げる!!
いやちょっと落ち着いてぇええええ!!!
と、そんな恐怖体験を数分程味わい―――
「ぜぇー……ぜぇー……
故に、私は決心したのだ。
この場所を……叩き潰すと!」
何とか気を静めてくれたイーラさんが再びベッドの上に座りながら、そう締めくくるのだった。
まぁ、つまるところ……イーラさんはファンはファンでも、超過激派ファンという訳だったと……
「でも……イーラさんはこの学園のこと、どこで知ったんですか?」
「『勇者』と『魔王』との決戦が終わった後、兄との取引でお前達『外』の『人間』達は森の回復作業を行うことになったと言っただろう。
その作業に来ている『人間』から聞いたのだ。
近々、ふざけた『学園』が設立されるという話をな」
「ふん」という鼻息と共にイーラさんが答える。
なんかもうこの人にとって鼻息をつくのはもはや口癖……いや鼻癖?になってるなぁ……
「『里』の同胞達は『外』とは積極的に干渉しようとはしなかったが……事情を知る私は『人間』達と多少の交流をしていたからな」
「はぁ……なるほど……
あの、それで……」
僕はまた興奮状態にならないかと戦々恐々しながら聞いた。
「『勇者学園』を潰すって……
その……具体的に、何をするつもりなんですか……?」
まさか、言葉通り生徒や先生達を力尽くで叩き潰すつもり……?
僕が恐る恐るそう尋ねると……
「ふん……出来るものなら、そうしたい所だが……
他の奴らはともかく、コーディス=ジーニアスがいる以上は流石に無理だろうな」
イーラさんは腕を組みながら不機嫌そうな声を出す。
「アルミナ程ではないとはいえ……アレの実力は本物だ。
全く……アルミナの仲間でありながら、こんな場所を作るなど不愉快極まりない。
実力だけは認めているが……どうにもあの男は好きになれん」
「はぁ………」
どうやら彼女の好意は完全に勇者様1人だけに向けられており、他の勇者一行の皆さんには適用外のようだ……
「だから……正攻法で潰してやるつもりだ」
「正攻法……?」
「ああ」とイーラさんは不敵な笑みを浮かべる。
「私もこの学園の生徒として入学し……そして、俗物共に己の無力さを思い知らせてやるんだ。
聞けば、ここでは最初に生徒同士で模擬戦を行い実力を判断するらしいじゃないか。
実に都合がいい。
手始めに明日、私の模擬戦の相手となった奴らに土を舐めさせ、奴らに『勇者』の資格など毛ほどもないということを教えてやる」
「……………」
イーラさんが意気揚々と語るその『正攻法』に、僕は思わず眉をひそめてしまう。
「奴らの命に関わる程の怪我を負わせでもしない限り、コーディス=レイジーニアスも特に問題視はしまいよ。
あの男は冷酷ではないにしても、慈悲深い訳でもない」
「う…………」
僕は彼女の言葉を否定出来ずにいた……
コーディス先生のスタンスは『来るもの拒まず、去る者は追わず』……
少なくとも、彼女の言動を注意したりなんかはしなさそうだ……
「そしていずれは……この学園から生徒を1人残らず追い出してやる。
どれだけの時間が掛かろうが、必ずな」
それが……彼女が言う『勇者学園』を叩き潰すということ……
いくらなんでも、この学園の生徒全てを追い出すなんて無茶が過ぎると思うけど……
彼女の目は、決して揺らいではいない……
それに、ヴィガーさん達を傷一つ負わずに倒せる、確かな実力があることもまた事実……
この人は……この学園を………本気で………
「………………」
僕は、少しの間黙り込み……
そして、口を開いた。
「イーラさん、最後にこれだけは聞かせてください」
「――――?」
僕は、彼女の目を見る。
「貴方にとって……『勇者』とは、なんですか?」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※


反逆勇者の放浪記 ~人類から追放されて勇者を辞めた俺は、魔族の美人姉妹と手を取り合い、争いのない新しい世界を創る~
倉名まさ
ファンタジー
氷の大陸で魔王が目覚めてから十年。
人類と魔族との戦争は激化の一途をたどっていた。
物語の主人公、勇者マハトを中心に、人々は魔族に侵略された都市や領地を奪い返そうと戦いを繰り広げていたが、強大な力を持つ魔族相手に劣勢に立たされていた。
窮地を脱するため、マハト率いる勇者隊は今後の戦いを有利にする、とある街の奪還作戦を決行した。
決死の覚悟で街を取り戻そうとする勇者隊。
だが、彼らの戦いの裏では、別の計画が秘密裡に遂行されていた――。
地位も居場所も無くした一人の青年と、二人の姉妹が手を取り、
絶望の淵から見つけ出す一筋の希望の物語。
*主人公は人類規模で追放されますが、人類への復讐譚はメインテーマではなく、異種族(魔族)の姉妹との逃亡劇とラブロマンスを中心とした物語となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる